天泣2
第2話
現在私はオカマと楽しくティ―タイム中です・・・・
「っ、美味しいっ!」
ぱくりと口に含んだケーキ、レイスリーネは目を輝かせケーキに夢中になっていた。
そんな彼女を微笑ましげに宮廷医師バルガス(オカマ)が眺めていた――
「ふふ、そんな慌てて食べなくてもケーキは逃げないわよ」
小指を立て優雅に紅茶を飲むバルガスなのだが、なんせその容貌が鉱山男・・・・
仕草は優雅なのだが、口調と言葉と外見のギャプは凄まじいものがある。
最初のうちびびり気味だったレイスリーネだが、徐々に慣れてきたのかあまり気にしなくなってきた。
慣れって恐ろしいな、なんて密かに思いながらもバルガスの人柄の(オカマだけど・・・)良さにあまり気にしない事にした。
「リーネちゃんはまだこっちに派遣されたばかりの見習いさんなのね」
「はい(ホントは違うんだけどね)」
「大変でしょ、神殿仕えって」
意味ありげな発言にレイスリーネはフォークを咥えたまま顔を上げバルガスを見た。
バルガスは紅茶をかき混ぜながら話しだす・・・
「神殿内部の水面下で勢力争いが起きてるみたいなのよねー」
「勢力、争い?」
バルガスの言葉に眉を潜め神妙な表情になるレイスリーネなのだが、ケーキを食べる手だけは止めない・・・もぐもぐとケーキを口に含みながらバルガスの話を聞く――
「えぇ。この国には王子様が3人いるのは知ってるわよね?」
「はい」
「いずれはリーネちゃんの耳にも入るだろうから話しちゃうけど、今現在第1王子派と第2王子派の派閥があるの。ぶっちゃけ、私は第2王子派だけどね、だってとーっても素敵なんですものっクラウス殿下って!あん、あの眼差しで見つめられたらくらくらしちゃうっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目の前で頬を染め恋する乙女のように恥じらう外見鉱山男・・・・
視覚的ダメージはかなりのものだ・・・・レイスリーネはさすがに口元を引きつらせそっと視線を逸らしたのだった――
「その勢力争いと2人の王子派とどういった関係が・・・」
このままだとなかなか話が進まなそうなのでレイスリーネは問いかけた。
「まぁ第1王子が次期国王になるのが妥当なんでしょうけど、ぶっちゃけ王としての器を持ってるのは第2王子であるクラウス殿下の方なのよね、武芸にも秀でてらっしゃるし頭もいいし、聡明だし。それに比べてオルフェルス殿下の方は神経質で典型的な王族って感じなのよね、貴族の面子には受けはいいでしょうけど下々の者たちにとっては彼の考え方は受け入れられないでしょうね・・・国のためって言うより己の為って感じだし。その点クラウス殿下は国のためにって考えてらっしゃるわ・・・・ま、貴族や家臣たちの間ではどちらが国王に相応しいかってので揉めてるのよ」
「クラウス殿下自身は自分の方が王に相応しいと思ってるんですか?」
「さぁ、どうかしらね。その辺り、本人がどう思ってるかはわからないけどクラウス殿下が王座に就きたいって言ったことは一言もないわよ。あの方は頭の言い方だから自分の発言1つでいい方にも悪い方にも話が進んでしまうって理解しているから下手な発言はしないわね」
なんとも、複雑な・・・
何処でもそういった政権争いがあるのだなとしみじみと思った――
だがそれと神殿内部の勢力争いとはどう繋がるのだろうか・・・
神殿はどんな事があっても中立の立場を保つのだが――‐
そのレイスリーネの疑問にバルガスは生クリームをシフォンケーキにたっぷりつけながら話しだす。
「神殿は今までもどんな事があっても中立の立場を保ってきたの、だけどね。
一ヶ月ほどまえにオルフェルス殿下が婚約発表したの、そのお相手がなんと神殿所属巫女のマリアージュ様!たぶん手を回したんでしょうね、神殿側としても神殿巫女であるマリアージュ様が第1王子の婚約者となれば第1王子派に付かなきゃいけないと目論んだんでしょうけど。今の神官長は神殿巫女が第1王子の婚約者になろうが、神殿は中立の立場を維持するって発表したの。素敵よねベルゼフ神官長、もうちょっと若ければ狙ってたのに、残念だわ」
心底残念そうに告げるバルガス・・・レイスリーネは心の中で呟いた。
ベルゼフ神官長、良かったですね・・・もう少し若かったらバルガスさんに狙われる所でしたよ・・・
「ま、そんな感じで第1王子派は思惑通りに行かなくなったから水面下で神殿内部の
人間に接触して何らかの手段で第1王子派に引きこうもと動いてるのよ」
「成程・・・」
ベルゼフ神官長は私にはそんな事一言も話さなかったからな・・・
まぁ、私は他神殿所属だし、ただの押しかけ客人だからここの神殿の内情など話すはずないか――・・・
「まぁリーネちゃんはまだ見習だからそうそう巻き込まれることはないと思うけど
内部での両殿下派の対立は日に日に目に見えちゃうでしょうね・・・大変だろうけど頑張るのよ。
私ならいつでも相談に乗るから遊びに来てちょうだい」
レイスリーネはそっと溜息を吐いたのだった・・・
こくりと紅茶で喉を潤し、甘いケーキを頬張った――
「・・・リュカオン殿下はその勢力争いには入ってないんですよね?」
両殿下の派閥から除外されているのならそんなに影響はないだろう、なによりもティアに火種が飛とぶようなら黙って見ているわけにはいかない・・・
「う~ん、リュカオン殿下はぶっちゃけクラウス殿下派ね」
「・・・・うわ、マジですか」
ぎゅっと眉をひそめたレイスリーネ。
やはりどちらの派閥にも付かず係わらず、傍観者ってわけにはいかぁー・・・
レリスリーネが複雑な表情を浮かべたことにバルガスは苦笑した。
「リュカ殿下はクラウス殿下の事を慕ってるから、自ずとクラウス殿下を支持するでしょうね。
リーネちゃんが危惧することは分かるわ・・・ティアちゃんに火の粉がかからないか心配なんでしょ?
まぁ、その辺りはリュカ殿下が全力で守ると思うわよ。それにしても、リーネちゃんは友達思いね」
「ティアは私の一番の親友ですから」
私がいま、真っ直ぐ前を向いて歩いて行けるのはティアのおかげなんだもの・・・
ティアと出会えていなかったらいまの私はいなかったから――