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記録17 それは正義か?悪か?どちらでもないか?

 17話目です。

 最近、ルーティン化できて毎月の終わり頃あたりで皆さまに作品をお届けできそうです。これからほぼ同じようなペースになるよう頑張っていくので、これからも、当作品をお楽しみください。


 正義と悪。それは、一見対の関係に見えるが、状況によってはどちらもほぼ同じこともある。しかし、そのことを見抜くのは本人たちには気づきにくいものだ。

 彼の景色の隅、たまたま視界に入ってしまった。というべきだろう。この都市の気候に合わない、かつ都市の背景に溶け込むような薄灰色のコートを羽織った二人組だった。そのうち片方は凛々しい金色の瞳と白と言うには黒く、灰色と言うには白く腰にまで届く長髪、小枝のように細い体をし、もう片方は高圧的できついほどのな濃い紫をした瞳と澄んだ青い短髪、その上にさらに白いニット帽のようなものを被り、体は他の住民たちと比べて一際大きかった。手に持っていた手持ちの扇風機を使っていたのに、そのコートの襟あたりのファスナーをしっかりと握りしめていた。そんな二人を見ていると、高身長の男の背面のコートの裾から薄く、黒く、鋭利なものが不規則に動いていた。路地裏に吸い込まれるように消えた二人を見失うまいとユスティティアはノースの手をそっと放し、人混みを強引に搔き分けていった。ノースも突然の行動に動揺しつつも、精一杯後をついって行った。


 十字に分かれた裏路地を右へ歩を進める二人を何とか捉え、慎重に後を追う。通路の壁に背を当て、腰につけていた片手持ちの改造銃を手に取り、意を決して銃口をその通路の先に向けた。次の瞬間、そこには二人の姿はなく、ただのコンクリートの建物の壁や室外機だけが存在していた。他にあるとすれば溜まりに溜まった砂や埃だ。

 ユスティティアはそんなはずはないと、自身が埃まみれになるのを厭わず、室外機の裏や壁を手探りで探し始めた。遅れてノースがゆっくりと歩いて来た。何事かと思えば、埃まみれになりながらあたり一帯を探っていたのを理解できず問いかけた。

「...?おかしいな...。確かにここに行ったはずなのに...。まさか、あの戦士と同じ技術か?だとしたら逃げられた?」

 ノースの問いかけに応じることもなく、ただ自問自答を繰り返していた。ノースがいくら問いかけても応じないので、手につけていた茶色の手袋を外し、金属が露わになった鋼の手の甲でユスティティアの頬に当てた。ユスティティアは即座に後ろを振り向き、どこか不服そうな顔をした。

 ようやく状況を理解したノースは即座に周囲を見渡し始めた。おそらく、いくつもあるセンサーや探知機をそれぞれ試して探しているのだろう。ノースの瞳の奥にはよく見ると小さな明滅を繰り返していた。しばらくして、ノースはある一点を見つめるようになった。ずっと見つめているかと思えば、ゆっくりと正面の突き当りの壁に向かって歩み始めた。そしてその壁に触れたかと思えば、ノースの腕はゆっくりと壁に吸い込まれていった。

「...幻影と魔力妨害の性質を持った偽の壁のようです。超音波で探知したところ、視覚的情報と異なる見え方でしたので判明できました」

 ユスティティアは不意を突かれたかのような顔をしたが、その後ノースを心の底から称賛した。

 壁をすり抜けると、そこにはしばらく一直線に伸びる壁も床も全て純白な通路だけがあり、通路の終わりには見るからに厳重そうな大きな鋼の扉があった。ユスティティアは早く先ほどの二人を追うべく、歩く速度を上げたが、ノースがすぐさま彼の肩を掴んで引き留めた。ユスティティアは何か罠があるのだと察したが、肉眼ではもちろん、魔力でも無反応だった。試しに、少しだけノースにパワードスーツの状態となってもらい、あたり一帯を調べると、床に肉眼では見ることができない僅かな切れ目、通路を塞ぐように不規則に配置された無色のレーザーがわかりやすく線で色付けされていた。

