28.ロマンス・グレード
話が進まないのであります(´Д`)
デザインの確認のため、カルドーラとまた次の日に会う約束をした。
次は、本の購入である。
学院街の北に直線に走るロマンス・グレード通りがある。ロマンス・グレード通りは別名『書庫通り』と呼ばれていて、古今東西あらゆる書物が集まっている。
カルドーラの店は、学院街の南西に位置しているため、それなりに距離がある。しかし、今日本を買わないといけない理由がある。――学院のローブを着ていると、本が1割引きで買えるからである。学院の生徒は、将来お得意様になる可能性が高いためだ。本格的な講義がはじまるのは、5日後でまだ猶予がある。でも次の日では、カルドーラにローブを渡してしまうため、実質的に今日しか1割引きにならない。大貴族や大商家ならともかく、伯爵と子爵の中流貴族であるマリスたちにとって、倹約は必要なのだ。
「一度、寮に戻って良いかしら?」
ふと、思い出したようにミゼルが言った。
「学院を通過するから問題ないわ。」
「いいよ。」
二人の了承を得て、ミゼルは寮に戻った。
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寮から出てきたミゼルの手には、金属の骨組みに布がついたものが三つ抱えられていた。
「おまたせしましたわ!」
ミゼルは軽く息を切らせていた。
ミゼルは折りたたんであった骨組みを開き、布を膨らませる。すると……どこかで見たことがあるようなものがあった。
(前世で、おばあさんとかが良く引いてるカートだ!)
「これは、この布の箱の部分に荷物を入れて運ぶためのカラクリですわ。車輪の部分に小型のカラクリがあって、腕に負担がかからないように作られていますの。我が家の試作品ですので、お渡ししますわ。使った後、感想をくださいな。」
つまり、このカートのモニターになってほしいということだろうか。
「この中に本いれるの?」
ロゼが珍しそうに眺めている。この世界では、同じ車輪付きでも、一輪車のような大型のものはあるが、旅行用のケースのような小型のものはまだ無かった。
「ええ。この布は耐水性で丈夫に作られていますから、大丈夫ですわ!」
自信満々にミゼルが答える。
マリスも、長距離本を持って歩かなければいけないと思っていたので、大歓迎である。
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必要な本は、ロマンス・グレード通りですべて手に入れることができた。本をミゼルからもらったケースに入れて、寮への帰路に就いた。
「ロゼ、マリス、このカラクリはどうでしょう?」
寮へ着くと、さっそくミゼルが感想を聞いてきた。
「車輪が2つじゃなくて、4つの方が良い。それか、車輪がついていないほうは、何か板をつけてほしい。倒れそうになる。」
これは、ロゼの意見である。
「布のふたの部分に、小さな鍵がほしいわ。それと、方向転換がしやすいように、もっと車輪が回転するといいと思う。」
これは、マリスの意見だ。
「ありがとう。二人とも助かりますわ!」
ミゼルは、二人の意見を一生懸命メモしていた。
「ミゼル。これは、誰が作ったの?」
ロゼが疑問を口にした。
マリスも気になっていたところである。
「兄ですわ。」
「素敵なお兄様ですね。あってみたいですね。」
マリスがそういうと、ミゼルがため息をついた。
「会いに行かなくても、明日会えると思いますわ。」
……ミゼルはどこか遠い目をしていた。
ロマンス・グレード通り→始まりはロマンス小説が大好きなグレード婦人が、自分の好きな小説を広める(布教する)ために作った店だと言われている。店の人気に引き寄せられるように書店が集まったとされる。
おそらく、この設定は本編で出てきません。
次回、あの人が登場します。