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綾斗が、赤くなる顔を隠すためにマスクをつけるようになったのは、中学一年の冬あたりからだ。



赤面症に悩まされている綾斗にとって、マスクは天の恵みかと思えるほどの、救いをもたらした。


赤面した顔を見られないという直接的な効能だけでなく、もし赤面しても大丈夫だという安心感さえも与えてくれて、緊張からなる赤面を防いでくれるのだ。


対症療法のみならず、予防にもなるのだから、マスクとは人類が誇るべき素晴らしい発明と言える。


しかし、この世にはTPOという不文律があり、これがまたマスクと相性が悪い。


入学式の日、「さすがに入学式くらいマスクは外していきなさい」と言う母からの強い圧に屈して、しぶしぶノーマスクで学生生活初日に挑んだ結果、案の定赤面を晒すことになった。


しかも運の悪いことに、赤面を晒す相手が大変よくなかった。



入学式は体育館で行われるということで、一度教室に集まった新入生は、出席番号順で二列に並び、体育館へ向かう。


高校生活の始まりに浮つき、ざわめく廊下を歩く中で、綾斗の隣に並んでいたのが、現在のいじめっ子筆頭である加藤だった。


入学初日なんてのは、今後のボッチ回避のために、友達作りが何より優先されるものだ。

他の生徒と違わず、加藤もまた友達作りに精を出していたようで、綾斗に対しても友好的に声をかけてきた。


名前もまだ覚えていないような初対面の人間が、やたらハキハキと快活な声で自分に雑談を振ってくる。

マスクを着けていないにもかかわらず、油断しきっていた綾斗は、声に反応して相手の顔を真正面から見てしまった。


顔を向ければ、当然ながら目が合う。

そんな予定調和すらも、想定していなかったせいで、綾斗の頭の中は真っ白になってしまった。

綾斗にまっすぐ向けられた視線は、投げかけた雑談への返答を期待している。

何か答えないとと焦った瞬間には、もう駄目だった。


狂ったように心拍数が上昇する。


やばい。

マスクしてない。

隠せない。


何を話しかけられたのかもわからず、返す言葉も出てこない中、見なくても自覚できるくらい顔は赤くなっていく。


そして、目が合った瞬間に固まって顔を赤くする綾斗に、目の前の相手は怪訝な表情を隠しもしない。



「は?何赤くなってんの。きもっ」



これをもって会話は終了。

そして、綾斗の平和な学生生活も始まる前に終わりを迎えたのだった。






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