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炭都物語 原稿下書き 非公開  作者: 大牟田炭都物語
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古町にあった「城屋」が燃えた〜サンズリバーサイド

古町にあった「城屋」が燃えた。


建築の構造上、白壁でできていて、延焼するのは早かった。壁の漆喰が乾きすぎていたのか、それとも中にあった古い家具や書類が火の手を吸ったのか。理由はどうでもよかった。ただ、城屋はもう、かたちを失った。


煙は午前中から上がっていたらしい。だが、風のない日だったのが幸いした。町全体が燃えるような騒ぎにはならなかった。消防団が駆けつけ、放水を始めたときには、屋根がすでに落ちかけていた。


焼け跡に残ったのは、炭になった梁と、黒ずんだ石の基礎だけ。そこに何があったのか、誰が住んでいたのか、知っている者ももう少ない。


古町の人々にとって、「城屋」は、ただの空き家ではなかった。かつては大店だった。旅人が泊まり、書生が通い、女中が立ち働いていた。戦前の写真には、前庭に立つ看板娘の姿が、すこしだけ誇らしげに映っている。


だが今、その家は燃えた。あっけないくらい簡単に。


誰が火を出したのかは、まだわかっていない。けれど、見に来た年寄りたちの口ぶりは妙だった。


「あれは、あんまり長く残っとると、いけんのや」


そう言ったのは、昭和ひとけた生まれの田島という男だった。彼は目を細め、焼け跡の前で立ち尽くしていた。まるで、何かを見届けに来たように。


火事のあった翌朝、町役場の職員が焼け跡の整理に来た。そこでひとつの不審なものが見つかる。


白壁の土の中から、焼け残った一冊の帳面が出てきたのだ。濡れて、焦げて、端がほとんど読めなくなっていたが、表紙には薄く、こう記されていた。


「昭和十七年 避難者名簿」

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