記録11 見えざる毒牙
みなさんこんにちは。アカツキです。11話目です。毎回投稿頻度遅くて大変申し訳ございません。ここまで読んでくれた方には感謝してもしきれません。今後も気長に待ってくださると嬉しいです。
では、本編へどうぞ
「知っての通り、ここ『雷の間』の心臓部とも言える電波塔『ゼウスの背骨』にユスティティアたちが見た黒い戦士の鎧に塗られていた毒とほぼ同じ毒が電波塔に付着していたんだ。毒の状態を見る限り、かなり新しいものだと推測できるらしい。まだ近くにいる可能性が高いはず。
今、雷の間は敵に警戒されないようあえて特別避難警報は出していない。けど、この都市丸ごと他の都市と隔離しているから、例外を含まなければ、完全に孤立しているんだ。逃げられないうちに、俺たちでとっ捕まえてやろうってのが今回の作戦ってわけ」
『例外』と言う言葉が気になったノースだが、そのことについて聞いてはならないと内心思うのだった。
とはいえ、雷の間は天界にある七つの大都市の中でも最も人口の多い都市。昼夜関係なしに都市は人で溢れかえり、少しでも気を抜けば、すぐに迷子になってしまいそうな程人がいる。
仮に漆黒の戦士がいたとして、自分たちで倒すことができるのかすら曖昧だった。しかし前向きな姿勢を崩さない白牙は「なんとかなる」とだけ言って作戦を実行し始めた。
そうして各自2人1組で行動することになった。ユスティティアとノース。白牙とサブタジアン。そして、人数の関係で単独行動することになったエレンディル。
「ったく、なんでうちだけ…」
できればペアを組まずバラバラで捜索した方が効率が良いのだが、ノースは迷子になる可能性があるのでユスティティアと同行。サブタジアンも何者かに誘拐されてしまう可能性があるので同じく同行。その結果、単独行動を余儀なくさせられているのである。
「まぁ、うちはあの中では一番戦闘力はあるからなぁ…。ある程度は仕方ないか…」
そうしてあたりを気怠るそうに歩いていると、偶然千華と遭遇した。千華はドレス姿ではなく、白衣姿で背中にはいつもの杖を持っていた。
「あ?千華じゃねぇか」
「あ、エレンちゃん。実は、私も呼ばれてね。毒でやられている人がいるかもしれないからってワルキューレさんに行かされちゃって…」
と渋々来たと言わんばかりの言い方で話す千華。話を聞いてみると、どうやら毒は嫌いらしく、そのワードを聞いただけで体が熱くなるらしい。
独特な感じ方だと思ったその時、視界が一瞬ふらついた。千華はそのことにいち早く気づき、大気の成分を調べ始めた。
「…一酸化炭素!?なんで!?どこか燃えてるの!?」
「はぁ?何アホなこと言ってんだ?この辺りで火事は起こってねぇ」
「いや、確かに一酸化炭素の反応が出たの!ユスティ君たちに早く伝えなきゃ!」
そして、エレンディルは白牙に魔力通話で連絡した。しかし、応答はなかった。その後、ユスティティアにも魔力通話を試みたが、やはり応答がない。それどころか、町全体が暗くなりつつある。2人は強い恐怖に襲われた。
そんな中、前の方から人々がバタバタと倒れていく音がした。それを見た人々は散り散りに逃げていく。姿を現したのは、全身黒いオーラーを見に纏っていた者だった。独特な威圧感を放っており、彼の体から一酸化炭素を放出していた。その後、エレンディルはまともに立たず、その場に跪いた。千華も毒に強い耐性を持ってはいるが、それでも意識が朦朧としていた。
「久しぶりだな。小娘」
その者は若い男性の声で話した。かなり低音の声だった。千華は誰のことなのかさっぱりわからなかった。
「お前とまた会うのはそう遠くないと思っていたが、まさかここまで早いとはな。だが、これでまた2人分の肉体を確保できそうだ」
そうして2人に近づき、手を伸ばしてきた。千華は冷静かつ迅速にエレンディルを背負い逃げだした。
「どこへ行こうと同じだ。逃しはしない」
その者の足元が凍ると、氷は千華の方まで伸びていき、ついには千華の足を凍らせた。千華はエレンディルを放り投げてしまい、その場で倒れた。
