12.変な虫
マリスがシュタイン家にやってきてから、20日が経過した。
これまでで、マリスが分かったことは挙げてみる。
・イピサ(シュタイン子爵)の外見は、ハ〇ジのロッテンマイ〇ーさんの年齢を上げた感じだが、中身はかなりやさしい人物であること。
・執事のセバスのフルネームが『セバス・クルスチャン』であること。(真ん中のクルスを抜くと、セバスチャンになる。)
・執事のセバスは、神出鬼没であること。(いつのまにか出現している。)
・2人のメイドさんは双子であること。(二人とも結婚暦はあるが、不幸にも夫が死去している。そのため、以前はたらいていた子爵家でもう一度再就職している。)
・色黒で引き締まった肉体をもつ門番(兼馬車の御者)のジョンソンは現在、35歳で、子爵家には20年くらい前から仕えている。
・子爵家の使用人たちは、一癖もふた癖もある人物だが、マリスには異様にやさしい。
・屋敷の畑は現在荒地だが、生活に困っているわけではない。(ただ、時間がないだけ。)
情報の習得や分析は、時に大きく状況を左右する。
そのため、マリスは前世のときから、気づいたことをすぐに何かに書き込むことにしていた。
今も、分かったことを日記に日本語で書いている。これが、とてもいい暗号になるのだ。
でも、明日から、日記をゆっくりつけている時間は取れないかもしれない。
……家庭教師が来るのだ。
通常7~8歳になると、初等院に通うことになる。いわゆる小学校である。
初等院が5年あり、その後中等院が2年、高等院が3年、そして研究科が1年以上ある。
初等院から高等院までを一般的に『学院』とよぶ。
初等院と中等院には、国から助成金がでているため、誰でも通うことができるし、通う義務もない。そのため、貴族は、屋敷に家庭教師を呼ぶ場合も多い。
しかし、中等院卒業または中等院認定試験に合格しなければ、高等院に進学できないし、まともな職業につくこともできない。中等院卒業レベルは、最低限の教養なのだ。
このような理由から、一般庶民は学院に通う。そして、初等院から通う貴族も多い。中等院卒業には試験はないからだ。
だから、マリスはイピサに聞いてみた。
「おばあさま、私は初等院に通わなくていいのでしょうか?」
「あなたには、しっかりと知識を身につけてもらうために、家庭教師を呼びます。初等院に通っている暇はありませんよ。」
実は、孤児院の仲間たちから、初等院の楽しさを聞いていたので、期待していたのだ。
初等院では、読み書き・計算などを中心としている。毎日午前中で終わるのだ。
貴族の家に呼ばれるほどの家庭教師は、研究科に所属したことのある人間であることが多い。研究科は、文字通り研究者のためのものである。所属する年数は自分で決めることができる。しかし、国でも一握りの人間しか入れない。
そんな人を雇うのは、金銭に余裕があっても経済的によくないのではないか……とマリスは思った。
そこで、マリスはたまたま見かけた庭師(兼警備員)のおじいさんに聞いてみた。
「どうして、すごく、お金がかかるのに家庭教師なのかしら?私は初等院でいいのにな。」
あくまで、無邪気な子どもを装ってみた。
体は子ども、頭脳は大人というのは、結構大変である。
「そりゃぁ、かわいいお嬢さんに悪…じゃなくて、変な虫がつかないようにしてるんじゃないですか。」
「変な虫ってなぁに?」
「つくとやっかいなもんです。」
「そうなの。」
貴族もいろいろ大変なんだなとマリスは思った。
変な虫は、悪い虫のことです。
はっきりいって心配しすぎですね。
今日気がつきました。
マリスって、コナンみたいに、体はこども、頭脳は大人なんだなって。