記録19 暁風の賢者
19話目です。
皆さん、あけましておめでとうございます。今年も学生の身ですが、より一層精進し、素晴らしい作品を届けられればうれしいです。
風とは不思議だ。ありとあるゆるものを運び、伝え、時には破壊し、遮る。
ユスティティアが向かうその後ろを鴨の子供の如くついて行くノース。歩いて行けるほど目的地は近かった。そこは、強めの風が吹き荒れ、はるか上空にはいくつもの浮島が浮かび、中には滝のように水が流れ落ちていたり、つららが裏に形成されているものもあった。
顔は無表情を保っていても、動きだけでもこのような場所に来たことがないことが彼女から感じ取れる。
「ここは『風の間』。高低差が激しくて、一応、テレポート装置もあるけど、移動は飛行できた方が楽だよ」
そう軽く説明するが、ここで自身の発言である致命的なことに気がついてしまう。出かける前に気がつけばまだしも、今になってはもう遅い。ユスティティアはわずかな可能性を信じてノースに問いかける。
「...ノースって、飛べる?」
自分たちにとって飛翔することはごく普通のこと。魔力を揚力に変換して飛ぶ。やり方は個人差があるが、たったのそれだけのことだ。しかし、当たり前だったがゆえに思考の外に置いてしまった。
頼むような瞳でノースを見つめるが、返ってきた答えは言うまでもなかった。
「申し訳ございません、不可能です」
冷淡で真剣な返答だった。いや、むしろこれが当然なんだ。そもそも自分たちの基準で計画を進めたのが間違いだった。
当然の返答に「だよね」と言わんばかりの表情をして肩を落とした。
一瞬だけ風が止まった気がした。と思えば、次の瞬間背後からそよ風が吹き始めた。
「...お主にしては後先を考えず来おったか...。エレンに似てきたのう」
若くも気品のある女性の声がした。
振り返ると、そこにはエメラルドの海を連想するデザイン、体のラインを強調する形、下にいくにかけて少し広がりを見せ、風を受ける度に微かに揺れていた。時折、裾の奥に見える靴は煌びやかなハイヒールなどではなく、機能的かつ優美な革のブーツだった。
「え?ルナ?来てたの?」
面倒そうに蒼い瞳を顰め、片手を首の後ろに手をまわし、後ろで結んだ一束の白い長髪をなびかせた。
「お主のような者が来れば、風の揺らぎで嫌でも気がつくわ」
「でも、ルナが来る意味は――」
「ほう、なら帰ってやろうか?」
「ごめんって!謝るから帰らないで!」
微かに笑みを見せると、二人との距離を詰め、ノースのことを下から上へと撫でるように見た。一通り見ると、笑みはさらに増した。
「ほう、お主が噂に聞く『機械』か...。確かに風の鳴き方も放つ気配も何もかもが異なる。お主のことはいずれ細部に至るまで調べさせてもらおう。案ずるでない、痛いようにはせんよ」
半分脅し文句のように言ったルナだったが、ノースは無言で、空虚な青と黄色の瞳のまま見つめ返していた。
「...空虚じゃの。これが普通か、はたまた心まで封じられておるのか...。どちらにせよ、つまらんのう...」
顔を放すと、今度はユスティティアに向かって腕組をした。
「して、何用でここに来おった?」
ノースの方に気が集中していたユスティティアは先ほどの動揺とは裏腹にかしこまった様子で本題を話し始めた。
「ああ、実は今日まさにノースのことを調べてほしくて来たんだ」
ようやく納まったかと思っていたルナの狂気とも言える笑みは、再び現れ、高揚を押さえ切れていないのが声からでも感じ取れた。
「...ほう、これは奇遇じゃな。ならば望み通り、細部の細部に至るまで ユスティティアが向かうその後ろを鴨の子供の如くついて行くノース。歩いて行けるほど目的地は近かった。そこは、強めの風が吹き荒れ、はるか上空にはいくつもの浮島が浮かび、中には滝のように水が流れ落ちていたり、つららが裏に形成されているものもあった。
