第1歩:OUTSIDE-1
「ハコ」
静かに女は言う。
「はい」
それに応じて無感情に答える少年。
「ハコぉー」
さっきよりも間延びした口調で少年を呼ぶ中性的な美女。その顔に合わせたかのように女の声は中性的かつ、美麗な音色を現に紡ぎ出す。
「はいっ」
二度も呼ばれた為か声を少し強めよく聞こえるように声を高音に変える。少年特有の未発達顔立ちのくせして、不気味と言っていいほどの冷静さに加えあまり顔に感情が出ていない。そのためか、外見と雰囲気的な年齢が一致しない不思議な心地を覚える。
「ハぁーコぉー」
今や珍しくなった『作務衣』を着ているが、その合間から垣間見える華奢な体つきと胸の膨らみが女性認識させるに申し分ない。そのはずが完全なまでのフィット感を見せるのはなぜだろうか……
「はいっ!!」
度重なる無駄な呼びかけにムッときたのか、声を荒げて少年は返事をする。
漂う冷静さは薄れ、代わりに赤々とした怒りの感情を漂わせる。
そんな少年に突然、
「はこぉ〜」
「な、何ですか!?いきなり抱きつかないで下さい!」
甘ったるい口調で猫のようにじゃれつく女性に容赦なく少年は肘打ちを連発する。
そんな攻撃にもめげず――というよりより強く抱きつく。
そして一言、
「お酒買ってきてぇ〜」
甘えるような口調をかえずなついた猫のごとく体中をなすりつけて喉を鳴らす。
「ここらへんに酒屋がある訳ないでしょう!さっき一緒に回ったばかりじゃないですか!?」
「またまたぁ〜、そんなこと言っちゃってぇ〜」
心底甘えきった女性の言動は少年を毎日のように困らせている。女性はそれはそれで楽しんでいるようだが。
だが生き物とは慣れる。聞き慣れた言葉を右から左へと受け流すということを覚えるのだ。
この女性――秋宮 榎凪の発する綺麗な声で紡がれる言葉に少年は、
「聞く耳持たん」
と言ってひたすら耐える。これも毎日のように見かけられる根比べ。
「だいたい……あれだけ買い込んで置いたのに一朝一夕で飲み干したのはあなたのせいじゃないですか。自業自得です」
呆れたようにため息混じりに言うと予想通りと言わんばかりに即時に言葉が返ってくる。
「もう、そんな強気な言葉つかっちゃってぇ〜。そんなところに萌え萌え!!」
頬ずりしてくる榎凪に少年はいつも通り罵声を浴びせた。
「えぇ〜い、寄るな!ショタコン!腐女子!いや、腐婆!女子という年では無いだろ――」
いっそう強くなった頬摺りで最後までいえるはずなどなくひたすら引きはがそうと試みる。
「そんな、ハコにもやっぱり萌えぇ〜!」
少年はこんなことされるぐらいなら素直に酒を買いに行こうと思い、あらがうのを弛めするりと榎凪の手を抜けると部屋のドアの前まで逃げた。かなり必死の形相だ。
少年はこんな毎日は辛いと思いつつも楽しんでいた。
はじめまして西宮 東です。初めて書いた小説なのでおもしろいかどうかの保証はできませんが、お時間あればこれからもお目に留めて下さい