記録5 本格的な準備へ
5話目です。今回も刺激的なシーンはありません。
これから先、勉強の都合上投稿頻度が大幅に下がるかもしれません。万が一そうなってしまっても、私の作品を楽しんで頂けると嬉しいです。
それでは本編へどうぞ。
「………」
一同呆然としていた理由は、ノースが最上級兵種『マジカルスナイパー』の試験にアッサリと合格してしまったことだ。
試験内容としては、与えられた武器を上手に使いこなし、試験官を倒すという内容である。試験官は試験の難易度や種類によって多少違う。今回ノースの相手をした試験官は元天界のエリート兵士なのだが、ノースに手も足も出ず一方的にやられていた。挙げ句の果てに、ノースなりの配慮なのか試験官を傷つけず、最終的に降参させるという圧倒的な実力を見せつけた。
「すごいじゃないか!さすが僕のメイドだ」
ユスティティアはライセンスを持って帰ってきたノースの頭を撫でた。ノースは
「私は犬ではありません。私は機械です。撫でられても幸福感は抱きません」
などと文句を言うが、満更でもないような顔をしており、頭が少し温かくなった。
「さーてと、あんた、まさかとは思うがその格好で戦わないよな?」
ノースは自分の姿を見た。フリルがついており、スカートは膝下まであるロングスカート。かかとがやや高いブーツ。頭には白いリボンのようなもの。どれも何か特別な仕組みがあるわけでもない、ただのメイド服だ。こんな姿で戦闘をすれば、動きにくいのは当然。耐久面や性能面も心配だ。
「…確かに、先ほど試験を受ける時もスーツのようなものに着せ替えられました。あちらの方が断然戦闘に適していました」
「それじゃあ帰りに買いに行くか」
ユスティティアはそうして財布を取り出し中身を確認し始めた。するとエレンディルはユスティティアの肩に手を置いた。
「ハッ!うちがなぜわざわざこんな話してると思ってんだ?察しが悪いな」
「え、まさか…、ノースの戦闘服を用意してくれたのかい?」
「あたりめぇだろ。まぁ、準備したのはうちじゃないがな。つーわけで、一旦基地に帰るぞ」
そうして一同基地へ戻った。エレンディルはノースの装備があるという部屋へ案内した。そこはたくさんの防具やアクセサリーが立てかけてあり、何人か防具の作成に励んでいた。アーマーやヘルメット、ドレス、ペンダント、指輪など様々あった。
「よ、『クラ』。あれはもう完成したか?」
エレンディルが話しかけたのは、紫の髪と濃い青色の目が特徴的な細身の女性だった。薄めにメイクをしていたが、あまり目立たない程度だった。服の寸法をしていたのだろうか。手にはメジャーのようなものを持っていた。
「あ、エレンちゃん。うん、もう完成してるよ。それで、そこにいるのがノースちゃんね。初めまして。私は『クラウディア・ジュリア』。私は直接戦いに出ることはないけど、こうして服やアクセサリーを作っているよ。それはさておき、ノースちゃん専用の防具をいくつか用意しておいたよ」
ジュリアはメジャーを置くと、部屋の奥の方から服を着たマネキン3つを持ってきた。それぞれ着ている服が全く違っていた。
「ノースちゃんの好みとか全然わかんなかったからとりあえず3つ作っちゃった。
まずこれ。これはあそこにいる『ルーヴェン・ギルバート』っていうアーマー専門の彼が作った物なの」
大きな鱗がたくさんついている防具で、いかにも厨二病が気に入りそうな見た目だった。そしてノースはそのアーマーをスキャンし始めた。
実はノースは試験中に新たな能力を見つけたのである。それが今使っている『情報分析』という能力である。これは、対象の身体能力や特性、さらには状態異常などの情報を一瞬で見通すことができる能力である。
アーマーを分析した結果、『アクアドラゴンのドラゴンスケイルアーマー』と判明。総重量は約45kg、高い防御力と耐火性、耐水性がある防具。内部には皮の防具があるようだ。
ノースは機械のため、万が一水の魔法が得意な相手だと、内部に水が入りショートしてしまう可能性がある。それを考えると、かなり良いのかもしれない。さらに、これだけふんだんに素材を使っているにも関わらずこの重量。必要最低限エネルギーを消費せず動けるかもしれない。
「それで、こっちはあの人『ディートヘルム・クラウン』が作ったアーマー」
こちらの見た目は形はドレスのように見えるが、素材は金属を中心に使われており、おまけ程度に少し装飾が施されていた。名称は『アーマードレス』と言うらしい。
分析してみると、防御力は先ほどのアーマーには劣るが、雷魔法を強化してくれるような細工が施されており、高火力が期待できる。また、こちらの方が動きやすいため、攻撃特化ならこちらの方が良いだろう。
「それで最後に、これが私が作った戦闘服。ノースちゃんってメイドだから、こっちの方が安心感あるかなって思って執事服をベースにしてみたの」
見た目はごく普通の白と黒の執事服だった。戦闘目的だからなのか、やけに体にフィットするように作られている。
さっそく分析してみると、重量は当然これが最も軽い。だが驚くべき点は耐久面である。こんな見た目をしているが、先ほどのアーマードレスとドラゴンスケイルアーマーの中間あたりの防御力があるようだ。さらにドラゴンスケイルアーマーほどではないが耐火性、耐水性がある。
ノースは頷きながらそれぞれの防具を見ていた。製作者3人は息を飲んでその姿を見ていた。
「…。決めました。これにします」
