記録18 真実は...
18話目です。
新年のお祝いと同時に作品を出したいですが、無理そうなのが残念ですね。新年になってもまだまだ作品を作り続けていきます。皆さんも何かに向けて頑張ってください。
信じられる者、そうでない者。あなたは一体、何でそれを判別している?今、冷静に考えてもその者は本当に信じられる者なのか?
...ここは...、一体...。
...あれ?どうして、目が開かないんだ?
熱い...、炎に巻かれているようだ。
燃え盛っているのか業火の音が聞こえる。
それと、たくさんの人たちの声が聞こえる。
雄たけび...、悲鳴...、罵声...、断末魔...。
...あとは...、母さん...。
なんて言っているんだろ?
...ダメだ...、周りの雑音が大きすぎる。
でも、大丈夫。
僕は、絶対に...間違えないから...。
「――――――」
だんだん、聞こえるようになってきた。
「――様――て――――い」
...あれ、でも、母さんは...もう...
「ユスティティア様。起床時間です。起きてください」
眉を顰め、固く閉じていた瞼瞼を何とか開く。胸元に手を当てていたノースは、瞳の奥を細かに変色させ、こちらをじっと見つめていた。
「バイタルデータは正常ですね。だとすれば、精神的な疲労を感じているのですか?」
鉛のように重い体を両手を使ってやっとの思いで起き上がり、相変わらず半端でしか開かない瞳を擦る。
「...まあ、そんなとこだろうね」
体の中にたまったガスを吐くようにため息をすると、下半身にかかった布団を乱雑に払いのけた。腕を上に伸ばし、軽く深呼吸をすると鼻の奥を突くような感覚で皮肉なことに目が覚めてきてしまった。
「...とりあえず、朝風呂に入ってくるよ」
自業自得と言えばそうだが、眉の内側が吊り上がり文句でも言いそうな顔をして立ち上がった。
「では、ご一緒します」
「だめ。ノースは女性だから見つかったら面倒なことになるから」
反射的に言い返し、反論しようとするノースを無視して浴室に向かうユスティティア。
ノースは機械だから性別はないが、服装はとにかく、体系や声色、長髪、目つきは誰がなんと言おうと女性だ。修理をするときは、ノースの裸体を見るのは必然だが、どれだけ人の姿に寄せても機械は機械。これまでも、人型の機械には私情は決して感じなかった。そして、ノースも同じくそうだ。
...そのはずだった。ノースには機械とは言い難い要素があった。それが具体的に何なのかと言われると説明できないが、昨日のことで一つの仮説ができた。この仮説が正しいのだとすれば、僕がやるべきことは一つだろう。
そんなことを考えながら曇っていた鏡を手で拭き、写っていた自分の姿を見つめた。そこにはもう見ることはないと思っていた迷いの目をした自分の姿がこちらを見つめ返していた。
用意しておいたバスタオルで体を拭き、浴室の扉を開けると、目の前に丁寧に畳まれたいつもの戦闘服を両手で持ち、洗面台の縁にはドライヤーが置かれていた。ユスティティアはその光景を見て瞬時に悟った。そして真っ先に遠慮の言葉を放った。
「ユスティティア様。私があなた様のメイドだということを忘れないでください。私はユスティティア様に返しても返しきれない御恩があります。同時に、私はユスティティア様に忠誠を誓い、あなた様のためになることが私の存在する意味なのです。そしてこれもまたその一つです。どうか、私に永遠の奉仕を、恩返しをさせてはいただけないでしょうか?」
ノースと出会い、共に生活して以来、これほど丁寧で誠実な言葉は初めてだった。ユスティティアはその言葉に僅かにたじたじになるが、一つの疑問が急激に膨れ上がった。
「ノース、君は本当に機械なの?」
我慢できず、思ったままの言葉が口から自然に零れ出てしまった。まるで空気を入れ続けていた風船が限界を迎えて破裂したかのように唐突だった。だが当の本人は、そのことに何の疑念も不思議も抱かなかった。彼の頭も目つきも疑心が浸食し始めていた。
ノースはその問いかけに俯き、目のハイライトが消えた。何かを察したのか、バスタオルで隅々まで体を擦る。
「...ノース、あまりこういうことは言いたくないけど、これは僕や姉さん、炎組全員に関わることだからはっきりと言わせてもらうけど――」
