記録6 初陣
6話目です。私の作品を待っていた方々、大変お待たせしました。今後投稿頻度が遅いと思いますが、どうか気長に待っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは本編へどうぞ。
ユスティティア、そして今回で初めての戦いのノースは千華と合流するため千華の基地へ向かうのだった。基地はここ『太陽の間』と言う都市とは別の都市『生命の間』にいるらしい。
ここでノースはあといくつの都市があるのか疑問に思った。
ユスティティアに聞いたところ、まず大前提として、この世界では都市は人間たちで言う国と同じである。さらにこの世界は100以上の都市で埋め尽くされている。
天界は都市で埋め尽くされた世界『都市世界』。空は存在するが、宇宙のような空間は存在しない。
ひたすら上へ飛んでいくと、はるか先に見えない壁のようなものがあるらしい。その壁は『次元の壁』と言い、世界を隔てる役割を持つらしい。人間たちのいる『宇宙』という世界。天使や仙人がいる『天界』と言う光の世界。他にも多くの世界を分けている。これはどの世界も共通して壁が存在する。
ユスティティアがそうして長話をしていると、いつの間にか目的の館に到着していた。薄暗い館を朝日がうっすらと照らす。近くにあった花壇の花たちも朝日に照らされ鮮やかな色を放つ。
ユスティティアとノースは門を開け、敷地内に入ると、館のドアを勢いよく開け誰かが出てきた。1人は千華だったが、もう1人は知らない顔の男だった。肌は黒く、羽がたくさんついたアーマーを着ており、背中には槍を背負い、背中に翼は生やしていなかった。見た目はどこからどう見ても人間だ。しかし、人間にはないはずの魔力を確かにノースは感じた。
男は千華を引っ張りながら文句を言っていた。話の内容を聴く限り、千華が寝坊したにも関わらず、いつまでもダラダラして、さらには寝ぼけて男を食べようとしていたらしい。
男はこちらになんとか千華を引っ張ると、真っ先に謝罪した。千華はまだ眠いのか持っていた木がねじれて一本になり、先端に紅色の球体のものがはまった杖を普通の杖と同じようにして使い、目は半分閉じていた。明らかに活気が見られない。
「すみません、団長がなかなか起きないもので…」
「大丈夫だよ。僕もついさっき来たばかりだから」
「…あなたは、団長が言っていたラー副団長の…」
「ああ、そうだよ。うちのメイド、ノース・ガラドリエルだよ」
「本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな。俺は仙人族の『ゼイン・ラシュー』。団長たちほどではないけど、俺もそこそこ強いからな」
そうしていざ目的の場所へ向かおうとゼインは千華の方へ目をやると、千華はいつの間にか大きな綿花を作り出し、その上で気持ち良さそうに寝ていた。
「寝るなー!団長!あなた俺の100倍も年上なんですから、ちょっとはシャキッとしてください!」
ゼインはさすがに怒ったのか、綿花をひっくり返し、千華を無理矢理叩き起こした。千華はそのまま地面に転げ落ち、ようやく目が覚めたようだ。大きなあくびをして何事もなかったかのように『じゃあ、行こっか』とだけ言って先々進もうとしていた。文句を言いつつも、ゼインは千華の後を追った。ユスティティアとノースも後ろをついて行く。
ノースは先ほどの会話で一つ疑問に思った。千華やゼインの年齢はいくつなのだろうかと。
ユスティティアや千華のような『神族』と呼ばれる者たちは長寿で、最長で100万年も生きるそうだ。しかし、ゼインのような『仙人族』や王 破浪のような『天使族』は最長で1万年程度。肉体年齢はほぼ同じ25歳程度だが、『神族』が感じる一歳と『仙人族』や『天使族』が感じる一歳では差がありすぎる。そうユスティティアは説明をするのだった。
やはり、神というのはそれだけ高位の存在なのだろう。そう考えてみると、ノースは自分がおこがましく思えてきた。天使や仙人ならまだしも、こんなただの機械が全てを統べる神の隣に相応しくないと感じ始めた。
ユスティティアはノースの顔色が悪くなったのを見て少し心配したが、ノースはその気持ちを悟られたくなくて『大丈夫です』とピシャリと言い切った。
ユスティティアとノース、そして千華率いる『生命組』は問題の地『サンライズ・ビーチ』に着いた。あたり一面白い砂浜が広がり、海は波が勢いよく押し寄せては引いてを繰り返し、自然と夏を満喫しに来たような思いにさせる音を立てていた。国民たちは安全のため誰もいないが、上りかけた朝日が海を白く照らしていた
ノースは物珍しい顔をして、白波がたっては消えていく光景を見ていた。
しばらくその光景に見惚れていると、突然目の前に全身真っ黒の人型の何かがビーチを埋め尽くすほど大量にいた。
「!こいつらがここで悪さしていたのか!」
各自臨戦態勢に入り、ヒリついた空気になる。
「…数が多いわね。私たちの兵士は回復やサポートを得意な人が多いから、前衛を任せてもいいかしら?」
「ああ、もちろんさ!行くよ!ノース!」
「承知しました。戦闘モード起動。警戒レベルをフェーズ3に設定。警戒を怠らず、迅速に殲滅を開始します」
ノースは腰につけていたナイフとバンドガンを手に持った。
次の瞬間、黒い何かはノースめがけて拳を突き出した。拳はノースの腹に直撃した。だがノースにはなんのダメージにもならなかった。当然だ。ノースの体の8割近くが鉄でできている。ダメージになるのは殴った側だろう。
ノースは表情一つ変えず、ハンドガンで頭を撃ち抜いた。撃たれたそれは、少し後ろに仰け反った。
