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第21歩:DECIDE

 夏雪さんの一喝により一斉に静まり返った大図書館。これが本来のはずなのだがそれを久しく取り戻したかの如く懐かしいものだった。あぁ、本当に沈黙って愛おしいよ。


「静かにしたのは良いがな、夏雪。それで、どうする訳だ」


 長い前髪を書き上げてため息をつきつつ仕切り直す時雨さん。もう少し睡眠をとれば女性の誰もが振り向く美男子になると思うんだけど。どうして寝ないのだろう。

 時雨さんはいつもこうなのかもしれない。誰かを突きはねるように距離を置いて、それでいて正確なとこをしっかり指摘する。そんな酷く悲しい生き方。


「時雨……、うるさい。そんなんだと話が進まないよ」


 今までぽつんと座っていただけの由愈が軽くたしなめた。その年であの時雨さんに意見するとはなかなかの度胸の持ち主だ。さてはて、時雨さんは女には容赦ないと分かったが子供にも容赦なく言葉を放つのか。これは結構興味ある。


「そう……、だな」


 そう言ってばつが悪そうに言葉を紡ぐのをやめた時雨さん。由愈は由愈で事も無げに座って眠そうに目をこすっている。

 あれ?

 あれれ?

 予想外だけど何か物足りないというか予想外なことが普通すぎたというか訳分からない心境に僕は陥っちゃってるんですけど。

 誰か一体どんなトリックで状況になったのか教えて欲しい。


「(時雨君はロリコンなんだよ)」


 戸惑い顔の僕に明さんがそっと耳元で小さく説明してくれた。榎凪という特殊性癖の人間が近くにいる分それであっさり納得。よくよく考えれば鵜呑みにすべきことではないし明さんの略式説明だったのは明白だったのだが、ややこしいことは今のところ考える気がしない。というわけで頭の中でしっかりと『時雨さん=ロリコン』と定着してしまった。

 反対意見の時雨さんは黙ったので大地さんがおもむろに声を出した。


「俺は秋宮に手を貸したいと思っているんだがみんなはどうだ?」


 大地さんが言うとなぜか重く聞こえる。実際命を賭す血生臭い戦いとなる可能性が高い重たい決断のはずだ。それをこうもあっさりと決めさせる決断力とそれに至る判断材料は何処から来るのだろう。

 大地さんの深淵を見透かすような琥珀色の瞳はどこか一点に固定され回答をひたすら待っているという様子。一見すれば何かを忌むように睨んでいるともとられかねないほど鋭い。飢えた獅子などでは甘いと評されんばかりに尖っている。


「大地さんに委ねます」


 最初の同意は夏雪さん。目を薄くつむり微笑みかけるように大地さんに向かいうなずく。


「ベリーベリーオーケー!!」


 続いて明さん。最早意味を成してない言葉だが同意としてとっていいだろう。笑いながら両手親指を上向きに立てて満面の笑みをなぜか僕に向けてきた。


「いいよんっ♪」

「賛成です」


 麻紀さんと鏡。そして、由愈が眠さが抜けぬまま首を縦に振る。三者三様の行程の仕方があって他意はなくおもしろかった。


「うん」


 短いが一番普通の回答をしたのは朝熊さん。居てくれるだけで癒してくれるこの人とは今後仲良くしておきたい。

 和湖さんは少し思案げに顎をさすった後、出会ったときと変わらない無機質な笑顔で一回だけ音も立てず消して早くはない動きで首を上から下におろした。

 これで八人があっさりと受諾してしまった。

 疑心暗鬼なのかもしれないがおかしすぎる。何か頭の隅に引っかかったような不自然な違和感。何処か演技じみている不可解な既視感。何時か裏切られると思っている不愉快な絶望感。

 明らかなまでに両方が持っている情報が少なすぎるのに簡素すぎる。淡泊すぎる。

 相手が確実に決定に値するだけの何かが裏にある。そう思えて仕方ない。


「選択の余地なし、か……」


 時雨さんが何拍かおいてから言った。多数決の原理で逆らいようがない。

 でも、

 何故か、

 時雨さんが言ったその言葉は僕に語りかけているように聞こえる。

 気のせいだ。

 僕にはよくある気のせいだ。

 そうやって一生懸命事実から僕は目をそらして榎凪だけに目を向けている。



 その時はまだ、

 判断するだけの材料なんて僕の手元にこれっぽっちもなかったとも知らずに。


長い間更新せずにいて申し訳ありません。

ひたすら短編を書いていました。もしよろしかったらどうぞ。『風の中でそっとつぶやく。』という小説で一応恋愛です。

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