ユスティティアは隈なく体を拭き終えると、洗濯籠にバスタオルに投げつけ、まだ塗れた金髪を煌かせながら下着といつもの戦闘服を着る。ほのかに柔らかい花の香りがした。
「どこの誰かもわからない人や機械を置いておくことはできない。それは僕より姉さんの方が強く言うと思う」
まだ十分に拭き終えていないことに今さら気が付いたのか、投げつけたバスタオルを再び取り出し、まだ塗れていた髪と体を執拗にかつ乱暴に搔きむしるように拭く。
「それを一旦置いておくにしても、個人的に一番気になっていること、ノースの首元にあったアルファベットの羅列が昨日見たあの腕のパーツが同じだったこと。
もし天界で作られたものだとすれば、ああいう人型の機械は大体首元に会社や生産者がわかるように特殊な識別番号が書かれている。『SEHO』はその製造にかかわった家電系の大手企業なんだけど、社長『チェン・プリナドレジート』は上司から下っ端の部下に至るまで非道な人体実験をしていたことが発覚して既に処刑されて、会社も当然解体された」
無地の長袖の上から防弾チョッキを着ると、少し険しい顔を見せながらベルトの長さを細かに調整する。
「...そのはずなんだけど...」
そうして再びノースの首元を見る。ユスティティアが毎晩念入りに磨いているせいか、当時はっきりと書かれていた黒文字は若干掠れていた。だんだんその文字がタトゥーのように変えられない事実を暗喩しているように感じた。
それも相まってか、美しくてどこか欠落のある人から腹黒い真実を抱えた囚人のように見えてしまった。
かすれた文字の識別番号を見つめていると、せっかく風呂に入って落ち着いていた精神が再び乱れはっじめた。そしてため息が自然と出てきてしまうのだった。
「...ユスティティア様、あなた様は恩人です」
「じゃあ、君は何をされていたんだい?なんであんな状態になったんだい?」
「...当時、あの施設にいた研究員と思わしき悪魔に追われていたのです」
「どうしてそんなことに?」
「それが...、すみません、覚えていないのです」
「覚えていない?」
「はい。それどころか、どのような経緯で私が作られたかもわからないのです」
そもそも初めて会ったあの日、妙に感情がこもっていたのに最近ではそういった様子は伺えない。修理の段階で何か余計なことをしてしまったのだろうか?それか、ノースの中の何かが変わっているのか。はたまた、漆黒の戦士と直接的ではなくとも何か関係しているのか。
いや、あの腕のパーツを見る限り、何かしらの関係があるのは間違いないはずだ。なのに、毎晩わざわざ部屋まで来て会うのにノースのことについて言及したことも攻撃したこともない。
本当に何がしたいのか。ノースはどこから来た存在なのか。あの研究団体は一体何を企てているのか。いずれも何一つわからず、永遠と堂々巡りをしている。
ユスティティアは黒い手袋を引き延ばして手にピッタリと装備すると、せっかく用意してくれたドライヤーを使わず、ノースの腕を少し荒々しく引っ張った。二人の部屋に戻るや否や、強く握られた手を緩め、暗褐色の椅子に腰かけ、片手を頭に当てた。
しばらく沈黙と不動を保っていた彼は下げていた頭を上げ、同じく暗褐色の机に体を向けると無数の引き出しのうち一番下の右側を開けた。中から取り出したのは銀色のノートパソコンだった。
「もしデータが破損したり削除されているなら、僕の持っている復元機能を使えば思い出せるはず」
するとノースをもう一つあった椅子に座らせ、一緒に取り出していたコードの端を片方がパソコン、もう片方がノースの後頭部にある接続箇所に差した。なれた手つきで指を器用に動かし、静寂な部屋にパソコンのキーの打鍵音と排熱の音が響いていた。
白い画面に一本のゲージが現れ、徐々にまっさらなゲージが青く満たされていく。
その間、ノースの思考にノイズがかかり始めた。視覚、聴覚がノイズで徐々に遮られ、最後にはモノクロの砂嵐の光景と音しか感じなくなった。
ようやくモノクロの砂嵐が晴れると、そこはユスティティアと出会った始まりと苦痛の場所、あの研究所だった。あたりを見渡そうと首を動かそうとしたが、固定でもされているからか1mmも動かせなかった。これが金縛りというものなのだろうか?