「やはり生け取りは骨が折れる。一度冷凍保存した方が早そうだ」
千華は氷を割り、必死に地面を張ってエレンディルの元へ向かうが、その者は千華に向けて無数の氷の棘を放った。
すると、千華の真後ろで落雷音が二つ響いた。振り向くと、そこにはガスマスクをした白牙と大きな装甲と武装をしているユスティティアがいた。
「やっぱりそうか。サブの悪い気っていうのは当たっていたようだな」
「白牙、サブはどうした?」
「あいつには他の団員に安全な所に行かせるよう頼んだから大丈夫だ」
「そうか。なら、千華はこの一酸化炭素を無毒化させて。その間に僕たちが時間を稼ぐ」
2人は一度に攻撃を仕掛ける。
「建御雷神の瞬き(たけみかづちのまばたき)」
「フルドライブ・ブーストハンマー」
2人の強力な攻撃は直撃したかと思ったが、技はその者の体をすり抜け、まるで霧でも切ったかのようだった。2人は一度体制を崩したが、すぐに立て直した。
「…攻撃が通用しない…!?」
「ここでお前らを生け取りにすれば、今後かなり楽できるだろうが、そう焦る時でもない。せいぜい生贄となる時を待つがいい」
そうして、闇の中に静かに消えてしまった。
その後、都市全体に広がった一酸化炭素は無事千華の手で無毒化され、市民には混乱を招かぬよう、火力発電の空気清浄機器の故障による事故だと伝えた。そして、今回のことをワルキューレに伝えると、
「謎の黒い人物か。おそらくそれは、『魔力装甲』と呼ばれる特殊な装甲を見に纏った魔界軍だろう」
魔力装甲とは、その名の通り魔力を使って鎧を作ってできるものである。様々な属性の魔力で装甲を作ることができ、ワルキューレは闇属性の魔力によってできた漆黒の戦士だと推測した。しかし、ユスティティアは腑に落ちない顔をしていたが、そのことは話さなかった。
報告し終えたユスティティアたちは、千華が働く病院へと向かった。受付を済ませ、病室に入ると、ベッドに横たわっているエレンディルがいた。少し不服そうな顔をしながら窓の外を見ていたが、すぐにユスティティアたちの方を向いた。
「ああ、あんたらか」
「ワルキューレさんに報告しといたよ。多分、ユスティティアたちと会った漆黒の戦士かもだって」
「…そうか…」
「…姉さん、——」
「慰めはいらない。うちがやらかしただけ。あんたらが心配する必要はない。ただ、足引っ張ったことは謝る。これも、きっとその報いさ」
そうしてまた窓の外へ視線を向ける。
「…でも、あれは不意打ちだ。あんなの、誰も簡単には予測できないか——」
「あんたら、そんな甘ったるいことを言うなら、今すぐ団を抜けな。そんな考えで戦いはやってられない。不意打ちであっても、対応できなかった方が負けさ。死ぬのさ。今回の戦いも『うちら』の勝ちであったとしても、『うち自身』の勝ちではない。うちは、本来ならあそこで負けている。それだけが事実なんだよ。こんなんじゃ、大切なものを何一つ守れやしない…!」
その言葉は重かった。エレンディルは背負っているものの量が、意志が違った。3人はかける言葉が見つからなかった。そして、慰めのつもりで言った無責任な言葉に怒りを感じていた。そこへ千華が入ってきた。
「もう大丈夫そうね。血中酸素濃度も正常値になったし、普通に話せる。まだ目眩がするかもしれないから、無理はしないようにね」
「ああ、世話かけたな」
相変わらず、言葉が重い。千華も一瞬怯むが、何事もなかったかのように振る舞った。
「いいのよ。これが私の本職だし。
…エレンちゃん、あなたの気持ちは十分わかるけど、あまり気に病んじゃダメだからね?あなたはこの天界で5番目に強い人。だからこそ、強い責任感があるのかもしれないけど、あなたが背負うにはまだ若すぎる。だからそう言うのは私みたいな先輩に任せればいいのよ」
「…確かにあんたの方が先に入隊したが、あんたはうちと同じ肉体年齢20だろうがよ」
「う、うるさい!良い雰囲気だったでしょうが!」
むしろその一言で全てを台無しにした気がします。部屋は黄色い空気で満ちていた。




