5.能力発揮
やっっと能力が利用されます。
ブロント・エレルッサ・ヴェ=クリスチャール(クリスチャール侯爵)が、子ども、特に孤児の生活環境と識字率の低さを解消するために孤児院をつくった。当時の孤児院では、職員による補助金の横領や、体罰や虐待、最悪は人身売買が行われていた。それらが一切できないように、クリスチャール侯爵自身が院長となり良識ある人間を職員として雇い、運営を行った。その結果、クリスチャール孤児院では、孤児の生活環境が良くなった。そして、学費も出されたことから、優秀な人間が多く排出されることになり、このような優秀な人間は、孤児院の運営や、侯爵家・国家の支えとなった。
現在では、クリスチャール孤児院を支援する者や、新たに良い孤児院が増えているが、孤児院ができた当初は経済状況が少し苦しかった。そこで、学費にお金をかけるために、できる限り自給自足していこうということになった。
今でも、クリスチャール孤児院には菜園があり、必要最低限の野菜が作られている。掃除などの家事や農作業は当番制である。5人で1グループがつくられ、6~7歳になると各グループに入れられることになっている。農作業は、平日は水遣りのみで、休日に畑を耕したり肥料をまいたりしている。
このような経緯で、院の経営を助けるための勤労は奨励されている。
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太陽が照りつける中、マリスは大きな麦藁帽子をかぶり、シャベルで作物を根ごと収穫している。
シャベルの大きさは、はっきり言ってマリスの身体にあっていない。しかし、それが苦になっていない様子で、自分の背丈ほどもあるシャベルで黙々と農作業をしている。
「マリスはよくはたらくなぁ~」
大人でも根気のいる作業を黙々と続けるマリスに、グループリーダーのディールは感心していた。
現在、マリスはディークのグループに所属している。
通常、グループに入るのは6~7歳からになる。しかし、ちょこまかと他の人の手伝いをしているマリスを院長が目撃し、急遽グループに入れられることになった。小さな子どもに一人で動き回られるより、グループの監督の下のほうが、安全だと判断したからだ。
今、マリスが収穫している作物は、乾燥させた根をすりつぶしお湯で溶かすと暖かい飲み物になる。しかし、この根は土にしっかりと定着しているので、収穫するのはとても力が要り重労働である。
もちろん、小さな子どもができる作業ではない。
マリスの場合は『どんな植物でも栽培できる技術と力』という能力の『力』によって可能としている。つまり、植物を栽培するための腕力などが能力によって付加されているためである。しかし、この『力』は、農作業以外では発揮されない。普段は非力な子どもである。
農作業のとき、いきなり怪力を出すと不自然なので、マリスとしては、少しずつ…少しずつ……能力を発揮していったつもりだったが……やはり、不自然なものは不自然である。
それでも、ディールもグループのメンバーも何も言わないのは、もう見慣れてしまって景色同然になっているからである。
「「「だって、マリスだから」」」
この一言ですべてが片付けられてしまうのだ。
最初に、マリスがいる孤児院の成り立ちをのせました。
11月23日 改訂しました。