砂嵐の音が完全に鳴りやんだ時、誰かの討論の声が聞こえた。誰の声かは分からない。だが、どこか聞きなれた声だ。
「これが最新型の人形『SEHO―413』...か。だが、なぜ私にこの管理を?私は開発も設計も全く関わっていない要員の育成担当なのだぞ」
「そんなもん知らん。お偉いさんの命令はいっもわからねえよ」
「...御神体と言い、社長と言い、何考えているかわかる気配がしないな」
微かにため息が聞こえた。時間が経過するごとに体の自由が少しずつ利いてきたので、何とかして顔を声のする方へ向けた。そこには、あの時見た研究員と同じ形と色の男性が二人いた。しかも、片方は生贄にされる可能性のあった者だった。彼はたばこを口に咥え、腕組しながら壁にもたれかかっていた。どこか呆れた顔を張り付け、黒髪を後ろで結んでいたもう一人の研究員を見ながら時折煙を吹かしていた。
未だに声を出せないことに気がつかず、人形はただ口を動かしていた。むしろ、そのことに初めに気がついたのは、たばこを吹かしていた者だった。
「...しかも、語学学習もさせてないと来た...。余計お前にこの魔道具の管理を任せるのが不思議で仕方ないわ...」
今でも十分その気持ちがわかる表情をした呆れた顔はさらに酷くなっていた。
その言葉で振り返ったもう一人の研究員。人形に歩み寄ると、手を虚空に何かあるかのように手を当てた。人形は初めて自分がフィルター内にいることを認知した。
「...ほんと、なんでかな...?まあ、言われたからにはやるけど...。私がこの魔道具の面倒を見よう。ついでに新しい機能も付けてしまおう」
「おーい、ノース?大丈夫か―?」
一度瞬きをした瞬間、風景はいつもの白い壁と暗褐色の家具たちが映った。そして、自身の恩人も。
ユスティティアは隠しきれないのんきな声で心配そうな目でノースをのぞき込んでいた。開かれたパソコンの画面には多すぎてもはや何が書いてあるかわからないほど大量の英文が緑をメインで書かれていた。
「復旧完了してからずっと放心状態だったから少し不安になったよ。ノースが起きるまでの間、ずっとプログラムを見ていたけど、特に異常はなさそうで良かったよ。それで、どうだった?」
ノースはすぐさま背もたれに傾けていた体を起こし、先ほど見た光景を一言一句伝えた。たちまちユスティティアは眉をひそめ、手を頭部に当てた。
「...やっぱり、ノースはあの研究所の産物のようだね。でも、相変わらず、なんであんな状況になったかはわからないね...。しかも、魔道具か...、だとしたら、僕よりあの人の方が詳しいかも...」
すると、ユスティティアはパソコンのショートカットを使って通話を始めた。しばらく呼び出し中の音が響いた。鳴りやんだと思うと、少し棘のある声の女性の声が聞こえた。
「なんの用じゃ?ユスティティア」
不満げそうな第一声を放った相手にユスティティアは苦笑いするのだった。
「そんな明らかに嫌そうに言わなくていいじゃん」
軽くため息をつく音が通話越しでも聞こえ、面倒なものをさっさと片づけたいそうに要件を聞いてきた。願い通り手短に説明したユスティティアだったが、
「...無理じゃ」
帰ってきた返答はこの一言だった。そしてその一言を最後に通話を切られた。だが、ユスティティアはそれほど焦ったり戸惑ったりせず、すぐさま身支度を始めた。ノースも何かを察したかのように支度を手伝った。




