31.一足遅かった
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「ローブ完成したわよ!」
マリスたちが、カルドーラの店に行くと、店の前にカルドーラが待ち構えていた。
「ありがとう!カル姉。」
「早速ですが、見せていただいてもよろしいかしら?」
「……見たい。」
三人とも、とにかく早く見たいようだ。
「もう、三人ともせっかちね」
カルドーラはウフっと笑うと、三人を店の中に案内した。
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開店前の店の中には、マリスたちのローブがつるされていた。
「一番左のは、ロゼのね。希望通り、両袖に薬品とかが染み付かないように、吸収阻害剤で染めておいたのよ。」
全体的にデザインはあまり変わっていないが、肩から袖にかけて、ロゼのローブはラメがついたようになっていた。
「中央のが、ミゼルね。ミゼルのは、上と下を分けて上の部分を内側から補強してあるのよ。下はスカートになっているのよ。」
ミゼルのローブは、カラクリ作成のときに袖がすれたり、破片が飛んだりするかもしれないので分厚くなっている。下のスカートは、ホコリがついてもすぐに払えるようになっていた。
「一番右はマリスのね。マリスのローブは見た目、普通のドレスだけど、袖がはずせるようになっているのよ。」
マリスのローブは、「寒暖の調節ができるように」というマリスの希望にあわせて、袖がはずせるようになっている。接続部分は見た目では分からないようになっている。見た目が普通のドレスのようにスカート部分がふんわりしているのは、スカートの下に乗馬用ズボンをはいても分からないようにするためである。
「思って以上の出来ですわね!」
ミゼルは、上着の部分を触っている。
「スカートの部分がかわいいわ。」
マリスは、スカートの部分をひらんと広げている。
「使いやすそう。」
ロゼは袖口を引っ張っている。
「三人とも、サイズはぴったりね。これでいいみたいね。お代は材料費だけいただくわよ。」
「これだけのものをつくってもらったのですから、きちんとお渡ししませんといけませんわ。」
「そうよ、カル姉。開店準備で忙しいときでしょう。」
忙しい開店準備中に、急いでつくってもらったのだ。いくら知り合いの頼みで、ミシンがあってもタダ同然では、割に合わないだろう。
「そのかわりに、学院で軽く宣伝してほしいのよ。この場所ね、一応学院街の中だけど、ちょっと学院から遠いじゃないの。まあ、王宮から比較的近いからいいんだけど、いくら私の斬新なデザインっていってもポッと出来たばかりの庶民の店には、貴族の人は来ないしね。だから、宣伝を頼みたいのよ。」
学院には、貴族の家の者や富裕層のものが多い。そこで知名度が上がれば、後々の上顧客になるに違いない。
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「あれ?ミゼルは?」
マリスたちがカルドーラの店を出てからしばらくした後、ライゼルが店にやってきた。
「さっき、帰ったわよ。一足遅かったわね。」
カルドーラはテーブルで、紅茶を飲んで一服していた。そこへ、ライゼルがずかずかと大股で歩いてやってきて、カルドーラの肩をがしっとつかんだ。
「どうして、引き止めてくれなかったんだ!」
「こ、紅茶がこぼれるわよ!」
ライゼルは、つかんだカルドーラの肩を思いっきり揺すった。すると、案の定カルドーラが飲んでいた紅茶がこぼれて二人の顔や服にかかった。
「すまない。」
ようやく、ライゼルは我に返ったようだ。
「もう!これ、一張羅なのよ!」
そう言っているが、カルドーラの服には紅茶が全く染み込んでいない。
「あまり、服に染み込んでないな。……これって、この間頼まれた、特殊染料で染めたのかい?」
「ええ、どれくらい染まるか成功するまで染めてみたのよ。これは失敗だけどね。」
ロゼのローブに使われた染料は、特殊で一般人が手に入れられるものではない。そのため、ライゼルに入手を頼んだのだ。ライゼルが直にミゼルに渡し、ロゼが使用すれば規定違反になるが、この場合は違反にはならない。
「失敗って……さっき一張羅って言ってたじゃないか。まあ、僕も染料については専門外だからどれくらい効力があるかわからないけれど、これで『失敗』なのか?」
「ライが持ってきてくれたのが、最高級の物だったからよ。普通のは、飲み物を弾く程度よ。出来上がったローブの方はもっとすごいわよ。……いくら、ライでもよく手に入れられたわね。」
「大事なミゼルの友人が使うものだからね。間違って、友人がケガしてミゼルが悲しんだら大変じゃないか。」
ライゼルの世界の中心には、いつもミゼルがいる。
「もちろん、ミゼルやもう一人の子に用意した材料も最高級のものだけどね。」
「ライが材料を用意したって感付かれないために、材料費って言って少しもらったけど良かったの?」
カルドーラは、ライゼルと自分に新しい紅茶を入れながら聞いた。この国の紅茶は茶葉を発酵させたものではなく、『紅茶』という茶の品種である。初めから、葉が赤くなっているものを収穫する。
「ああ、あんまりべったりすぎると、最近ミゼルが過保護だって言っていやがるんだ。だから、最近は自重しているんだ。お兄ちゃんは悲しいよ。」
ライゼルは今でも十分シスコンだ。そのあたりにライゼルは全く気づいていないことが非常に残念である。
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―――翌日、ローブの改造期限の日、教室には色とりどりのローブで溢れていた。背中の紋章を傷つけなければいいという条件なので、さまざまな形のローブがあった。
極端なものでは、丈が紋章の部分までしかなかったり、色がはげていたり、首が鳥の羽で飾られていたりという感じである。
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「えー、では、課題のローブの確認を行う。ワシの前に一列に並ぶのじゃ!」
教授が教室にやってきて開口一番にそう言うと、皆適当な順に並んでいった。
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かなり時間はかかったが、全員何とか課題の確認が終わった。
中には、規定違反のもの(紋章が漂白剤ではげてしまっている、自前の使用人に鳥の羽をつけさせた、学院街の外の職人に委託した、等)があったが概ね全員合格だった。
主人公マリスやミゼルの口調が難しいです。
マリス→貴族風の口調
ミゼル→箱入り貴族
ロゼ→基本無言、単語で話す。
ライゼルのほうがよく動いてくれます。