顔は無表情を保っていても、動きだけでもこのような場所に来たことがないことが彼女から感じ取れる。
「ここは『風の間』。高低差が激しくて、一応、テレポート装置もあるけど、移動は飛行できた方が楽だよ」
そう軽く説明するが、ここで自身の発言である致命的なことに気がついてしまう。出かける前に気がつけばまだしも、今になってはもう遅い。ユスティティアはわずかな可能性を信じてノースに問いかける。
「...ノースって、飛べる?」
自分たちにとっては飛翔することはごく普通のこと。魔力を揚力に変換して飛ぶ。やり方は個人差があるが、たったのそれだけのことだ。しかし、当たり前だったがゆえに思考の外に置いてしまった。
頼むような瞳でノースを見つめるが、返ってきた答えは言うまでもなかった。
「申し訳ございません、不可能です」
冷淡で真剣な返答だった。いや、むしろこれが当然なんだ。そもそも自分たちの基準で計画を進めたのが間違いだった。
当然の返答に「だよね」と言わんばかりの表情をして肩を落とした。
一瞬だけ風が止まった気がした。と思えば、次の瞬間背後からそよ風が吹き始めた。
「...お主にしては後先を考えず来おったか...。エレンに似てきたのう」
若くも気品のある女性の声がした。
振り返ると、そこにはエメラルドの海を連想するデザイン、体のラインを強調する形、下にいくにかけて少し広がりを見せ、風を受ける度に微かに揺れていた。時折、裾の奥に見える靴は煌びやかなハイヒールなどではなく、機能的かつ優美な革のブーツだった。
「え?ルナ?来てたの?」
面倒そうに蒼い瞳を顰め、片手を首の後ろに手をまわし、後ろで結んだ一束の白い長髪をなびかせた。
「お主のような者が来れば、風の揺らぎで嫌でも気がつくわ」
「でも、ルナが来る意味は――」
「ほう、なら帰ってやろうか?」
「ごめんって!謝るから帰らないで!」
微かに笑みを見せると、二人との距離を詰め、ノースのことを下から上へと撫でるように見た。一通り見ると、笑みはさらに増した。
「ほう、お主が噂に聞く『機械』か...。確かに風の鳴き方も放つ気配も何もかもが異なる。お主のことはいずれ細部に至るまで調べさせてもらおう。案ずるでない、痛いようにはせんよ」
半分脅し文句のように言ったルナだったが、ノースは無言で、空虚な青と黄色の瞳のまま見つめ返していた。
「...空虚じゃの。これが普通か、はたまた心まで封じられておるのか...。どちらにせよ、つまらんのう...」
顔を放すと、今度はユスティティアに向かって腕組をした。
「して、何用でここに来おった?」
ノースの方に気が集中していたユスティティアは先ほどの動揺とは裏腹にかしこまった様子で本題を話し始めた。
「ああ、実は今日まさにノースのことを調べてほしくて来たんだ」
ようやく納まったかと思っていたルナの狂気とも言える笑みは、再び現れ、高揚を押さえ切れていないのが声からでも感じ取れた。
「...ほう、これは奇遇じゃな。ならば望み通り、細部の細部に至るまで調べてやろう。ちょうど近頃、同じような魔道具の点検や修繕をしておっての、久々に...奮発してやろう」
「そうとなればすぐさま取り掛かるとしよう」
片手を自分の顔くらいの高さまで上げると、指を鳴らす音を発した。それと同時に、見える景色は太陽が見えるそよ風の屋外から黄色味を帯びているランプが大量の本を照らす屋内になっていた。あたりは全体的に古風な物で満ち溢れており、古臭いというより歴史的で美的な空間だった。
あたりの風景を認識している二人を差し置いて、ルナはやや薄暗い空間へ歩を進め、手のひらに水色の魔法陣を形成させた。すると、それに共鳴するかのように地面にも同じ色、形状、紋様が眩しく光り始めた。
