天泣4
第4話
至近距離で思いっきり叫ばれた事により顔をしかめのけ反った青年・・・
「っ、お前いきなりなんだよ!」
「こ、こいつがティアのっ・・・・・」
「はっ?」
眉をぎゅっとひそめたまま自分を見上げる少女に青年は怪訝そうに見下ろす。
レイスリーネは暫し青年を見つめた後盛大に溜息を吐いたのだった、その盛大な溜息を吐いた彼女に訳が分からないと言った表情を浮かべる青年――
「あー、自己紹介が遅れましたが。私、リーネって言います。ティアとは無二の親友です」
テイスリーネのいきなりの自己紹介に青年は一瞬止まったがその言葉の意味に気づき・・・
「リーネって、よくティアが話してた奴か!」
青年はレイスリーネを指差し告げる。
「ってか、指差すのやめてください」
「あ、悪い。てか、なんでここにいるんだよ・・・」
「そりゃあティアに会いに・・・と言うよりティアが恋人が出来たって手紙に書いてあったんでどんな野郎かと見に来たんです」
「どんな野郎って・・・・」
呆れた表情の青年だがどこか面白そうに笑みを浮かべた。
「成程な」
「何が成程なんです?」
「まぁ、気にすんな。それよりティアから聞いてるってことは俺の正体も知ってるんだよな?」
「第3王子のリュカオン殿下ですよね。でもティアの相手が王子だって知ったのは
こっちに来てからなんですよね・・・・」
「なんだ、そうだったのか?」
「えぇ、手紙にはそこまで書いてなかったので」
「ふ~ん。それよりティアはお前が来てること知ってるのか?」
「いえ、まだです。ってか、私が会いに行くたびに貴方が連れ去った後ばかりなんで会えてません」
お前のせいだこの野郎的な表情を隠しもしないレイスリーネにリュカオンは・・・
「ぶはっ!あははははっ!」
「ちょ、何んですか急に」
「いや、ぶはっ、お前良いね!」
ひーひー言いながら笑うリュカオンにレイスリーネは「なんだよ失礼な」てな表情を浮べるとそれを見たリュカオンはさらに笑った。リュカオンがひと通り笑い終えるとレイスリーネは胡乱気な眼差しで彼を見たのだった。
「悪い悪い。はー久々に笑ったぜ。
よし、じゃあティアに会いに行こうぜ。俺もちょうどティアに会いに行くつもりだったんだ」
にこやかに笑い告げたリュカオンはがしっとレイスリーネの腕を掴み、引っ張って歩き出したのだった――
「殿下」
執務室で仕事をしていたクラウスは側近のトロワに声をかけられ書類から顔をあげた。
「先日の少女の事が分りました」
「そう、それで?」
「はい。どうやら彼女レーシア神殿より派遣された見習神官のリーネという少女です」
「レーシア神殿と言えば"水の都"ファーニスか」
「はい。それに神官長が何かと目にかけているようですね」
「・・・」
「とりあえずは派閥争いには係わっていないようです」
「わかった、ありがとう」
「いえ、それとオルフェルス殿下が先ほど神殿に向かわれたようです」
「・・・」
クラウスは椅子から立ち上がり窓際に足を運び窓の外へと目を向けた。
「兄上も何をお考えなのか・・・下手に動けば動く程糸が絡まって行くだけなのに。俺が王位についた方が良いと思わせる事ばかりする・・・困った人だ」
すっと目を剣呑に光らせ呟くように告げられた言葉。
側近のトロワはただ静かに主の言葉を受け止め・・・・
「私は貴方がどんな選択を出そうとお仕え致します。もちろんフランツも同じ気持ちです」
側近の言葉にふっと口元を緩ませるクラウス。
窓の外の景色を眺めていたクラウスはふと視界にあるものを目に留めた――
「困った子だ、また執務から抜け出したみたいだね」
どこか苦笑した様子で呟かれた言葉、彼の視線の先にいるのは己の弟のリュカオンだった。
「・・・」
クラウスはリュカオンの後に続いて歩く少女の姿が目にとまる。
そう、先ほど話題に出ていた神官見習いの少女リーネという少女だ・・・
「恋人が出来てからはお遊びは無くなったと思ったんだけど・・・」
リュカオンは宮廷医師バルガスが連れて来た少女と出会ってから今まで遊び歩いていたのをぴたりとやめ、彼女一筋へとなったと思っていたのだが・・・
クラウスは眉を下げやれやれと言った様子で眺めたのだった。
リュカオンに連れられティアのいる南塔の裏側にある小さな湖まで来たレイスリーネ。
レイスリーネはティアの姿を見つけると小走りになり彼女の名を呼んだ。名を呼ばれた彼女は振り向き、その姿を目に留めると驚きに目を見張ったのだった。
「リーネっ!?」
「ティア!」
彼女に飛びつくように抱きついたリーネ。
「どうして、リーネが?」
「ふふっ、会いに来ちゃった」
「来るなら連絡くらいくれても良かったのに」
ティアはちょっと拗ねたような表情を浮かべたものの親友に会えて嬉しいのか笑みを浮かべている。
リーネもそんなティアに笑みを見せ小声で話す・・・
「手紙に書いてあったティアの恋人がまさか王子だなんて、びっくりだよ」
「ふふっ、私もびっくりだった。最初会ったときは王子だななんて知らなかったもの」
「そうなの?」
「うん。告白されてから告げられたの」
「・・・・」
頬を染め心底嬉しそうに言葉を紡ぐ彼女・・・レイスリーネはなんだか面白くなくて
ティアをむぎゅっと抱きしめた――
「あぁ、私のティアが悪い虫の毒牙にっ」
悔しそうに唸るリーネにティアは苦笑したのだった。
「俺は虫はかよ」
リュカオンは困ったような表情を浮かべぼやいた。
「それよりリーネ、その服って神殿仕えの衣装だけど・・・」
「そいつ見習のくせにいっちょ前に仕事サボってたんだぜ」
「見習?」
眉をしかめたティア、まぁそうだろう彼女は私の正体を知っているのだから。
私はティアに目くばせすると気付いたのかなぜ見習などしているのか問われることはなかった――
それから他愛もない話に華を咲かせ久々に楽しいひと時を過ごす事ができた、せっかくここに来たのだからもうしばらくこの国に滞在してティアと戯れようではないか。それと、このリュカオン王子が本当にティアを任せられる相手かどうかも見極めなきゃね!