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ふたり並んで

第十一章 


ジンくん。

わたしはジンくんのことを尊敬してるの。


わたしが初めて仕事で挫折しそうになったとき。

本当にたまたまFamousのラジオを聞いたの。

普段はあんまりラジオを聞かないのに。なんでだったのかな。

その日はリスナーからの相談メールに答えてて、

みんなふざけてたから、つい笑っちゃったんだ。


「どんなことがあっても、好きな人なら味方でいたいよ」


ーーそのたった一言にわたしは恋に落ちた。今のは…誰?

そこからジンくんをずっと見てきた。

ずっと好きでいたの。

ジンくんがわたしの指針になってくれて、ここまで来られた。


だから、なんでもしてあげたい。

これからはわたしがジンくんに返していきたい。

この感謝の気持ちも、たくさんもらっていた愛情も。


「ミオ、俺の全部をミオにあげる。ずっとミオのことだけ考えていたい。」


ジンくんの全てをわたしのものに。

わたしが、ジンくんを独り占めできる。

こんなにジンくんに愛されるなんて…

嬉しくないわけないよね。

幸せって思ったっていいでしょ?


だってずっと好きだったの。ずっと。

バカみたいと思われるかもしれないけど、世界で一番好きだった。

この先どんな人生を歩んでも、ジンくんより好きになる人はいない。

そう思ってたんだよ。


「今日のライブは来られないんだよね?残念だな。ミオを想って歌うからね。」


わたしに向けて歌って欲しい。

ずっと願ってたこと。

あなたの視界に入りたい。

あなたの視線がほしい。


プライベートに立ち入りたかったわけじゃない。

『アイドルとファン』それはもちろん分かってたよ。

でも誰だって夢くらい見るでしょ?


ジンくんに出会えたらな、ジンくんに好きになってもらえたらな。

そう思ってたよ。

でもね…わたしはジンくんの全部は欲しくない。

わたしのことだけ考えてほしいわけじゃないの。

これは、綺麗ごとじゃなくてわたしの本心。


ジンくんの誠実なところが好き。目の前の人をしっかり見つめる瞳が好き。


だから…

わたしのためになんて歌わないで。

目の前にいる人を想ってほしい。

それがわたしの好きなジンくんだから。


ジンくんの仕事に対する姿勢を尊敬していて、そんなジンくんにわたしも救われた。

だからステージで輝いているときにわたしのことなんて思い出さないでほしい。


ファンとしてのわたしが、アイドルとしてのジンくんの姿勢を奪いたくない。

そう思ってる。


たくさんの人を幸せにして、たくさんの人に勇気を与えて、明日からまた頑張ろうと思わせてくれる。

それがジンくんでしょ?


ちゃんと向き合って。

目の前の人と。


ねぇ、ジンくんの全てが愛おしいから、わたしは全部はいらない。


「ジンくん、わたしはジンくんにずっとわたしのことだけ考えてほしいとは思ってないの。目の前にいる人を大切にして。それがジンくんでしょ?ライブ中はわたしのことは思い出さないでいてね。」


「…胸が締めつけられた感じがしてる。ミオが俺を拒否しているわけじゃないのは分かってるよ?でも、分かってるけど、ちょっと痛いよ。

ミオの言葉は甘くて、苦しい。だけどもっと欲しいんだ。

ねぇミオ、俺がミオを欲しいみたいに、俺のことも欲しがってくれる?」


子どもみたいなお願いをするジンくんが愛しくて、でも少し切なかった。


欲しいよ…?ジンくん…

わたしだって欲しい。ジンくんの愛が欲しい。


でも、ごめんねジンくん。

これはジンくんと恋をすると決めたわたしの覚悟。

ジンくんの夢も仕事も恋も全部、わたしが守るって決めたから。


「ジンくん、わたしはジンくんが好きだよ。だからいらない。わたしのことだけ見つめてるジンくんじゃなくて、ジンくんはそのまま、わたしの好きなジンくんでいて。ジンくんの大切なものをわたしも一緒に守りたいの。」


ヤキモチ?妬くよ。好きだから。

ジンくんが今誰といて、何を思っているのか全部知りたいよ。


ジンくんのそばにいられる人が羨ましい。

ジンくんに触れる全ての人に嫉妬する。

わたしだって…ジンくんの体温を感じてみたい。


どんな声でわたしを呼ぶの?

ジンくん、いまどんな顔してる?


全部近くで見ていたい。


でもね…

寂しいだけで不安じゃないよ。

ジンくんのこと信じてるから。


「ミオさ~ん!一緒にランチ行きましょうよ!マイ行きたいお店あって…」

「あれ?ミオさん…なんかありました?今日はカッコイイ日ですね。」


わたしはわたしの愛を届けるね。


「ねぇジンくん。それでもわたしはジンくんの全部を受け止めるよ。ジンくんの全部が好きだから。全部まとめて愛してる。」


あなたが好き。

それだけがわたしの「愛してる」



ミオはとても感情豊かで、無邪気で、言葉ひとつひとつが弾けているように見える。

ふわっと危うくて、守ってあげたい、そんなふうに思っていた。


「わたしのことだけ考えてほしいとは思ってない」


この言葉が胸に突き刺さる。

愛されているとは分かっているのに心がざわつく。

なんで?俺を好きなのに…欲しがってはくれないの?


