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「へー、こっち全然来たことなかったけど、静かで日当たりもいいし、案外いい場所だね、ここ」
親し気に話しかけてきた猪瀬春太は、当たり前のように綾斗の隣に腰掛ける。
午前中が平和だったことで警戒を解いてしまった上、この学校唯一の安全圏で油断しきったところに奇襲を受けて、綾斗は完全にフリーズしてしまった。
「木佐くんはいつも昼休みここで過ごすんだ?」
綾斗が置いた教科書等を挟んで左隣に座った猪瀬春太は、彫刻のような美しい顔に優しい笑みを貼りつけて綾斗をのぞき込んでくる。
こ、怖い・・・
わざわざ昼休みを返上してこんな辺鄙な場所まで探しに来る執念と、優しい語り口が見合っておらず、何を考えているのかわからなくて怖い。
いつもなら緊張して赤面してしまうところ、今回は恐怖で血の気が引いた。
「あれ、赤くならないんだ?俺の顔は好みじゃないのかな?」
猪瀬春太の言葉は、綾斗に話しかけているのか、思わず口に出ただけなのか判然としない。
しかし、それを聞いた瞬間、綾斗は先ほどまでの恐怖を簡単に塗りつぶすほどの怒りに染まった。
何?結局ゲイいじり?
自分がゲイなのバレたから牽制しに来たってわけ?
血が上った頭には、次から次へと怒りの言葉が浮かんでくる。
「こっちは物心つく頃から赤面症で苦労してんのに、なんであんたを楽しませるために赤面を披露しないといけないんだよ? 」
強烈な怒りを抑えることができず、頭に浮かぶ言葉の濁流が、口をついて出てしまった。




