記録3 女番長率いる光の冒険者たち
3話目です。今回も特にグロテスクな表現および刺激的な表現や描写はないと思います。楽しんで頂けると大変嬉しいです。
では、本編へどうぞ。
千華の件の翌日、ユスティティアは朝早く起きた。ユスティティアには大切な仕事がある。内心面倒だと思いつつも朝食を作るためにキッチンへ行く。
するとそこには、キッチンを目の前にして仁王立ちしているノースがいた。ユスティティアはノースのことを呼んだが、全く微動だにしない。近くに行って再度呼んだが、それでも無反応だった。
ユスティティアはまさかと思い、部屋から持ってきたケーブルの片方をノースの後頭部へ、もう片方をコンセントへ差し込んだ。
そして、このままでは邪魔になるかも知れないので、部屋の隅の方へ移動させようとした。しかし、ユスティティアがどれだけ力を入れてもノースは動かなかった。当然である。ノースは全身の7割以上が鉄でできているため、見た目以上の重さをしている。仕方ないのでユスティティアは念力を使って移動させた。
しばらくして、ユスティティアが朝食を終えたと同時にノースの充電も終わったようだ。独特な機械の音を出した後、ノースは気がついた。
「…!私はなにを…!」
「あ、ノース。おはよう」
「ユスティティア様、おはようございます。…あの、私どうなっていましたか?」
ユスティティアはこれまでのことを一語一句説明した。
「そうでしたか…。私としたことが、不甲斐ないです」
「それで結局なにをしていたんだい?」
「…実は、ユスティティア様のために朝食を作ろうとしていたのですが、キッチンへ行くにつれて体が重くなって…、だんだん意識が遠のいていって…」
「なにそのホラー展開…。それなら近いうちに自己発電機能をつけないとな」
そんなことを話しながらノースは食器を片付け、ユスティティアは何やら身支度をしていた。
「ユスティティア様はどこか出かける予定なのですか?」
「まぁ、そうだね。これから仕事へ行くんだ」
「仕事…ですか」
「そうそう、昨日の朝ぐらいだったかな?それと同じだよ」
ノースはあの頃のことを頼りにユスティティアの仕事を思い浮かべた。その結果、真っ先に思い浮かんだのは救急救命士のような姿だった。実はノースはユスティティアが人殺しをしていたところは見ていなければ聞こえてもいない。
しかし、ノースはユスティティアが銃やアーマーを着ている姿を見て、次は戦闘員の姿を思い浮かべた。
「…そんなに考えなくても、すぐわかるよ」
ユスティティアの身支度ができたので、2人は行くことにした。武器やアーマーがぶつかる音を鳴らしながら歩くため、すぐさま周囲の注目を集めた。
「…皆さん、ご主人様のことを見つめたり、噂したりしていますね。悪意のある目線や話ではないことは感じ取れますけど」
「…ちょうど良いし、僕の仕事について話すか。僕の仕事はここ『セレスティアル』を守るために戦うこと。
…と言っても軍人みたいな厳しい訓練とかは強制ではないけどね。数多くの冒険者が集まって、家族のようにお互いを大切にし、皆がこのセレスティアルのためになるよう尽くす。こうした便利屋みたいな集まりを『七芒星の英傑団』って言われているんだ。仕事や家事の手伝いはもちろん、戦闘、救護、治療…、依頼さえしてくれればなんでもする」
ノースはだんだんユスティティアの存在が怪しくなってきた。言い方の問題もあるかも知れないが、万が一の事態にならないか不安になった。だが、少なくとも周囲の人々がこのお方を悪い目で見てはいないことはわかる。
そうこうしていると、前に大きな白い館のような建物が見えてきた。そしてその出入り口付近では多くの人が慌ただしそうにしていた。設置されたワープホールに入ってはダンボールを館の中へ運び入れていた。
その光景を見ていると、そこの現場監督をしていたのだろうか、身長はノースと大して変わらず、手にはタブレット端末を持った短い金髪の女性が来て、ユスティティアの頭を叩いた。
「痛い!」
「あんたどこ行ってたんだよ!?今、物資を受け取っているけど、本来ならあんたが指揮するのにうちがする羽目になったんだからな!?」
