閑話4 クリニエル王国の出来事
一方その頃、クリニエル王国では、国民たちの不満が高まっていた。公の場や人が多い場所では不満を唱える者たちはいないが、薄暗い路地裏の小さな酒場では知り合いしかいないのか、あまり周囲を気にせずに語り合っている。
「まったく今の国王にも困ったものだ。ルシェロ王国から攻め込まれる気配はないのに、軍事だけを拡大して俺たちの生活は縮小するばかりだ」
男はエール入りのコップを片手に、向かい側にいる大柄な男へ話しかける。
「知っているか、どうやらランダーへ騎士団を3部隊も投入するらしいぞ。もしルシェロ王国と衝突でもすれば、一気に戦争へと動き出しそうだ」
向かい側にいた大柄な男が、何処から仕入れたのか王宮の情報を話し出す。ふたりともほどよい気分で酔っていて、口が軽くなっているようだ。
「俺も噂では聞いたが本当なのか」
「ああ、間違いない。すでに1部隊がランダーにいるらしいから、ルシェロ王国にしてみれば面白くないはずだ」
大柄な男はテーブルの上にある、硬い干し肉をつまみながら受け答えする。
「本当に戦争へと発展したら、俺の商売は成り立たない」
コップを持ちながら大袈裟に両手を挙げた。その姿を見て大柄な男は笑ったが、それも長続きはしなかった。
「たしかルシェロ王国への卸しがメインの仕事だったか。俺のほうは武器職人だから売上は増えるだろうが、喜ぶ気持ちにはなれない。現状を見ると、前国王がいかに国民を思ってくれていたのかが分かる」
大柄な男は魔物討伐に武器を使ってほしいと付け加えた。
「きっと戦争になったら勇者のいるこの国が勝つだろうが、勇者のリーダーは性格に難があるから混沌としそうだ」
「まともな勇者もいるらしいから、魔物討伐に力を入れてほしい。魔物討伐に力を入れていた、第1王子に国王となってほしかった。第1王子なら前国王と同様に俺たちの生活も考えてくれたのに、どうして犯罪者扱いなのかが分からない」
「ここだけの話だが、今の国王が何かしたらしいぞ。それにランダーへの騎士団派遣も第1王子が関係しているという噂だ」
少しだけ声を落として大柄な男が話す。それでも周囲には聞こえる音量だが、周囲の者たちはとくに気にしていなかった。真横のテーブルにいる、かっぷくのよい男は酒の肴に話を聞いているようにもみえる。
「探していると言うことは、まだ第1王子は捕まっていないのか。ある意味うれしい知らせだ。いつかは第1王子が王都へ戻ってきて、この国の国王になれば少しは生活が楽になるが、逆に捕まったらこの国も終わりだ」
「第1王子にはあのミュランがついているから、余程のことがなければ捕まらないはずだ。さらに第2王女も一緒にいるという噂だ」
大柄な男は第1王子とミュランが同じ騎士団で、ミュランの強さはどの騎士よりも強いと誇らしげに続きを話した。
「本当にお前は詳しいな」
「仕事柄、騎士や冒険者が多いから、自然と耳に入ってくる。ほかにはアコトマ神殿の巫女になった第三王女が姿を消したと、一部の騎士たちが騒いでいた」
「俺と女房でアコトマ神殿へお祈りに行っているが、そういえば最近はたしかに見かけていない気がする。てっきり、神殿の奥で修行していると思っていた」
男は話し終わるとエールを飲み干して、店主に追加注文を出していた。大柄な男も同様にエールを頼んだあとに干し肉もお願いする。
「俺も真相は知らない。何か分からないが、この国はおかしな方向へ向かっている気がする。どこかで本当の勇者が現れて、この国を救ってほしいものだ」
大柄な男の言葉に向かい側の男も頷いていた。
アルコールの力を借りて、ほかの小さな酒場でも同様な愚痴がもれていた。店主も知っている客ばかりなのか注意する様子もなく、王都にある薄暗い路地裏でも夜が更けていく。




