天泣
序章
大陸でも有数の大国クローク王国、広大な土地は緑豊かに恵まれ肥えた大地のため”豊穣の都”とも呼ばれている――
そのクローク王国の王都アステリオの要、アステリオ城内にある神殿の一室・・・
「”聖女”である貴女が我が国に滞在して下さる事はても光栄な事なのですが・・・
貴女の滞在を国王陛下にも隠密にというのは・・・」
アステリオ神殿の神官長ベルゼフは眉を下げながら目の前に座る少女に言葉を濁しながら告げるが
少女はにっこり微笑み・・・
「大丈夫、バレなきゃいいわけですし」
「いや、バレなきゃという問題ではなくてですね・・・
貴女程の方が滞在しているということはさすがに陛下には報告しないと不味いのです」
ベルゼフの言葉に少女はう~んと唸りながら首をかしげ・・・
「私がクローク王国に来た目的は本当に個人的な事で来たんです。
だからこうして人払いしてもらったうえに身分を隠して来たんです。
たかが個人的なことのために国王陛下に報告するまでもないですし、大ごとにしたくないんです」
「失礼ですが、個人的な事とは・・・?」
「友人にどうやら恋人が出来たらしいんです・・・・
その相手をちょっとばかりどんなヤロウ・・・失礼、どんな殿方なのかを見に来たんです」
遠慮がちに問うベルゼフに少女はにっこり笑みを浮かべながら告げる、ベルゼフは少女のその笑みの下に隠れた”私の大事な親友の心を射止めたヤロウはどこのどいつだ”と言った雰囲気に口元を引きつらせた――
「・・・そ、そうですか」
「えぇ、そうなんです。ちなみにひとつ聞いてもいいですか?」
「何でしょう」
「この城内にいる方の名前で、リュカって人に心当たりはありませんか?」
「リュカ、ですか?城内には沢山人はいますからね・・・・」
手を顎に置き考えるベルゼフに少女は友人からの便りの手紙に触れられていた内容を思い出し、
友人のお相手のリュカという人物以外に出てきた名前を思い出す――
「えぇ、と・・あとはオズ、って方とか確かリュカの友人って人がセツナって名前だったはず・・・・」
「・・・・」
少女の言葉に何やら思い当たる節が見つかったのかベルゼフは軽く目を見開くと、どこか気まずげに視線をさ迷わせた。
その様子に少女は不審げに見ながら心当たりがあるのかと問うと・・・
「その、オズとセツナという名前と”リュカ”という人物・・・・ですが」
言葉を濁らせるベルゼフに少々眉をひそめ、次の言葉を待つ・・・
「リュカと言う方の正式な名前はリュカオン・クロークと言う方で間違いないかと」
リュカオン・クローク・・・・ん、クロークって――‐
「えっ、ちょ!?」
「我がクローク王国の第3王子リュカオン様の事かと。
オズ殿とセツナ殿はリュカオン殿下の側近をされている方々です」
眉を下げ、困った表情を浮かべるベルゼフを凝視したまま固まる少女・・・・
「―っ、王子って・・・・」
まさかのお相手に戸惑う少女を見ながらベルゼフは思い出す。
ここ最近第3王子と噂になる少女の事を・・・確か宮廷医師のバルガス殿が薬草に関して高い知識を持つ娘だと見染め王国の外れの村より連れてきて己の補佐の薬師にした少女だったはずだ――
「まさか王子を射止めるなんて、さすが私の親友ね・・・だけど」
友人としては玉の輿だと喜ぶべきなのだろうが、そうもいかない。
相手は身分の高い人物だ、なんせこの国の王子ときた・・・リュカオンという王子かどんな人物なのか
見極めなきゃいけない・・・・私の大切な親友である彼女を傷つけるような相手なら容赦しない・・・
少女はキラリと目を光らせる――
「ベルゼフ神官長」
「・・・」
「暫くお世話になりますね」
にっこり、意味ありにげほくそ笑む少女にベルゼフは深い溜息をつき頷くしかなかった―――