それが開戦の合図でもあった。それを見た相手は一斉に突撃してきた。
「まとめて来てくれてありがとうな!」
ゼインは槍を大きく振り回すと、前方に竜巻ができた。竜巻は砂浜と相手を巻き上げた。
『ギガ・タイフーン』
それを良好と見た千華は鋭い葉を大量に生成し、そのまま風にのせた。
『キリバナの葉』
合成技『新緑の嵐』
巻き上げられたそれらは細かい斬撃でダメージを負っていく。しかし、次々と脱出してこちらに向かって来る。
ユスティティアはアサルトライフルのような武器から炎の弾を連射した。
『爆炎連弾』
地面や相手に当たった瞬間、爆発を起こし、あたりを焼き尽くした。地面はえぐれて少し大きめの波がたっていた。
「ちょっとユスティ!いくらなんでも火力高すぎ!近くには店もあるのよ!」
正論をぶつける千華。ユスティティアは謝るが、一応、彼なりの理由はある。
ノースの一撃で倒れないことはまだしも、千華やゼインの高度の魔法を受けても消滅しないほどの硬さ。手加減しているとはいえ、ユスティティアがあれを受ければ相当ダメージが入るだろう。それだというにも関わらず、特に目立ったダメージは入って無さそうなのだ。そもそも、ゼインの作る竜巻は捕縛性能が高い特徴がある。それを抜け出すのも不自然だ。魔界の奴らがこれほどの戦力を持っているはずがない。それに、どことなく違和感を感じる。
炎と黒い煙が消えると、先ほどより敵の数は減った。
「…うーん、炎が弱点だったのかな?とりあえずゼインと千華、その他炎が得意な人は前衛に出——」
そうして後ろを向くと、ノース意外全員少し離れ、信頼した目で完全にサポートをする体制に入っていた。
「…僕はタンカーじゃないけど?」
太陽神とは思えない冷ややかな目つきでみんなを見た。
「私も攻撃してみます」
『落雷華』
ノースが狙ったところに雷が落ちると、轟音をたてて花のように放電した。威力が凄まじく、敵を一撃で一掃したうえに、轟音のせいで生命組の兵士たちの大半が気絶した。その場にいた人たちは皆驚きのあまり絶句していた。
被害を調べてみると、周辺の建物およそ13400件が停電したらしい。幸いなことにすぐに電力は復旧したようだ。
その後、気絶した人たちは鼓膜に異常はなかったが、ノースが出したあの魔法について話していた。
「…ユスティティアと同じくらいの実力を持っているとは聞いていたけど、まさかここまでとはね…」
「すみません、私が手加減できなかったせいで…」
「大丈夫。団員も皆無事で後遺症もないし、戦闘によって起こった被害は基本的に全て最高神様の組織が負担してくれるから」
「そうよ!初めて魔法を使ったら誰しも完璧に使いこなせないから」
そうして慰めるユスティティアと千華。
ノースが少し落ち込んでいると、頭の中がむしゃくしゃするような不快な感覚がし、自然と少し眉を顰めた。それを見た千華は海の方へ歩いて行った。
「ねぇユスティ君、ノースちゃんって濡れても大丈夫?」
「?まぁ、一応水に長時間浸かっていても大丈夫なようにしているから大丈夫だけど…、でもどうしてそんなこと——」
次の瞬間千華は植物を使って海水をユスティティア、ノース、ゼインの3人に勢いよくかけた。
「うわっ!」
「アッハハ!隙だらけよ!」
「…団長、早いとこ帰らないと——」
ユスティティアは何か察したように千華の挑発に乗った。
「よし、そっちがその気ならとことんやってやる!」
そうしてユスティティアも持っていた魔法の銃に水を入れて反撃する。
「…団長と副団長が揃いに揃って…」
「ですが、とても楽しそうですね」
「でも帰らないと——」
今度は先ほどより大量の海水をゼインにかけた。ゼインは全身びしょ濡れになった。
「ほらほら鬼さーん、やられっぱなしでいいんですか〜?悔しかったらやってみな〜!アッハハハ!」
千華はゼインに向かってひたすら煽った。すると、ゼインは無言で立ち上がり、千華がいるところに竜巻を出し海水を巻き上げた。
「…分かりましたよ。そこまで言うなら本気で付き合ってあげますよ」
「やったわね?」
その後も3人のじゃれ合いは続いた。
私もあの中に入りたい。
でも、私にそんな資格はない。
きっと邪魔でしかならない。
私はこれでいい。
これで…
「ほら、ノースもおいでよ!」
ユスティティアはキョトンとこちらを見るノースを誘った。しかしノースは遠慮した。どうせ気遣ってくれているだけだと思ったからだ。だが、次の一言でそうではないと感じた。
「ノースがいたらもっと楽しいはずだよ。それに、これじゃ親友なのに仲間はずれみたいじゃん」
「そうよ、ノースちゃんもおいで。一緒に夏を楽しも」
「この世界に季節はないけどね」
...理解できない...。
なぜ...、なぜこの方たちは、こんなに親切なのでしょうか?
…私なんかが…、こんな、どうしようもなくてなんの取り柄もない私が、幸せになって良いのだろうか?
こんな惨めな私が、この方たちの隣にいて良いのだろうか。
親友と呼ばれても、良いのだろうか。
こんな…、なんの価値もない私が…、この人たちと共に…、生きても…、いいのだろうか…。
...いや、それを考えるのは止めよう。…今はこの方たちのために生きよう。私の仲間のために。
それが、私の生きる意味や価値…。
それが...、私に与えられた意味のある命令...。
「…はい…、承知しました。…ご主人様」
その後、思いっきり遊んだ一同。
翌日…、
「…お前なんか肌黒くね?」
「いや〜、僕結構日焼けしやすいやだよね〜。こんなことなら日焼け止めでも塗っておくべきだったかな?」