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お礼のつもりで

第二章 


「あ、やばっ。明日何時入りだっけ。」

いつもスケジュールはちゃんと頭に入ってるのに…ライブ前日に何時入りだか忘れるなんて、初めて。マネージャーはもう寝てるかもだし、ユウキに聞いてみるか。


「明日何時だっけ?」


もう寝るかな、そう思いながらベッドに入った。


メッセージの着信音が鳴る。ユウキかな?

え?なんか浮かれたハートのスタンプまで送ってきてるけど、ユウキおかしくなったか? めんどくさいから、タカユキに聞くか。 一応ユウキに返信を送って、タカユキの宛先を探す。


また変な返信が来た。リンちゃんって誰?ユウキまじでおかしくなった? そう思いながら宛先のプロフィールを確認してみる。

え?誰?女性…?

プロフィールの写真は後ろ姿だけど、FAMのライブTシャツ着てるな。…ファン?


意味の分からないバグに頭の中が一瞬で混乱したけど、このままリンちゃんとランチ行けなかったら可哀想だな。

別に必要なかったのかもしれない。でも何故か返信した。 しかもたぶん明日ライブ来るんだよな。 そんなタイミングでファンにメッセージ送るとかどんなバグだよ。


あ、そういえば昨日、マネージャーが「新しいファンクラブアプリのβ版、もうすぐ公開になるからちょっと確認して」って言ってたっけ。

なんか設定いじってたから、そのときにおかしくなったのかな…。

しょうがないけど困るなぁ。


また返信くれたし。やっぱり。来るんだライブ。 ファンのみんなはこんなにわくわくしてくれているのか。なんだかちょっと嬉しくなった。もちろん分かってはいるけど、直接聞くことはないから。 また返信を打つ。楽しみにしてくれてるファンにちょっとしたお礼のつもりでもあった。


本当はこんな誤送信なんてありえないし。

マネージャーに報告しないと。


でもそしたら…

アカウント消されちゃうよな。

メッセージとかも全部……

そこまでしなきゃダメかな。


今のところこの子は危険な感じはしない。

……まぁ…内緒でも…。


バレないようにやればいいか。


危なくなったら消せばいいし。


テンション高いなぁ。しかも俺推しか。 俺は誰も推してないけど。ってか本人。 なんてメッセージに心でツッコミを入れてる自分がなんだかくすぐったい。 俺のバグで送られたのに、遅いのでって礼儀正しい人なのかな。 そう思っていると、また指が勝手に返信を打ってた。

「そうなんですか。ジンくんと会えるの楽しみですね」

そう打ったあと、手が止まる。 俺のどこが好きなのかな。


別になんだっていい。ファンはみんな一生懸命推してくれてる。だから自分のどこを好きでも別にいい。でもなんで?なんか聞きたくて、教えてほしくて、打った文章を消して打ち直した。


え、まず顔じゃないの?自分で言うのもなんだけど、俺ビジュアル担当でもあるんだけど。誠実な姿か。そんな風に見てくれてるんだな。


また返信した。特に理由なんてなかったけど、なんとなく話しを続けたくなった。


一緒に推しませんか…って。

推さないよ。自分だもん。 って心の中でツッコんでつい笑ってしまった。内面が好きって言ってくれるファンだってもちろんたくさんいる。

でもなぜか心を見透かされたような気持ちがした。

…なんでだろう。こんなに気になるなんて。心が揺れる感覚がした。


推し語りはしないけど。本人だし。まさか本人に言ってるとは思ってないだろうな。 なんかそんなところが少し可愛く思えてしまった。 ちょっとびっくりするかな、そんなイタズラ心で返信をした。


「ジンです。笑 また話しましょう」



ファム!ファム!ファム!


