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記録1 救済

 皆さん初めまして。そうでない方はこんにちは。アカツキです。未熟者の私ですが、楽しんでいただけると幸いです。

 また、当作品には少しではありますが出血シーンや虐待に関する話がありますので、苦手な方はご遠慮ください。

 それでは、どうぞ。

 外は茶色の砂埃をあげながら風が唸っている。そこにあった研究所では、銃声と雄叫び、断末魔が響いていた。

「…これで全部かな?」

 金髪の淡い茶色の肌の男はあたりを見渡し、手に持っていた銃をしまった。

 あたりは黒い翼の生えた人たちの死体と血で満ちており、見るに耐えない光景だった。男は顔色一つ変えず顔についた血を拭い、白い翼と腕を伸ばし、帰ろうとした。


 しかし、男は部屋の奥から足音が聞こえたため、すぐさま戦闘態勢になった。音はだんだん近づいてくる。そして、扉のふちから姿を出したのは、メイド姿をした女性だった。

 男は一瞬、悪魔と認識していたがすぐにその女性が生物ではないとわかった。メイドの右目の部分にはボロボロの包帯のようなものが巻かれているが、上手く巻けておらず、隙間から金属や銅線が飛び出しており、体は一部錆や埃、カビまであり、左手と左足は良くない方は曲がってしまっていて、歩くたびにショートしているような音と光を放っていた。


 男は敵の可能性も考えて一定の距離を保ちながら会話を始めた。

「…君は誰だい?」

 ロボットはノイズがかかった声でもう片方の目から透明な液体を流した。

「…ケテ…。…タ…ケテ…。タスケテ…」

 声はちゃんと音程が取れておらず、言葉も途切れていた。


 男は戦闘ではなく慈悲を求めていたことを知ると、構えていた銃をしまい、そっとそのロボットに近寄った。ロボットは怯えて後退りしたが、男が手を差し伸べると、ロボットは恐る恐る男の手を握った。男も優しく手を握り返し、慰めるように頭を撫でた。

「…辛かったんだな…。もう大丈夫だ。僕がなんとかする」


 その直後、奥の方が騒がしくなってきた。恐らく増援だろう。男はロボットの手を握ったまま何か呪文を唱えた。

「リターンワープ」


 そこに増援が駆けつけたが、そこに男とロボットの姿はなかった。

 その頃、男とロボットは宮殿のような場所にいた。

「ここは絶対に安全だから、ゆっくりしていいよ」

 ロボットはこういう場所は慣れていないのか、動きがぎこちなかった。そこに、誰かが来た。

「おお、ユスティティア。戻ったのか」

 その人は煌びやかな装飾の入った服を着たユスティティアという男と同じくらいの身長の男だった。ロボットは怖がってすぐさま柱の後ろに隠れた。


「あ、お父さん。とりあえずここに戻っただけだから用事を済ませたらまた行くから」

「そうか…、娘といい息子といい、我は戦いに行くのが心配で仕方ないわ…」

「もー、お父さん心配しすぎ。僕は『太陽神ラー』の息子だよ?そう簡単にやられる人じゃないから大丈夫だって」

「そうだといいのとのだが…。それで、あの子は誰だい?」

「ああ、そうそう。ここに来たのはちゃんと理由があって…。実はあの子ロボットで魔界の研究所で見つけたんだよ。けど、多分酷い虐待を受けていたんだろうな。鈍器で殴られた跡やろくに手入れされていない体…。助けたいからとりあえずここに連れて来た感じだね」


 父親は状況を理解した。あまりにも酷い事実を知り、彼からは凄まじい熱気を感じる。それを見たロボットは、完全に柱の裏側に隠れてしまった。

「…父さん、気持ちは分かるけど落ち着いて。あの子が怖がっている」

「…すまない…。しかし、あの子をどうするつもりだ?ここに住ませても構わないが…」

「…そうだね。多分それが最適だと思う。とりあえず、あの子を修理してみる。悪いけど、僕の部屋から一番大きい工具箱を持ってきてくれる?」

「わかった」


 ラーが工具箱を取りに行っている間、ユスティティアはロボットの様子を見に行った。ロボットは頭を抱えながらカタカタと震えていた。やはり相当酷い虐待を受けていたのだろう。ユスティティアはロボットの隣に立ち、優しく頭を撫でた。ロボットもだんだん落ち着きを取り戻した。


