表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

味方だよ

第三章 


「大好きで、大好きだったんですね。笑 楽しめたようで何よりです。ライブのときはうちわとか出す派なんですか?」


ジンさん、優しいなぁ。こんなにわたしの話しを聞いてくれるなんて。 それともFamousに興味があるのかな? それとも推し活始めたいのかな… うーん。酔っているせいか考えすぎちゃう。しかも考えても分からない。

もういいか。そのまま返そう。


「うちわ出しますよ!あの、聞いてくれますか?実は今日推して10年目で初めての経験をしたんです。すごすぎて、誰かに言いたくなっちゃって!テンション高くてすみません!でも下がりません!笑」


「気になりますね!ぜひ教えてください。テンション高くていいですよ!笑」


「実は今日初めて最前列に入れたんです!!こんなこと推し活人生であっていいのか…ってくらいの奇跡なんで、本当に生きてて良かったです!笑 また明日からも頑張ろって元気をもらえました。 わたしが良い人でありたいと思えるのはジンくんのおかげなんです。 だからジンくんに誇れる自分でいようと思います!…というのが理想です!笑 酔っ払いの語りですみません!笑」 


ここから、すぐに来ていた返信が、ピタッと止まってしまった。 語りすぎたかな、ちょっと聞いて欲しかったんだけど…このテンションでは推せないと思わせたかな…あ、自慢みたいだった!?

もしかして引かれちゃったかな。


スマホを放り投げてベッドに転がる。 あー、送らなきゃよかったかな…。もうお返事くれなかったらどうしよう。でも聞いて欲しかったんだよな。なんかジンさんには。


よし、気を取り直してお風呂にでも入ろう!メイク落としてさっぱりしてから、また考えよ。


「はぁ、さっぱりした」 お風呂から上がり、化粧水をぱしゃぱしゃ適当に塗って、もう疲れたからスキンケアもそこそこにして天井を見上げる。 スマホに手を伸ばすと通知が来ていた。 ジンさん!?


「ミオー!寝れない!楽しすぎて寝れない!」 キャラ崩壊中のリンちゃん。可愛いな。 リンちゃんか、って思ってごめんね。


「わたしもだよ!やっとお風呂入ったよ。まだ夢の中にいるみたいだね」 そんな返信を打っているとまた通知が来た。


「最前列なんてすごいですね。僕も想像出来ます!テンションも上がっちゃいますね。ちなみにどんなうちわを持っていたんですか?」


ジンさんだ!良かったぁ。返信くれた。 さっきの長文で引かれちゃったかと思ったから安心した。いつもの優しい返信だ。

僕…やっぱり男性か。男性の推し友だち、悪くないなぁ!!


「いつも色んなの出すんですけど、10年くらいずっと、伝えたくて使ってるのは“いつも味方だよ”ってうちわですね!今日も持ちました。」


また返信が止まった。今度は変なこと送ってないよね…?何度も送信したメッセージを見直す。 時計を見るともう0:00を過ぎていて、我に返る。 もう寝てるのかも!わたしも寝なきゃ!


高鳴る胸をなんとか落ち着かせて眠りにつこうとしてみる。


ドキドキ、ドキドキ。 この胸の音はなんのせい? ライブ?最前列?それとも… 頭をよぎる言葉を慌てて遮る。 会ったこともないのに…。きっとこれはジンくんに会えたから。そう自分に言い聞かせた。




「ライブのときはうちわとか出す派なんですか?」


そんなことを聞いた自分に本当にびっくりする。それを聞いてどうするんだ? 何かが気になる。こんな感覚は初めてで、わくわくしているような、少し怖いような、そんな気持ちになっていた。


「あの、聞いてくれますか?」

何のうちわを持ってたのか知りたかったはずなのに。文字だけで伝わる笑顔に少し胸が高鳴る気がした。

なんでこんなに素直で、まっすぐで、文字だけで感情が伝えられるんだろう。

何がそんなに楽しかったのかな?


…いや、この人は俺のファンだから。だからきっと可愛いと思えるだけ。 自分のファンだから気になっても仕方ない、俺のファンだからね、そう何度も言い聞かせた。 でも、なにがそんなに嬉しかったのか教えて?俺となにかあったの?

あの笑顔みたいな文字がまた読みたい。


「最前列」

その文字を見て時が止まった。すぐにあの子が思い浮かぶ。最前列なんか何人もいるのに。


「わたしが良い人でありたいと思えるのはジンくんのおかげなんです。 」


心臓がドクンと大きな音を立てた。


俺が心の中で何回も何回も復唱した言葉。

あの手紙……


いやいや、と思いながらもどこかでもう間違いないと確信している。

慌ててバッグに手を伸ばし、手紙を取り出した。


差出人の名前は?


「ミオ」


あぁ、やっぱりそうか。

そうだよね。



じゃあ、今日の最前列の子も…

「ミオ」なのかな。

なぜか、そうであって欲しい、そうだったらいいのに、そう思う気持ちが膨らんでいく。


今日呼ばれた気がしたのは…きっと気のせいなんかじゃない。


そう思ったら確かめたくて。

聞いてみようかな。


でも、それでどうする?

それを聞いてなにがしたい?


ファンと俺。


その境界線を俺はずっと守ってきたのに。

感情のまま返信する手を止めた。

よく考えろ。

俺はどうしたいのか。


……知りたい…知りたいよ。


何度も手紙の名前と、昨日のメッセージを見比べた。

「ミオ」

今日のあの子もキミなの?


やっぱり…確かめたい。


「いつも味方だよ」


やっぱりそうだ。

ミオ…ミオだったんだね。

やっと見つけた。

ずっと探していた人…そんなふうにさえ思ってしまう。


そう思った瞬間に、抗うのはもうやめにした。

俺、この子が気になるんだ。ファンだからじゃなくて、この子だから。


気になると自覚した瞬間に、心が踊る。

なんだか変な感じ。

浮かれた返信をしてしまいそうで、一旦スマホを置いた。


洗濯乾燥が終わったから、先に畳むか。

日常に戻ることで、余計に胸が高鳴った。


アイドルとしてじゃない自分が、こんなふうに浮かれてるなんて。

俺のキャラじゃない…分かっているけどもうスマホが気になって仕方ない。

らしくない、そう思っても溢れる気持ちだけ止まらない。


……返そうか、やめておこうか。


迷っているうちに、夜中になってしまった。

明日返そう。

そう思っただけで、朝が来るのが楽しみになる。


こんな気持ちはいつぶりかな。


もっと色々教えてほしい。

もう少しだけ顔が見えてたらな。

なんだか眠れそうにないな。


早く明日にならないかなぁ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