第7話 ジェラシー
僕は『クラブ ローズ』に優子と一緒に来ていた。
優子はビール、僕も同じものを飲んでいた。
店の扉が開くと、柔らかな鈴の音が店内に響いた。
カラン、カラン。
僕は顔を見ると一瞬で察した。――遠藤稔。優子がかつて付き合っていた元彼だ。
かつて昔の写真を見せてもらった時に仲良く映っていたのを思い出した。
優子も稔に気づいたようだ。
「あら? 久しぶり」
優子は立ち上がると稔に話しかけた。
僕は内心、胸がモヤモヤした。
「優子に会うと思わなかったな。元気か?」
「うん。稔はどうしてこっちに?」
優子とカウンターに腰掛け直した。
「出張で近くまで来たから、寄ってみたんだ」
稔は優子に笑いかけた。
(自分から振ったくせに……。まあ僕としては良かったが……)
「ママ、ビールおかわり下さい」
僕はおかわりを頼んだ。
「どうしたの?」と優子が小声で尋ねる。僕は微笑んだが、胸の奥がチクリとした。
それは嫉妬だった。五百年の歳月を待ち、ようやく隣にいる優子に、他の男が近づくことで、心の奥が静かに波打つ。
稔は優子の隣に腰を下ろし、ビールを頼む。その仕草や声のトーンに、目線を少しそらす。表情は穏やかに保つ――男の嫉妬を表に出すのは、みっともないと知っているからだ。だが、視線の端では、稔の動きを追い、優子の反応を確認する自分がいる。
「結婚したって聞いたよ」
「うん……でも離婚したんだ」
「そうなんだ……」
「占い師まだしてるの?」
「してるよ」
「じゃあ、もう売れっ子だね」
「どうかな。でもぼちぼち稼げてる」
優子が僕を彼に紹介する。
「あ、紹介するね。この人、アロン。あたしの彼」
「そっか。かっこいいイケメン捕まえたな」
稔は笑う。その笑顔に、僕の胸の奥の波が大きくなる。
「初めまして」
僕は冷静を装い、挨拶した。
「お仕事は何されてるんですか?」
「……今は無職です」
優子が慌ててフォローする。「今、探し中なの」
ママが間に入り、空気を和らげる。
「稔くん、おつまみ何食べる?」
「ほんの顔出ししただけなので、いいかな。……優子の顔見れたからいいかな」
そう言うと彼はビールを一気に飲み干した。
「あら、残念ね。また今度ゆっくりいらっしゃい」
ママが笑顔で言う。
稔が去ると、僕は優子の目を見た。優子の頬は少し赤らんでいた。
僕は少し息をついた。
「大丈夫?」
優子の問いかけに、僕は虚勢を張り、微笑み返す。心の奥では、優子のすぐ隣で感じた小さな波が、静かに、しかし確実に燃え続けていた。
「わかりやすいわね」
ママが僕に向かって笑った。
「何がですか」
ママはクスクス笑う。
僕はビールを飲み干した。
優子が僕を見ている。
「アロン、もしかして……?」
優子が僕の嫉妬心に気づいているのがわかった。
(恥ずかしい……)
僕はいたたまれず、頬杖をついてそっぽを向いた。
胸がドキドキする。
優子が僕に頭を寄せてくる。優子なりに慰めてくれているのがわかった。優子の暖かい愛情も流れ込んでくる。
僕のざわついた気持ちはどこかへ消え去った。
「優子……」
僕は気がつくと優子にキスしていた。
ママは両手をあげてこう言った。
「ハイハイ、それ以上はお家に帰ってからやってね」
ママが苦笑すると、優子と僕は目を合わせて笑った。




