8.おばあさん
この国のほとんどの産業は、建国当初は貴族主体で発展した。
その名残が今も残り、多くの産業の元締めが貴族だったりする。
例えば、貿易業の港の管理がある特定の苗字の人物が並んでいる。これは、元の貴族以外にも、貴族の後見がついた元庶民の準貴族達がいるからである。
農業も例外ではない。
現在、作物の流通に関して大きなシェアを占めているのはヴェルトシュタイン家である。生産地から、特殊ルートで農産物は運ばれていくのだ。この貴族が作物の値段を決めているといっても過言ではない。
今となっては男爵家とはいっても堅固な地位を築いているヴェルトシュタイン家だが、元々は準貴族だった。
準貴族と純粋な貴族との大きな違いは、発言力と世襲にある。
準貴族は、本人に後見がついただけであり一代限りの貴族である。本人の子どもは成人をすると、元の姓の戻らなければならない。
しかし、純粋な貴族は世襲ができる。世襲ができる分だけ、発言力も増すのである。
後に初代当主となる、準貴族の「アルツ・ファイナ・シュタイン」は作物を効率よく流通させることに尽力した功績により、後見だったシュタイン家から独立し「ヴェルトシュタイン男爵」となった。
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「マリス、こちらはシュタイン子爵です。」
院長がソファーに座った初老の女性を、そう紹介した。
その女性は、マリスから見て、「おばあさん」という年だった。
髪の毛のほとんどは白髪だが、背筋はピンと伸びている。貴族とはいっても、身に着けているのもは派手ではなく気品があった。
「こんにちは、マリスです。」
「こんにちは、私は、イピサ・オリビア・ヴィ=シュタインです。マリスさん……あなた、私の家の養子にならないかしら?」
養子の場合、後見とは異なる。
完全にその家に入ることになるのだ。
「少し早くはないですか?マリスはまだ、7歳です。」
院長は、子爵の回答をマリスにも聞かせるために聞いた。
「それは、この子が農業に興味を持っていることを聞いたからです。私ももう年です。後継者が欲しいところですが、なかなか優秀な人材がいませんの。それなら、小さいうちから教えていけばいいと思いましてね。」
(貴族かー。堅苦しいのはやだな。でも……このおばあさんは好感が持てだし、シュタイン家といえば、品種改良で有名なところだしね。)
マリスの決断は簡単だった。
「どうしますか?マリス。」
「行きます私!」
マリスは、飛び上がって宣言した。
「よろしくね。マリス。」
「はい、よろしくお願いします。子爵。」
「いやね。おばあさんでいいのよ。」
ということで、マリスの孤児院ライフが終わった。
第1章が終わりました。
11月12日、マリスの年齢を修正しました。
爵位を持っている人の姓の前には、爵位ごとに何かつきます。
公爵→ア〇〇(まだ未定)
侯爵→ヴェ
伯爵→セ〇〇(まだ未定)
子爵→ヴィ(本当は、「デ」になるでした。)
男爵→ウ〇
例・イピサ・オリビア・ヴィ=シュタイン
っていう感じです。
一応、規則性があります。
丸印をとって子爵部分は『デ』で読んでみると・・・