20.常識問題
コメの特許申請は、これまたあっけなく通った。マリスは、申請が通るのはもっと大変だと思っていた。
なぜなら、『単子葉類はすべて雑草』と思われているこの国で認められるとは思わなかったのだ。
シュタイン家初代当主も、一応双子葉類の麦もどき『マギ』を食用として認められるのに苦労したようだ。この国の人から見たら、雑草のようだったのだ。
申請がすんなりとおったのは、シュタイン家の力が大きい。これから、人々の生活に浸透させるためには、マリスの一層の努力がかかせないだろう。
このように、世界が変われば食料も含め考え方も変わる。
前世の記憶があるということは、この世界よりも進んだ知識を生まれながらに有していることになる。
この世界の人々が発想し得なかったことを発想し、発展させていくことができるという利点がある。
反対に、マリスが前の世界の常識を無意識に引きずっているために起こりうる欠点もある。
今、現在マリスの目の前にあるレアンデールのテストがそれだ。
数学・生物・物理(ちょっと難しい)・言語はまだいい。
数学の知識は前の世界のものが使えるし、生物の中でも植物学はシュタイン家の十八番だ。物理は、カラクリの技術が進んでいるため難しいがなんとか解ける。言語はこの世界で生まれたときから必死で頑張ってきた。
しかし、向こうの世界で『現代社会』『倫理』と呼ばれるものがかなりきつい。
前の世界の知識が邪魔をしてくる。
(ああー。なんでここでつまづくかな~。前の世界のセンター試験の現代社会は簡単だったのに。)
前の世界の知識を押さえつけ、必死でテスト勉強によって叩き込んだ知識を思い出す。
(もう、困ったときはコレね。カンしかないね。)
開き直りはとても早かった。
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試験の1.5ヵ月後・・・
結果発表の日がやってきた。
「おじょ~さまぁ~!」
いつもは、貴族の使用人らしく上品に振舞っている洗濯兼掃除担当のオメガがレアンデールからの封筒を抱えて走ってきた。
オメガに少し遅れて、料理兼掃除担当のオクトもマリスの部屋に到着した。かなり慌ててきたのか、手には食器の洗剤がまだ付着した状態である。
マリスは、封筒を手に取りペーパーナイフで封を切った。
オメガとオクトは、マリスの手にしている封筒を覗き込みたくて仕方なかったが、我慢してマリスの発言を待った。
……。
…………。
マリスの表情が固まっている。
「あの、おじょうさま?」
オメガが我慢できなくて、声を発した。
「合格してたわ。びっくりした。」
双子のメイドは、一瞬息を止めて言われた言葉を反芻した後、満面の笑顔になった。
「「合格ですか!?おじょうさま」」
異口同音で、息がぴったり合っていた。これが双子マジックか。しかし、それからの行動が異なっていた。
「さあ、お嬢様。今日は、料理によりをかけてつくりますね。」
オクトは下がってきた袖を、洗剤のついた手でまくり上げ気合を入れた。
「いけない!知らせないと!」
といって、オメガはこの国の放送マイクのようなものである呼びかけ鈴に駆け寄った。
(嫌な予感がする。まさか、それで放送流すんじゃないよね?)
オメガはドカッと広げた手のひらを乗せ、放送範囲を屋敷全域(最大範囲で庭も畑も含む)に指定した。
「おじょうさまが、レアンデールに合格いたしました!!!!!!!!!!!」
反響して耳が痛いとマリスは思った。
この声の大きさなら、屋敷どころか通りにも響いているだろう。
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今日の晩餐は、オクトの宣言どおり豪華だった。
メインディッシュにはマリスがアイガモ農法で使用したアイガモもどきの丸焼きが出た。
(うん、少々ぱさっとしているけれど香ばしくておいしい。)
いつもより料理を堪能していると、イピサが深刻そうな顔でマリスに話しかけた。
「マリス、合格おめでとう。レアンデールは全寮生だから、家にはたまにしか戻ってこれなくなるわね。」
「ありがとうございます。ここからレアンデールは近いですから、休日には戻ってこれますよ。」
「無理はしないでちょうだいね。話は変わるけれど、このシュタイン家の蔵書には、ここにしかないものがあるの。貴重な品だから、絶対他の人に貸してはダメよ。教授関係は絶対ダメよ。平気な顔で自分のものにしてしまうんだから。特に、『我の冒険記』の存在を狙っている輩がいるから気をつけなさい。」
「はい、おばあさま。絶対貸したりしません。」
見せられるはずがない。
『我の冒険記』は、初代シュタイン子爵の冒険記である。
ここに一部分を紹介しよう。
『・今日は、木の皮をむしってたべた。焼いてたべたらおいしかった。
・草原に入ったら、変な実がなってた。とげとげだったけどむしってたべた。からかったので、近くでとおりかかって人に食べてもらった。(無理やり)
(中略)
・変な単子葉類もどきを見つけた。そのままたべたら、まずかった。こなにして水でこねてから焼いたらおいしかった。たくさんつくっておいた。種子をとって、家で育てることにした。
(中略)
・歩いていたら、人がいっぱい居た。単子葉類もどきからつくったものを取り出してたべた。ウーガにくらべてまじでうまいよね。あーおいしいーっていってたら、身なりのいいひとがやってきた。ひとのぶんをたべちゃった。』
ちなみに、単子葉類もどきの話で出てくる、身なりのいい人とは当時戦っていた後の初代グレントリーズ国王である。
世間一般に知られている話は『ウーガのまずさと食糧の不足に苦しんでいた、後の初代国王の軍にやってきたシュタイン氏が無償で乾パンを配布した』という美談になっているが、この日記では異なっている。
シュタイン氏は、戦乱が起こっているのに、マギの乾パンを袋にいっぱいつめてのんきに冒険していた。国王軍が空腹と戦っている前でマギの乾パンで優雅に昼食を食べていたら、乾パンを後の国王に袋ごととられた……というのが史実らしい。
王家にとってもシュタイン家にとっても知られたくない内容である。
たしかに、『我の冒険記』は重要な資料かもしれないがとてもじゃないが人には見せられない。
次回、友人その2の出演を予定しています。
なるべく、間をあけないようにがんばります。