選んだのは執事服だった。理由としては、ドラゴンスケイルアーマーはノースの戦闘スタイルに適していない。ノースは体重に見合わないスピードで相手を翻弄する戦闘を得意とするが、そのためにはできるだけ動きやすいものでないといけない。元々、ドラゴンスケイルアーマーは比較的軽いものが多いが、どちらかというと重戦士あたりが着るものだ。
かと言って、アーマードレスは耐久面が不安だ。高い攻撃力を出せるのは魅力的だが、アーマーにしてはいくらなんでも防御力が低すぎる。今後どこかで誰かを庇うことが必ずある。ノースの場合ユスティティアのことを庇うことはどこかで必ずあるだろう。もしそうだとすれば、必要最低限の耐久力は必要だ。
そうして考えた結果、ノースはこの選択をした。
答えを聞いたクラウディアはとても嬉しそうな顔をした。嬉しさのあまり少し泣いていた。
「ほんとに!?ありがとう!これ作るのに3日もかかったから嬉しい!こだわりにこだわって良かった〜!じゃあ、早速着替えてみよっか。サイズ調整もするから一緒に試着室入らせてもらうよ」
ノースとクラウディアは奥の方にあった試着室に入って行った。
ユスティティアたちはノースが着替え終わるのを待っていると、そこに千華がやって来た。
「あ、いたいた」
「あ?ああ、千華か。何か用でもあるのか?」
「そうなのよ。実はこの依頼をしなきゃいけないんだけど、今日に限って多くの重傷者患者を診なきゃいけないの。それでこの依頼を手伝ってほしいの」
千華は一枚の紙をエレンディルに渡すと、エレンディルは紙に書かれている内容を読んだ。
天界の『サンライズビーチ』にて悪魔と思わしき生物が観光客や近隣住民を脅かしている。
警戒レベル:『A』
これで表している『A』は任務の難易度を表している。下から順に『F』『E』『D』『C』『B』『A』と難易度が分けられており、ごく稀に『S』が出ることがある。基本的にこれらの難易度は最高神が決めている。しかし、『S』は『strange』の頭文字を取ったもので『奇妙な』という意味がある。最高にして最強の最高神ですら奇妙に感じるほどの依頼ということだ。滅多に出るはずがない。
話は戻るが、知っての通り今の光組はただでさえ人手不足で毎日忙しい日々を過ごしている。今日も当然、全団員忙しい。とても人手を割くことはできない。
「そう言っても、うちも忙しいんだ。ただでさえ団員が少なくて切羽詰まった状況なんだよ。そう簡単に割くことなんてできない。それに、私たちみたいな団より強い奴らはいるだろ」
そうキッパリと断るのだった。だが千華には他の団は全て回ってここしかないらしい。必死に頼みついには跪きエレンディルのスカートを掴んだ。さすがにエレンディルはその勢いに根負けし、渋々ユスティティアを出した。
だがそれだけでは足りない。せめてもう1人、ユスティティアと同じくらいの実力者が欲しい。ユスティティアは早めに任務が終わってまだ余裕があるからいいものの、その他団員たちはエレンディル含め全員忙しい。こればかりはエレンディルにはどうしようもなかった。それでも千華はしつこくお願いをしてくる。
その時、ノースたちが帰って来た。長い白銀の髪は短くなるようまとめられ、リボンがついており、顔も気のせいか少し凛々しく見え、メイドの時の優しい雰囲気とは逆に全体的にスタイリッシュになっていた。
「…いかがでしょうか?このような服を着るのは初めてで、あまり慣れない感触なのですが…」
千華はもちろん、ユスティティア、エレンディルなどその場にいた誰もがその姿に釘付けになった。
「ノースちゃん、どうしたの!?その姿!」
「やはり夏希様がいらしたのですね。話は聞こえていましたので、説明は不要です。そしてこの服は戦闘用としてこちらの『クラウディア、ジュリア』様という方が作ってくださった服です。…どうでしょうか?似合っているでしょうか?」
「似合ってるよ!メイドのノースちゃんはほわほわほでかわいい感じだったけど、これはなんかこう、キリッて感じでかっこいいし、かわいさもあってそれに——」
ノースは千華の反応が予想以上に熱烈でどう反応すべきかわからず混乱していた。このまま喋らせておくと永遠に話しそうなのでユスティティアは無理に中断させ、話を戻そうとした。
「…そうか。こいつがいたわ」
しばらくノースを見つめていたが、唐突何かひらめいたかのようにそう発言するエレンディル。
「千華、ノースを連れて行け」
衝撃的な一言だった。普通に考えてみれば、初めて戦闘に出るのであれば、まずは弱い敵と戦わせて徐々に戦いに慣れていく必要がある。ゲームなどで例えるなら、初めて会った仲間を連れていきなり敵の幹部と戦うのではなく、初めは弱いモンスターと戦い少しずつ強くさせるのが普通だ。
しかしエレンディルはそれを完全に無視し、いきなり高難易度の依頼をやらせようとしている。いくら千華やユスティティアといった猛者たちがいて、さらにユスティティアに名前をつけられ、ユスティティアと同格の強さを手に入れたとしても、本当の戦いはそんな甘いものではない。それは団長であるエレンディル自身が一番理解しているだろう。
当然千華を含めた全員が反対した。こんな無鉄砲で無謀なことは誰も認めるわけがない。だが、それを完全に否定することはできなかった。
不思議なことにエレンディルの直感はよく当たる。今までこの団が壊滅せず成り立っているのは彼女の豪運のおかげと言っても過言ではない。
結局、周囲の者たちは渋々従うことになった。
そうして、ノースとユスティティアは千華の依頼の手助けをすることになった。しかしユスティティアはいつも以上に険しい顔をしていた。