「ごめんって…」
「…ん?その子は?」
ノースは女性と目が合うと何かを察したかのようにお辞儀と自己紹介をするのだった。
「お初御目にかかります。先日からユスティティア様専属のメイドにさせていただきました。機械の『ノース・ガラドリエル』と申します」
ノースのことをしばらく見つめると、女性は笑みを浮かべた。
「…へぇ、あんたがユスティのメイド。こいつがメイドを持つのは想像していなかったけど、まぁこいつのことだ。なんか理由があるんだろうな。ま、なんだって良いけどさ。
それと、うちからも自己紹介させてもらうよ。うちは『エレンディル・ラー』。ここ『光組 団長』さ。てことで、世髏刺苦!」
そうして拳を前に出すエレンディルという女性。それに応じるかのようにノースも拳を出した。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
次の瞬間、エレンディルはノースの拳に向かってほぼ殴るように自身の拳を突き出した。金属と何か硬い物がぶつかる音がした。その直後、エレンディルはその場に無言でうずくまってぶつけた拳を痛そうにしていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あんた、機械ってのはホントなのかよ…!魔力普通に感じるし、嘘だと思ったじゃねぇか…」
「…やっぱり、姉さんも感じる?」
「感じてるなら先に言え!アホ!…はぁこれに関しては後だな。まぁ、入りな」
そうして2人が入ろうとするが、エレンディルはユスティティアだけ館に入るのを拒んだ。
「あんたはここの仕事を終わらせてからだ」
「ええ…いいじゃん別に」
「本来ならあんたの仕事なんだからあんたが終わらせなさい」
「へい…」
ユスティティアはエレンディルに言われるがまま渋々仕事を始めた。
その間にエレンディルとノースの2人は館の中へと入っていく。中はどの部屋も広々としており、エントランスホールには鉄製の大きなシャンデリアがぶら下がっていた。団員と思われる人たちもいた。団員がエレンディルとすれ違うたびに個性的な挨拶をしてきた。
「姉御、お疲れ様ッス!」
「団長殿、お疲れ様なのです!」
しかし、ノースは入った瞬間内装に違和感を感じた。確かにどの家具や装飾も綺麗で、一見普通の城の内装なのだが、不可解な点は全ての家具や装飾がやたら大きいことである。シャンデリアも、タンスや冷蔵庫などの家具も、柱や壁に至るまで全て規格外の大きさをしていた。
「ここは基本うちらの家とか仕事場みたいな場所だ。依頼主がここに来てうちらが依頼をする。あとは基本自由行動だ。まぁ、最近の常連客は最高神様直属の兵士なんだがな。
…おっと、時間だ。一度隅に逃げた方が良いぞ」
ノースたちは廊下の隅の方へ寄ると、シャンデリアや柱などの内装や家具から大量の武器が出てきた。そしてエントランスホールの反対側から多くの団員たちが銃撃や魔法が乱れ打つ中、凄まじい勢いで通り抜けて行った。
「こういう真面目に鍛錬するやつらがいるから、そいつらのための設備だ。今日は突破訓練、毎日訓練の内容が変わる仕組みだ」
「なるほど、そういうことだったのですね」
しばらくその光景を眺めていると、1人の男性が火炎弾に直撃してこちらに墜落した。あまりダメージはなさそうだが、綺麗に整っていた短い赤髪と服は乱れていた。
「またそこで引っかかったな。お前本当にそこ苦手だよな、王 破浪」
「ハハ…、そうですね。…その人は?」
「こいつか?こいつは『ノース・ガラドリエル』。うちの弟のメイドらしい。…ってそうだ、結局お前何しに来たんだよ」
その場の流れですっかりそのことを忘れていたエレンディル。ノースとしては、とりあえず付き添いとして来ただけであって、見学や加入などは全く考えていなかった。
「ノースも加入してくれないかな?って思って連れてきたんだ」
いつの間にエレンディルの背後にいたユスティティア。ノースと王 破浪はエレンディルの方を向いていたが、話し始めるまで気づけなかった。
