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まずい。まずい。まずい。



見てはいけないものを見てしまったという罪悪感。


それが本人にバレそうなこの状況。


焦りや不安が動悸となり、顔に熱が溜まりだす。


マスクをしているとはいえ、下から見上げる彼からは綾斗の首元が丸見えだ。


ここで赤面してしまえば、確実に良くない展開が待っている。


彼の美しい顔貌に赤面してしまったと思われるならまだいい。

既にゲイと認識されているので、もはやそこについては失うものがない。


厄介なのは、この赤面に他の意味を見出されることだ。


状況やタイミングから判断すれば、赤面の理由は未遂に終わった告白劇を見てしまったことだと思われかねない。



今まで散々虐げられてきた綾斗には、完璧超人の弱みを握ったという高揚なんてものは一切なかった。


そもそも、ただ目撃しただけで、何の証拠もないのだから、弱みとすら呼べないだろう。


しかし、秘密を知られた猪瀬春太にとっては、綾斗が脅威に思えるかもしれない。


猪瀬春太が綾斗を警戒して口止めや監視をしに来たりしては困る。


秘密を吹聴される恐怖から、綾斗に対して攻撃的にならないとも限らない。



時間にして数秒だろう。


綾斗と猪瀬春太の気まずい膠着状態は、聞き慣れたアナウンスによって解かれた。



「K学園前~。K学園前~。──線へはお乗り換えです」



プシューッと扉が開く音を聞いた瞬間、ほとんど反射のように綾斗はその場から駆け出した。


のろのろと流れる人波をかき分け、迷惑そうな顔を向けられても、気にする余裕なんてない。


駅を飛び出しても綾斗は足を止めず、全力疾走で学校へ向かう。



教室に入ることができたのは、予鈴が鳴った後だった。






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