11.精神力
マリスが、シュタイン家に養子にやってきてから、すぐにドレスなどの衣類などがそろえられた。部屋の内装については、すでに準備が行われていたらしい。
2人のメイドさんによってあっという間に採寸が行われた。お針子さんに採寸から依頼すると高くなるらしい。
それから、マリスはシュタイン子爵と執事のセバスに連れられて、屋敷内見学に行くことになった。
掃除担当のメイドさんが2人しかいないのに、屋敷内は塵一つ無くきれいだった。
マリスの部屋、食堂、大広間、浴室、図書室などに案内された。図書室は生物、特に植物に関する蔵書が多く、王宮の図書室にも引けをとらない。
マリスは案内されていくにつれ、気がついた。
(誰かに用があるときは、どうしたらいいんだろう?)
大問題である。ただでさえ広い屋敷の中、目的の人物を捜し求めていては日が暮れてしまう。しかも、使用人が少ないため、誰かに遭遇する確率も低い……屋敷内で迷子になったらおしまいだ。
そして、聞こうとしたらもう一つ問題が発生した。
(なんて、呼べばいいんだろう・・・子爵とは、もう呼べないし。)
シュタイン子爵の呼称である。
マリスは、子爵家の人間になったので、もう『シュタイン子爵』と呼んでは、よそよそしすぎる。
「イピサ様、誰かを探すときはどうしたらよいでしょうか?」
苦肉の策で、使用人たちが、子爵のことを『イピサ様』と呼んでいるので、そうしたのだ。
「呼び方は、『おばあ様』でいいですよ、マリス。誰かを呼ぶときや伝えたいことがあるときは、部屋の隅にある、『呼びかけ鈴』を使いなさい。」
子爵はマリスの苦肉の策を察してくれたらしい。
マリスは、このとき『呼びかけ鈴』の存在を知らなかった。
「呼びかけ鈴は、どの部屋にも、隅のどこかにあるわ。呼びかけたい屋敷の区域のボタンを押して選択してから、台の中央部分に手のひらを置いて精神力を流し込むの。そうしてから、マイクで伝えたいことを話すと、声が選択した区域だけに増幅されて届くわ。」
「精神力はどれくらい流しますか。」
「気持ち程度で十分よ。もし、精神力の使いすぎで枯渇してたら、隣の呼び鈴を鳴らすのよ。」
「わかりました。」
(この世界にしては、なんと便利な!放送みたいね。)
便利だと思ったが、実はマリスは精神力の扱いが苦手である。不得意というわけではない。
体の中の精神力の流れを読み取らないと、精神力は使えない。
気功の気の流れを読むようなものである。
流れを読むことは簡単にできたが、精神力を流し込むときの、『ぞわっ』という感覚がマリスにとっては、気持ち悪い。これは、人によって個人差があるらしい。精神力が使えないと、この世界ではやっていけない。
屋敷見学から部屋に戻ると、すでに2~3着の屋敷内用のドレスができていた。
(どれくらい、お針子さんたちを急かしたんですか!?)
マリスがおもわずつっこみを入れるくらい、メイドさんと依頼したお針子さんたちは優秀だった。
執事のセバスの名前ですが、
「執事といえば、セバスチャン。でも、安直すぎるから『セバスチョン』にしよう!」
と思ったんですが、さすがにやめました。
この世界には、ミシンがあります。
精神力を流し込みながら使います。ミシンを長時間稼動させるためには、それだけ精神力を使用します。
稀に枯渇しますが、一晩寝ると、ある程度回復します。