「ここは、風組の地下。妾だけの研究室じゃ」
地面に形成された魔法陣を取り囲むように配置されていた本棚から無数の本が取り出され、円を描きながら周囲を漂っていた。その内、暗褐色の本はゆっくりと彼女の手に引き寄せられていった。
「紹介しよう、我が最高の研究道具『Quaerens』じゃ」
低く唸る風のような音が響き、それがいかに雄大で想像を絶するほどの技術、時間、労費を費やしたことを感じさせるには十分だった。ユスティティアは初めて戦闘や公演以外のことで緊張感を抱いた。
「...こんなものを持っていたのか...」
ルナの機嫌はますます上昇していき、その程度の会話は聞く耳すらなかった。ただ、狂信者のようにぶつぶつと呪文を唱え続けていた。
「...うむ、これでよいじゃろう。さあ、ノース、この中央に立て。遠慮はいらんぞ」
しつこいくらい誘導するルナの勢いに負けて、ノースは躊躇うより先に魔法陣の中央に立たされた。
お手本のような直立を保つノース。それを地面に形成された魔法陣が透過した。そしてまた一冊、ルナのもとへと引き寄せられていった。半ばくらいのページを開けると、火花が散り、焼印のようにノースの構造が細かく描かれた。一ページ、また一ページと、どんどん彼女の設計図が完成されていく。あまりにも多くてページ数を数えるのは止めた。火花が納まると、彼女は指揮者のように動かしていた手と指を止め、その本を手に取った。これで何かわかるのかと思えば、ルナの満面の笑みは一気に失せ、悩ましい顔に急変した。
「...お主、本当に魔道具か?」
自身の専門外だと言わんばかりの顔をし、二人を睨みつけた。
そもそも、魔道具というのは、使用者の魔力を消費して使用する、もしくは、貯蔵しておいた魔力を原動力に自立で動く物。ノースの場合、後者に当たる...、はずだった。ユスティティアもそう思ってここへ来た。
「うん、そのはず――」
「そのはず?そのはずとはなんじゃ?」
ふつふつと怒りに近い感情が沸き上がっているのが感じ取れる。一歩ずつ近寄ってくる彼女に後ずさりをするユスティティアは自身の失言に後悔しつつも、丁寧な解説を心掛けた。
「実は、僕でもよくわからない所がいくつかあって...。機械なのに魔法が使えること。これが何より引っ掛かるんだ」
終始、眉間にしわが入っていたが、とりあえず怒りは納まったのか、にらみつけるのをやめ、片手を顎に当てまた悩ましい顔をした。
「...ノース、もう少しそのままでいてくれぬか?」
ノースは冷淡な返事を返し、二人のもとへ行こうと移動したが、すぐさま元の位置に戻った。宙に浮いていた一冊の本は、薄い水色の波動をノースに直撃させた。すると波動は跳ね返り、再び本へと吸収されていった。
「...生命反応...あり...だと...!?」
彼女からこぼれた一言は、ユスティティア酷く困惑させた。いや、困惑と言う単語では言い表せないほどで、しばらくの間、唖然のあまり口を中途半端に開き、一定間隔で交互に二人を見つめた。ノースもその様子を見て釣られて困惑してしまった。
「お主のその顔を拝むとはな。じゃが、こればかりは妾もわからぬ」
相変わらず開いた口が閉まらないユスティティアの顔を横目に鼻で笑うルナ。そしてすぐさま、ノースの設計図が描かれた本をもう一度手に取る。
「となれば千華...、じゃが、近ごろ、あやつは少々不可解でな...」
それにようやく正気に戻ったユスティティアは、そのことについて言及しようとしたが、相変わらず聞く耳を持たなかった。
「...あまり頼りたくはなかったのだが...、この際仕方あるまい。鳳凰、あやつのもとへ行くぞ」