 ノースは手のひらからスパークを発生させると半歩前へ出た。しかし、ユスティティアはノースの肩を掴み、一瞬にして鋼の扉の前にいた。後ろの方で爆発音や魔法、銃声が鼓膜を破るほどの轟音を狭い通路を響かせた。。何が起こったのかまたもや理解できず、二度目の当惑の姿を見せるノース。そしてすぐさまユスティティアの瞳を見つめるのだった。

「この程度なら、僕の速さで無視できるからね」

 一瞬悪そうな笑みを見せた後、三又のレバーをぐるぐると回し、重厚な音を響かせながら鋼の大扉を開けた。


 扉を開けたその先には、先ほどの純白な通路とは真逆に黒をベースとした床から天井、いくつもの小部屋が点在し、通路もいくつも分岐していた。二人はこの空間に覚えがあった。この二人ならそう感じるのも当たり前だろう。通路の片側の壁にあった窓から誰かがいることに気が付き、慎重に縁から内部を確認すると、研究員の服にしては少し違和感の感じる独特な形状と薄灰色だった。それが三人ほど立っていた。先ほどの二人に該当する人物はいなかったが、研究員たちの服装でユスティティアは確信した。何か話しているようだが、会話を聞き取ることはできなかった。部屋を後にし、先ほどの二人を探すべくいくつにも分岐する通路を迅速かつ静かに進んでいこうとした。

 しかし、目の前の十字の通路から徐々に足音が大きくなって聞こえてくる。捕獲も視野に入れたが、すぐさまその考えは排除した。時間が経過するごとに足音は鮮明で不規則な音と金属が小刻みにぶつかり合う音を奏でるようになってきた。隠れる場所もない質素とも言える通路にじわじわと緊張が満ちる。


 やがて右側から二人の研究員が現れた。その二人は片方は高身長の澄んだ青の短髪の男、もう片方は小枝のように細い体の白と灰色の中間の色をした長髪の女だった。角とコウモリのような翼をもった男は肩に機械の四肢のようなパーツを大量に担ぎ、女は青いスケッチボードのようなものに張り付けられたいくつもの紙をめくり、時折指で紙をなぞりながら慎重に何かを確認していた。

「なぁ、こんなに大量にパーツ使ってどーするんだよ?いい加減教えてくれたっていいだろ」

 足裏を電磁石にして逆さまにぶら下がり、ユスティティアの腹を抱きかかえながら、マイクのようなものを出し、彼らの会話を録音し始めるノース。

「...そうですね、ここまでくれば誰にも聞かれる心配もないのでそろそろ話しましょうか」

 女は振り返り、無表情を張り付けたまま流暢に話し始めた。頬から一筋の汗が伝い、眉と瞳を細める。

「我々がなぜこのような開発をしているのか、それはご存じですよね?」

「ああ、当たり前だろ」

「我らが『Nonノーン pertinetペルティネト』は全てはあの方たちの救済を補助する存在。本日はあの方たちが心置きなく使うことのできる肉体の開発をするのです。例え我らがただの生贄だとしても、あの方たちのためなら我らは我らの目的は果たされる。そうですよね?我らが『始祖の神』よ」

 そうして現れたのは、独特な光沢を見せる漆黒の鎧を身に纏う禍々しい存在の者だった。そう、あの時から定期的に姿を現す、あの戦士だった。その姿を目の当たりにしたユスティティアは、一気に血の気が引き、天地がひっくり返るほどの目眩が襲った。ノースはユスティティアを抱える腕が一瞬緩み、少しだけずれ落ちる。それに気が付き、すぐさま力を入れ直した。ユスティティアは終始青ざめた顔が戻らなかった。

