29.ミゼルの兄
――次の日
「フィ~リ~カ~!会いたかったよ~!」
なんだか変なものが、カルドーラの店の前に居た。
首からゴーグルのようなものをぶら下げていること以外は、普通の成人男性に見える。
言動を気にしなければ。
『フィリカ』はミゼルのセカンドネームなので、ミゼルの知り合いなのだろう。
「お兄様、なぜここにいらっしゃるのですか?」
「もちろん、フィリカに会いに来たからさ!」
どうやら、ミゼルの兄らしい。
マリスもロゼも引いてしまっている。ミゼルはあきらめたような顔をしている。
「カルドーラから、フィリカが来るって聞いてね。居ても立ってもいられなくなってきたわけさ。」
すると、店の中からカルドーラが出てきた。
「店に来た(・・)って言ったら、無理やり喋らされたのよん。」
ミゼルの兄の後ろで、カルドーラがボソッと言ったが、ミゼル兄には聞こえない。
「それよりも、フィリカ!どうして、お兄様に内緒で技術院に編入してしまったのかな?技術院はむさくるしい男の巣窟だ!かわいいフィリカが心配だよ。」
「芸術院は真っ黒な女の巣窟でしたわ、お兄様。あんなところもう十分ですわ。」
「何があったんだ~?フィリカ。」
二人の会話は止まりそうにない。
(うっわー。リアルシスコンがいるよ。はじめてみた。それにしてもミゼルは、芸術院に居たけど、こっちに入学しなおしたのかな?)
完全にマリスたちは傍観に徹していた。
「二人とも。店の外で立ち話してないで、入ったらどう?」
カルドーラが提案して、店の中に入っていった。
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「ついつい、興奮してしまって失礼したね。僕は、フィリカの兄のライゼル・ロマン・ロランジュだ。二人とも、ウチの妹をよろしく。」
店の中で一息ついた後、自己紹介をされた。
「こちらこそ、ミゼルにはお世話になっています。あの、荷物を運ぶカラクリはとても便利ですね。」
出された茶を飲みながら、マリスが言った。
「今度、ウチから売り出す新商品なんだ。小型化が難しくてね。苦労したんだ。」
苦労したと言いながら、商品を褒められてライゼルは笑っている。
「その、首からかけているの何?」
ロゼがライゼルの首にあるゴーグルを指差す。
「ああ、これは、目を保護する機能もついている拡大機だよ。いつも、つけれるように首にかけているんだ。」
ライゼルが答えた。
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マリスたちは、ライゼルとカラクリについて話をした。ライゼルも落ち着いて妹のミゼルと話をすることができた。どうやら、ライゼルはマリスが自分に相談なしに技術院に行ってしまったのが気に食わなかったらしい。
「さあ、ライはここまでよ。今から、出来上がったデザインの打ち合わせにはいるから、ライはもう帰ってちょうだい。」
話がひと段落ついてところで、カルドーラがライゼルを追い出しにかかった。
「仲間はずれか?僕だって、フィリカのデザインが見たい。」
「ライは、ミゼルのデザイン案を見たら、アレコレ文句つけるでしょ。出来上がって、着ている姿を見た方がいいんじゃないの。後のお楽しみってことでね。」
ライゼルは納得していないようだったが、しぶしぶ店を後にした。
「フィリカ~。また、できたときに会いに行くからね~。」
マリスたちの姿が米粒大になるまで、ライゼルはブンブンと手を振っていた。
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「さあ、これが考えたデザインの案ね。」
それぞれのデザイン案をカルドーラがテキパキと並べていく。
「細かく、考えてありますわね。」
とミゼルは感心した。
「カル姉、私はこのデザインでいいわ。」
とマリス。
「左の袖も同じにしてほしい。」
とこれは、ロゼの意見だ。
三人とも、ほぼ満足のデザインらしい。
「じゃあ、三人とも二日後に取りに来てちょうだい。」
三人は、カルドーラにローブを預け、店を後にした。
ようやく、ミゼル兄のライゼルが登場。
でも、初登場ではありません。
現在、建国史(王国史)を考え中。
簡単な歴史です。
できたら、技術院の講義の中に出てくるかもです。
※4月6日に誤字修正を行いました。