「また『光速移動』使って来たのかよ…。そこはワープでいいだろ」
「ワープするのはあまり得意じゃないし、こっちの方が魔力使用効率良いからこっちでいいじゃん」
「…はぁ、んで?こいつをうちの団に入れるって?そもそもこいつ自身はOKしたのかよ?もしそうだとしても、最近は戦闘の依頼が増えて今は即戦力になる人材が欲しいんだ。誰かが面倒なんて見てる暇なんてねぇぞ?」
エレンディルは次々に正論をユスティティアにぶつけた。
ノースは理由を聞くためため質問すると、今この団では明らかな人手不足が発生しているらしい。
この世界では最高神が世界の全てを統制している。最近では、最高神からの依頼が多く、ここ光組だけでなく七芒星の英傑団全てが慌ただしくしている。
しかし、元々光組は全ての団の中で最も団員が少ないため、どうしても過酷な毎日になってしまう。そのうえ、戦闘により命を落とす者や今の状況に耐えきれず、自ら脱退する者もいるため団員は減る一方。最悪の場合、光組の消滅まであり得る危機的状況になってしまっているらしい。
この団は孤児だった者やホームレスなどの集まりのため、万が一そうなってしまうとその人たちの居場所が無くなってしまう。それを食い止めるため、精一杯団員を集めたり、地域貢献をしているが、全く状況は良くなっていないのが現実らしい。
「…今までずっと耐えてきたが、そろそろまずいかもしれないな。…あんたはうちの弟の面倒だけ見ていればそれで良い。うちの弟はただでさえ世話が焼けるからな」
「それはどういうk——」
「とにかく、この話はこれで終わりだ。今日はもう遅いし、うちで泊まっていけ。場所はちゃんと用意してやる。」
エレンディルはそうしてその場を立ち去ろうとした。
するとノースは、小声で何か言った。エレンディルは声はしたことに気づいたが、何と言っているかは聞き取れなかった。
「あ?なんか言ったか?」
口調こそ荒っぽいが、どこか優しさを感じる声だった。ノースはエレンディルにズンズンと近寄ると、目の前で止まりはっきりとした声で言った。
「私をこの団に入れてください!」
ノースはいつも無表情のことが多いが、この時だけは人一倍真剣な顔をしていた。エレンディルは初め断ろうとしたが、その表情を見て自然と真剣な顔になった。
「私はユスティティア様専属のメイドです。ですが、だからと言って御家族には奉仕をしない理由にはなりません!それに、今の話を聞いて私は心の底からあなたに協力したいと思いました。
初対面であるにも関わらず、いきなりわがままを言ってしまって大変恐れ入りますが、私をこの団に加入し協力させてください!お願いします!」
そうして深く頭を下げた。その姿を見ていたユスティティアと王 破浪は迫力に驚き、エレンディルは真剣な顔で話しを聞いていた。
「…顔を上げな」
ノースはゆっくりと顔を上げた。そこには感心した顔でこちらを見ていたエレンディルの姿があった。
「あんたの真剣さは十分わかった。だが最後にこれだけは聞かせてもらうぞ。お前はこれから死ぬほど苦しいことや本当に死ぬかもしれないことをする。絶対にな。それでも、お前は私についてくるのか?」
「はい。このノース・ガラドリエル、ユスティティア様だけでなく、あなた様にもついて行くことを誓います」
ノースはその場で深くお辞儀をした。エレンディルは笑みを見せた。
「…はっ、いい度胸だ。ってことで、今日からお前はちらの家族の仲間入りだ。よぉし、明日は王 破浪が戦いの基本を教えてくれるから早めに寝るといい」
「へ?俺!?」
「そうだ。明日はうちもユスティも忙しいから残念だが教える暇はねぇ。だから代わりにお前がやれ。どうせ明日は留守当番なんだろ?ってことでよろしくな」
そうして今度こそその場をゆっくり立ち去った。王 破浪はどこかめんどくさそうな顔をした。
「…りょ、了解です。…うーん、俺は教えるの下手くそなの知ってるはずなのに…。まぁ、やるしかないか。つー訳で、よろしくな、ノースさん」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」