「すみません...」

 ユスティティアですら聞こえないほど小声で謝礼の言葉を言う。聞こえなかった、と言うより、聞く余裕がなかったとでも言うのが正しいのかもしれない。

 漆黒の戦士は何も言葉を発せず、ただならぬ気配を放っていた。研究員と思わしき男は女の話を聞き終えた時点で何かを悟ったような反応をしていたが、漆黒の戦士の何かを感じたからだろうか。推測は確信に変わった。男は鋼の大扉がある方へ後ずさりを始めた。

「...ご安心を、()()その時ではないので」

 その瞬間、漆黒の戦士の兜の隙間から鮮血のように赤い瞳を輝かせた。それを見た男の肩に担いでいた素材の数々は小刻みに振動し、今にも落ちそうになっていた。瞳や脳裏に浮かび焼き付いた風景は、きっといいものではないだろう。

「...さて、解説のために少々時間を割きすぎてしまいました。見送りをした後、ただちに作業に戻ります」

 そうして先導しようとしたが、漆黒の戦士は女の肩を掴み、兜を横に振った。

「...不必要でしたか。すみませんでした。それでは、失礼します」

 女は冷酷な顔から眉一つ動かさず、その場を去った。男もその後を少しふらつきながら弱弱しく歩き出した。パーツの一つを落としたことにも気が付かず。落としたパーツと二人をしばらく見送った後、漆黒の戦士もその場を去った。


 念力を使って二人は細心の注意を払いながら音を必要最小限以上に消した。ノースはすかさず落としたパーツを拾い上げた。どうやら右腕のパーツのようだ。素材は鋼でできており、関節部分が非常に丁寧に作られていた。太さはノースの腕とさほど変わりはなかった。

 ...いや、この感覚、この光沢、機械をよく知っているからこそわかるメリットとデメリット、何より、このアルファベットの羅列...『SEHO』...。ノースの首元にあったこのアルファベットの羅列と同じ...。

「ノース、君は―」


「お前ら、こんなとこで一体何をしている?」

 その言葉で二人は極度の圧力で今にもつぶれそうな感覚を感じた。確かに戦士は一度も上を見てなかった。気配も魔力も必要以上に隠したはず。素振りも気づいた様子は一度も見られなかった。にも関わらず、今こうして背後にいる。

 二人はすぐさま体制を整え、臨戦態勢へ入った。思考は異常な速さで処理と演算、推測や仮定を繰り返していた。

「まあ、落ち着け。ここは敵陣のど真ん中だ。下手に暴れると何が起こるかわからない」

 ユスティティアは一種の挑発と受け取ったのか、オレンジの瞳が僅かに濃くなった。

「それに、どうやってここへたどり着いたのか知りたいしな。結局、こことは別の魔界にあった研究所の件も誰がやったのか分からず仕舞いだったしな。ありがたいに越したことはないが」

 ユスティティアは漆黒の戦士の最後の一言が妙に引っ掛かった。普通なら、研究所を壊されて不快な気持ちになるはずだ。仮にそうでなったとしても、気にしないような一言ぐらい言うはずだ。しかしどうだろうか。漆黒の戦士からこぼれた一言は、そのどちらでもなく、程遠い感謝しているかのような一言だった。心の読めないユスティティアでも、それくらいは感じ取れた。

 あまりにも多すぎる不可解な事柄に混乱するユスティティアは質問攻めに出ようとするが、突然、先ほどの二人組の研究員とは別の者たちの会話が聞こえてきた。すると、漆黒の戦士は重量に見合わない俊敏な動きで二人の腕を握りしめると、

「いろいろ聞きたいのはお互い様だ。また後日、余裕があったのなら話すとしよう」

 そう言い、気が付いた時にはいつも見慣れた自室の風景が広がっていた。二人はしばし固まっていたが、真っ先に状況を理解し行動し始めたのはノースだった。

「...ユスティティア様、私――」

「いや、今日は、もう、寝させてほしい...。あまりにもわからないことが多すぎて、頭が破裂しそう...」

 そうしてユスティティアは部屋着に着替えもせず、いつもの支給された戦闘服のままベッドで横になり、腕で自身の視界を覆った。

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