表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炭都物語 ランダム  作者: 大牟田炭都物語
3/23

再結成「炭都市」〜翔んで大牟田


再結成「炭都市」


夕暮れの三池港に、かつての汽笛は鳴らなかった。

煙突の影も消え、積み出し用の線路も草に埋もれて久しい。けれど、その港の岸壁に、革ジャンを羽織った男が立っていた。彼の名は伊藤謙一、大牟田市役所の企画課長。誰よりもこの土地を愛し、誰よりもこの街の未来を考えていた。


「人口減少は止められませんでした」


記者会見の冒頭、彼はそう言い切った。自嘲でも諦念でもない。ただ、現実を直視した者の声だった。1960年代には20万人を数えた大牟田の人口も、今や9万人を切っている。隣の荒尾、長洲、みやま、そして玉名もまた似たようなものだった。


だが、そのとき謙一は新たな地図を広げた。


「"炭都市"構想です。大牟田・荒尾・長洲・みやま・玉名の5市町が行政を超えて一体運営し、30万人の都市圏として再結成する。石炭がこの地を一つにした時代があるなら、今度は"再生"でつながろうじゃありませんか」


計画名は**再結成「炭都市」**。三池炭鉱を共有の歴史とし、廃坑跡を再活用した文化・エネルギー拠点、AIとロボットを導入した医療連携網、そして地域内で循環する農業と小規模産業のクラスタ化。目的は、東京に人口を奪われる時代に、「集まる力」で立ち向かうことだった。


批判もあった。「広域合併の焼き直しだ」「地方に夢などない」

だが、謙一には確信があった。


「夢じゃない。これは、生き残るための"現実"です」


彼の声に答えたのは、高齢化に悩む長洲の看護師、ITに詳しい荒尾の高校生、玉名の老舗酒蔵の女将。人はばらばらになっていたようで、かすかに炭のような熱を胸に残していた。火種が残っていれば、もう一度、灯すことができる。


その年の冬、「炭都市構想推進協議会」が発足した。名称の横に、かすれた筆文字が掲げられる。


**—三池は、終わらせない。**




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