23.寮案内(2)
1階の共有スペースの説明の後、マリスたちは4階に案内された。
「一年ごとに寮の部屋が変わります。一年生から順に4階から降りていきます。どの階も中央の入り口から見て、左側が女子寮、右側が男子寮となっています。ちょうど、1階の浴室と同じです。女子寮と男子寮は中央でつながっていて、中央が談話室になっています。女子寮、男子寮のどちらに行くにもこの談話室を通ることになります。もちろん、災害時の非常用の脱出路はありますが、基本的な出入り口は男女共通になっています。」
「ちなみに、女子寮・男子寮の入り口にはそれぞれ精神力認識装置がついているから、誰かに招かれない限り(・・・・・・・・)侵入はできないからね。」
リリエンの説明の後に、ハリソンが付け足した。
「ハリソン……。調子に乗って余計なこと言わない。」
「可能性の一つだよ。姉さん。」
誰かが手引きすれば入れてしまうのだ。しかし、すぐに見つかってしまうだろう。
見つかった場合のリスクを考えれば、入らないほうが得策だ。
「もちろん、各部屋も精神力認識装置があり、扉がしまると鍵も閉まるオートロック式なので、安全に研究成果を隠すことができます。」
精神力は指紋と同じように、個人によって波長が異なっている。精神力認定装置は、この性質を利用し20年位前に開発されたシステムだ。特殊な鉱石に精神力を流すと30秒ぐらい波紋が出る。この波紋と登録した精神力の波紋が一致すると、扉が開く仕組みだ。また技術院なので、あまり使用されていない最新鋭のカラクリであるオートロックがある。
「何か、質問はありますか。……無いようでしたら、男子・女子に分かれて寮内部の案内をしたいと思います。」
手を挙げそうになっていた人が居たが、軽くスルーされた。
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「では、女性の皆さん。これから、精神力の登録を行います。くれぐれも誰か、特に他の寮の男性を引き入れたりしないように。では、まずミゼル・フィリカ・ロランジュさんから。」
クルクル巻き毛の人が前に出てきた。あのスピーカーを寮長から取り上げていた人だ。
ロランジュ家といえば、日用品などの小型カラクリで有名な家である。名前からも分かるように、オランジュ家とは親戚に当たる。
「次は、マリス・カトリーヌ・シュタインさん。」
マリスは、手を鉱石の上にのせて精神力をこめる。すると、波紋が浮かび上がった。
「あら、ちょっと珍しい形をしているのね。じゃあ、次のロゼ・オールディー・ローズさん。」
精神力の波紋が少し変わっているのは、マリスに前世の記憶があるからだろうか?しかし、精神年齢が変わっても、精神力の波紋は一生変わらない。
波紋を気に留めるのは、一瞬ですぐに次のロゼが呼ばれた。
ロゼの名前が呼ばれたとき、周りが一瞬静かになった。
ロゼの精神力の認識が終わったあと、残りの2人――ヘルティ・エリサン・ヒルザイトとミリー・ハイランの認識が行われた。第一希望がシィーラ寮ではない……つまり他の寮から移された2人である。
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「全員の認識が終わったわね。はいるときは、入り口の石に手を当てて精神力を送り込めば開くわ。」
リリエンの口調が少しずつ崩れてきている。これがきっと彼女の素の話し方なのだろう。
中に入ると、すぐにリリエン作のくじを引いた。
これで、部屋割りが決まるらしい。
「部屋の場所も決まったことだし、中の説明をするわね。ここには、掃除の人はいないから週1回自分たちで掃除してね。部屋の中については見れば分かるから、説明は抜きね。質問があったら後で聞いて。一番奥の突き当たりの部屋が洗濯機兼乾燥機があるのよ。」
ずんずんと進んでいくリリエンの後を、マリスたちはあわてて追った。
「これよ。」
リリエンたちの目の前には巨大なロッカーのような箱があった。
「この中のハンガーに衣類をかけて、スイッチを押して一時間後に洗濯と乾燥が出来上がっているわ。あまり知られていないカラクリで、まだこのシィーラ寮にしかないのよ。ちなみに、あの寮長の最高傑作よ。これをつくったから、彼は寮長になれたの。」
すごいとマリスは思った。
まだ、このカラクリがどれくらいの洗浄力と脱水力を持っているか分からない。しかし、前の世界でもハンガーにかけたままできる洗濯というものは無かった気がする。(マリスが知らないだけかもしれないが。)
「ここに衣類が置きっぱなしだと、次に使いたい人が困るから早めに片付けてね。非常口は、この洗濯室の横についているこの扉ね。いつもはしまっているけれど、非常事態になると勝手に開くから安心してね。」
リリエンは話しながら、洗濯室の外に出て行く。
「次は、各部屋の精神力の認識ね。誰も使っていない部屋は、勝手に使っていいから。あ、でも掃除はきちんとしてね。」
入り口と同じやり方で、精神力を認識していく。
「じゃあ、全員分終わったわね。質問は無いわね。あったら後で聞いてね。……私、今作りかけの作品があるのよ。」
こうして、リリエンによるざっくりとした女子寮案内は終わった。
一応、これで寮案内はおしまいです。
途中から急ぎ気味なのはすべてリリエンのせいです。