歓声が聞こえる。 このコールが始まると一気にテンションが上がってくる。やっぱりファンに支えられてるなと実感するタイミング。


「よっしゃ!いくぞ!!」 「おー!!!!」


メンバー5人で円陣を組む。 センターのユウキ、タクマ、コウ、タカユキみんな良いやつ。 Famousは本当に仲が良い。それは自分達でも思ってる。こいつらとだから、10年やってこられた。 よし、今日もやる!


幕が開けた。

「キャーーーー」

ああ、この声援が本当に力になるな。


花道を駆け抜けるとき、ファンとの距離が近づく。

みんなそれぞれ、好きなメンバーのカラーにしたペンライトを振ってる。

俺の青の光もたくさん見える。

「指さして」「ピースして」「投げちゅー」

なるべく応えてあげたくて。


「きゃあ!!!」


その反応を見るのが好き。叫ぶ子もいるし、飛び跳ねる子もいるし、固まってる子もいる。かわいいなぁ。みんな丸ごと愛してあげたい。


ライブも中盤、ファンからも人気の高い「Melt into me」メインステージに戻っていつもの立ち位置についた。


ラストのサビ、ここまで完璧。声を出そうとした瞬間に、何かに呼ばれた気がした。


ふと視線を送ると、立ち位置の最前列に俺のうちわを握りしめてるファンがいる。


暗いはずなのに、なぜか光が見える。

花が咲いているような、そんなふうに。

あれは…ヒマワリかな。

客席は暗くて顔はよく見えないけど、なぜか目が離せない。


『キミの光がまぶしすぎる』


そのまま見つめながら歌っていた。



「いえーい」 メンバー全員、主要スタッフとハイタッチしながら楽屋に戻った。 ライブも終わり、放心状態だけど、汗もすごいしシャワー浴びたい。


「あれ?ジン入んないの?先入ろー!」


タクマが戻ってきてシャワーに行った。 シャワーは3つしかないから、先に来たコウとユウキも使ってて満室。

仕方ないから少し待つか。

椅子に座って一息つくと、今日のライブが思い出される。

そういえば、あの時呼ばれた気がしたのは何だったんだろう。

「いつも味方だよ」 そういえばあの子そんなうちわ持ってたな。顔は覚えてない。でもうちわを握りしめている姿だけ、鮮明に浮かんでくる。

似たようなメッセージ持ってくれてる子もいるけどなぁ。


ふと、以前もらって大事にしている手紙のことを思い出した。

何故か大事に毎日カバンに入れてる1通のファンレター。

カバンから取り出し、中身を読み直す。

もう何回読んだか分らないけど。

「どんなときも、どんな気持ちのときも、私はずっとジンくんの味方です。 」

あぁ、なんかこのフレーズを思い出したんだ。

ただの偶然、同じような内容の手紙も同じようなメッセージもたくさん見てるはず、なのにこの手紙の子かな、と思ってしまった。

「いや、ないか」

ぼそっと独り言をつぶやく。

「ジン?シャワー空いたよ。早くしないとタカユキに取られるよ」 ユウキがシャワーを出て声をかけてくれた。


やっと家についたころには、雨が強くなっていた。 今日も疲れた、でも楽しかったな。

ライブはやっぱり楽しい。高揚感でいっぱいだけど、やることがたくさん。 ひとまず洗濯回すか…アイドルがライブ終わりに洗濯機回してるとは、ファンは思わないよな。


回してる洗濯機を見つめながら、無意識にスマホに手を伸ばした。

…あの子、今日来てくれたんだよな。

楽しかったかな。 俺のこと見てたかな。

そう思ったら気になって仕方ない。まぁ少しならいいだろうとメッセージを送ってみた。

絶対テンション高く返してくるだろうな。想像して笑っている自分に驚いた。


昨日からなんか変だなぁ。 ファンレターの子、最前列の子、バグの子。別に何の共通点もないのにな。 そういえば、バグの子は名前なんだっけ? そう思って昨日のメッセージを見返してみた。

たった二文字。なのに胸がキュッとなった気がした。


「ミオかぁ…」



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