天泣8
第8話
レイスリーネはベルゼフに自分が置き手紙を残し、レーシア神殿を抜け出して来た事を告げるとベルゼフ神官長は声にならない悲鳴をあげたのだった・・・
まぁそれはそうだろう、"聖女""巫女"は国にとって王子、姫と同等の価値がある存在なのだ。その存在が置き手紙を残して勝手に国外へと供をも付けずに出たとなれば、それはもう大事だ・・・ベルゼフは大慌てでレーシア神殿へ連絡するための手続きにかかったのだった――
そしてそれから数日後 ――
「うわっ、最悪・・・」
レーシア神殿より使者が来たと知らせがありレイスリーネは神官長室へと訪れたのだが部屋に入るなりとある人物を見て思わず声を漏らしたレイスリーネ。
その発言に眉を吊り上げたのはソファに腰かけていた上質な神官服を身にまとった12~13歳位の少年であった。
彼はギロリとレイスリーネを睨むと――・・
「何が最悪だ、この大馬鹿者めが!?まったくエメラルダといいお前といいどうしてこうも次から次へと問大ばかり起こすのだ!少しは大人しくしておれぬのか!」
「顔真っ赤ですよリーヴェ様」
「だ・れ・の・せいだと思っておるのだ!」
「・・・私?」
ひくりと口元を引きつらせるリーヴェと呼ばれた少年。
年齢に見合わぬ話し方をする彼の米神には青筋が数本立っていた・・・そして彼が再度言葉を発しようとしたとき神官長室をノックする音が聞こえたので口を噤んだ。
ベルゼフ神官長が扉をあけるとそこにはクラウスとグレイの姿があった。
「これはクラウス殿下」
「レーシア神殿より使者がきたと聞いたので」
クラウスがそう告げると室内へと促した。
そしてソファに座る1人の少年に目を留める――
同じように入ってきた地狼を連れた青年を見るリーヴェ。
「ほぉ、地狼か・・・」
リーヴェは目を細め面白そうに言った。
地狼はじっとリーヴェを見かえすと感嘆の声をあげた。
『これはまた・・・』
「ふむ、私の称号を見抜くとはお主なかなか位が高いようだな」
『成程、そなたがレイスリーネの師というわけか。そなた程の者ではなければレイスリーネの力を抑えることは出来ぬだろうな』
「そこまで見抜くか、地狼よ」
お互いの力量を探りあっている雰囲気がある1人と一匹。
いったん話の区切りがつくとベルゼフ神官長が自己紹介をした。
「クラウス殿下、此方のお方はレーシア神殿の"神官長"であるリーヴェ殿です。そしてリーヴェ殿こちらの青年は我がクローク王国の第2王子クラウス殿下です」
「ふむ。なかなかの美男子だな、だが私には及ばぬな!」
はっはっはっ!とこれもまた少年らしからぬ笑い方をするリーヴェ。
クラウスは表情は崩さなかったが少々戸惑ったように視線をリーネへと向けた、視線を受けたリーネは・・・
「あぁ、リーヴェ様って外見は子供ですけど中身はおっさん・・・いや、もうお爺さん?なんですよ」
「こら、ぴちぴちの私に向かっお爺さんとはなんだ!」
「え、だって実際そうじゃないですか」
「うぬっ。確かに私はベルゼフより年上だがな」
リーヴェの言葉に目を見開くクラウス。
ベルゼフは50代半ばだ、それより年上だと――?
『我が主よ。強大な力を持つ"聖痕"はときに人の毒となる、人の容量を超える"力を"持つということはそれなりの代償支払わねばならない・・・それが自然の道理だ』
「代償?」
眉をひそめたクラウスにどこか悲しげにリーヴェは言う。
「愚かな人間は力の強い"聖痕"、稀なる"聖痕"を手に入れたがる。本当に愚かな事だ、何も知らずその"聖痕"を手にしようとする。そして継承者に支払う代償なども知りもせずにな・・・・。私が支払った代償は"成長"だ。聖痕を継承してからずっとこの姿のままだ」
どこか重たい空気が室内に流れた、クラウスはふと思い出した・・・グレイがレイスリーネの持つ"聖痕"を稀なる"聖痕"と・・・視線をリーネへと向けると彼女は憂いを帯びた眼差しをしていた。
ぎゅっとその瞼を閉じ、何かから耐える様に――‐
リーネを見る主に気づいた地狼グレイは・・・
『レイスリーネの持つ"聖痕"も稀なるもの、故にその代償を支払っているはずだ』
グレイの言葉にびくりと肩を揺らしたレイスリーネ・・・
「地狼よ、それ以上問うな。レイスリーネが支払った代償はとても大きなモノだったのだ・・・そのことには触れないでやってくれぬか」
『ふむ、すまぬ』
「まぁ、大き過ぎる力は人には毒だという事だよ」
苦笑して告げるリーヴェ。
重たい空気を払うかのようにリーヴェは続けて言った――
「ベルゼフよ。私も暫く此方に滞在するので宜しく頼むぞ」
突如言われた言葉にベルゼフ神官長とクラウスは一瞬固まった。
「っていうか、良いんですか?リーヴェ様神官長なのに・・・」
「問題ない、うちには優秀な副神官長がおるだろう、あ奴に任せておけば問題ない。
私も少し休息が欲しかったからな、ちょうど良い機会だ」
「なんかいつもレべ副神官長がリーヴェ様の尻拭いをしてますよね。きっと今頃泣いてますよ・・・」
「ふん、あ奴はそういう星の定めに生まれてきたのだ」
「・・・それはリーヴェ様がそう勝手に解釈しているだけじゃないですか」
「・・・」
「・・・」
そんな2人のやり取りを聞くベルゼフとクラウスは互いに顔を見合せ、頭を悩ませたのだった――
脱走した自国の聖女を迎えに来たのかと思えば迎えにきた本人も仕事をさぼって此方に滞在すると言いだしたのだ・・・頭が痛くならない筈がない―――
なんせ相手はレーシア神殿の神官長と聖女なのだから・・・・