もっと求めていいのに。

もっと心の奥まで来てほしいのに。


ミオの心に隙間もないくらい、俺が流れ込んでいきたい。

それは、ミオのことが好きだからだよ。

ミオは同じように思ってくれないのかな。


ミオの”好き”は綺麗すぎて。

どうしてそんなに好きでいてくれるの?

自信なんかないんだ。同じように光れない。

まぶしくてまぶしくて、覆ってしまいたい。


支配したいわけじゃない。

でも全部を奪いたいなんて。

もちろん口には出さないけど。

ミオにもそう思ってほしいのに。


情けない。分かってるけど、こんなふうに人を好きになったのは、本当に初めてなんだ。


なんとなく浮足立つ感じはあったけど、ダンスも歌もちゃんと完璧にこなしてる。

いつミオに見られてもいいように。

ジンくんやっぱり素敵って思われるように。


「なんかジン気合入ってる?切なさ倍増できゃあ!製造機みたいになってるよ。」

主要のライブスタッフに褒められた。

確かにいつもより歓声が大きい。

「でしょ?調子良いんだ。」

嘘の笑顔で取り繕う。バレなければいいんだ。

「その調子でラストまで頼むよ!」


昼のライブ後、夜までの空き時間になぜかユウキに詰められた。

「おいジン!いい加減にしろよ?」


「なに?どうしたの?」

「どうしたの?じゃないよ。気づいてないふりするなよ。このまま続くなら、もうほっとかないから。今のFamousはお前にかかってる。ちゃんと責任果たせよ。お前の覚悟ってそんなもんなの?グループに対しても、お前自身に対してもな。」


なんだよ…

ちゃんとやってるだろ?何がいけない?

スタッフには褒められたし、マネージャーは何も言わないのに。


メンバーもミオも…

なんでみんなそんなこと言うの?


「ジン、ジン?」

楽屋でぼーっと考え込んでいると、タカユキに声をかけられた。

「ん?なに?」

「これ、今出してる配信動画の感想だってさ。次の動画でコメントするみたいだから読んでおいて。」

そう言って資料を渡して俺の肩に手を置いた。

「ジン、ちゃんと見ろよ。」

優しい声だった。


「Famousのおかげで毎日楽しいです!」

「ジンくん、いつもありがとう」

「FAM大好き!」

「ジンくん、ずっと応援してるよ!頑張ってね!」


資料に目を通す。

こんなにたくさん…

ちゃんと見てくてくれているファンもいるんだ。

分かってた。知ってた。

でも…逃げてた。


「おいー!それ俺にも見せて!」

コウが来ると一気に騒がしくなる。

「お、コウくんカッコイイだって!だよなぁ。わかってるなぁ!……ジンくんのおかげで今日も頑張れますだって!やってやんなきゃだな!」


バシッと背中を叩かれる。

痛みと一緒にじわっと熱くなった。


楽屋の入り口でユウキが俺を見ていたことには、気づかなかったけど。



「ジンくんの大切なものをわたしも一緒に守りたい」


―どんな決意で言ってくれたの?

どうしてそんなにまっすぐでいられるの?

全部はいらないなんて…ミオはどうしてそんなに美しいの?


ミオの姿を見たあの日を思い出した。

あの、あたたかい光。


今の俺にはまぶしいんだ。

ミオの声は届いてるのに。

―――おいていかないで。


心の中で何度も繰り返す。

人を好きになるということが、こんなに弱いことだって知らなかったんだ。


一緒に溺れてほしいのに、ミオは俺の隣を歩こうと自分の足で立ってる。


こっちに来て。

ぎゅっと抱きしめて「大丈夫」ってそのまま深いところまで連れていきたい。


それでも、ミオは”一緒に歩こう”と手を握ってくれるだろうな。


「全部まとめて愛してる。」


なんて強い光なんだろう。

こんなにも幸せでいいのかな…。

ずっとミオのあたたかさを感じていたい。


そのためには、俺も一人で立たないとダメなのか。

ミオが俺を大切にしてくれているように、「ミオのために」そう思える俺でありたい。


あぁ、きっと俺は光に誘われて、キミを探していたんだね。

手紙をもらったあの日から。

ずっとずっと、俺を照らしてくれていたんだね。


ありがとう、ミオ。

その光があれば、俺は俺でいられるよ。


だから俺もミオの光であり続けるよ。

もう迷わない。


ミオ、一緒に歩こう。

ふたり並んで。



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