 しばらくして、ラーは自信の胴体と同じくらいの大きさの銀の箱を持って来た。

「これでいいんだな?」

「ああ、ありがとう。…それじゃ、始めるとしようか」

 銀の箱を開けると、中には鉄材や銅線、ネジ、工具など機械に関する道具がぎっしり溜まっていた。ロボットは少し興味を示しており、箱の中を覗き込もうとしていた。


「…気になるかい?」

 ロボットは小さく頷く。

「これから君を修理する。だからなるべくじっとしていてね」

 ロボットは少し不安だった。ユスティティアはドライバーを取り出し、いきなりロボットの喉をそっと掴んだ。


 ロボットは反射的にユスティティアの手を払った。しかし、払った手の状態があまりに良くなかったためか、払った腕は異音を放ち肩のあたりから銅線がはみ出していた。ロボットは自身の行為に自己嫌悪を抱いてしまった。

「…ごめん。何か気に障ることした?」

 ロボットは首を横に振って、ノイズ混じりの声で話した。

「…ジョウブデス…。…チョット、…コワカッ…ダケデス…」

「…そっか。じゃあまた続けるけど、何かあったら教えてね」


 そして再びロボットの喉をそっと握った。精密ドライバーで小さなネジを一つずつ外していく。表面の鉄を剥がしてみると、中に銅線と小さな黒い箱のようなものがあった。箱の中を確認すると、平たい緑の部品があった。

「喉の部分にコンピュータ…、配線を見る限り、これはスピーカーを制御するマイクロコンピュータだね」


 しかし、内部にある緑の部品は真っ二つに割れており、再起不能な状態だった。

「…ダメージが酷いね…。取り替えるしかなさそうだね。ちょうど、そういうマイクロコンピュータの替えがあったはず…」

 ユスティティアは工具箱の中から同じようなマイクロコンピュータを取り出すと、器用に取り替えた。


「どう?ちょっと喋ってみてくれない?」

「…私——」

 ロボットは驚いた。先ほどまでまともに喋れなかったが、今はちゃんと言葉を話せる。

「すごいです…。私、ちゃんと喋れます」

「そうだね。でも、ノイズがまだ混じっているから、これはスピーカーの方も故障しているな。…まだまだ時間はかかりそうだけど、我慢してくれるかな?」

 ロボットは嬉しそうな顔をして、ノイズのかかった声で応えた。

「はい。喜んで」


 それから数時間が経過した…。

 現在ユスティティアは最後に肌の塗装をしていた。

「…これで終わりかな?…よし、修理完了っと!」

 ロボットは完全に修理され、四肢はすらっとして、髪も灰色から綺麗な銀色になり、声もなんの違和感も感じないほど普通の声になっていた。

「…素晴らしいです、ユスティティア様。私にこれほどのことをしてくださり、誠にありがとうございます」

「目に関してはごめんね。君の青い目がなかったから仕方なく黄色にしたけど」

「オッドアイと思えば良いじゃないですか」

「確かに、それもそうだね」


 そこに、再びラーがやって来た。手にはお菓子を持っていた。

「ユスティティア、お前頑張りすぎだぞ。ちょっとは休んで——。って、完成したのか?あんなにボロボロだったのに…」

 これにはラーも驚きを隠せなかった。ロボットだということはわかっていたが、それでも本物の人間と勘違いしてしまいそうなほどリアルな見た目だった。


「さて、とりあえず片付けないとな…」

 あたりは鉄の破片や粉、廃材、工具などが散乱していた。自分がしたこととはいえ、少し嫌気がした。ユスティティアは苦笑いをしながら片付け始めた。


 そこに、ロボットも片付けをする。

「ユスティティア様、ここは私にお任せください」

 いくら彼女がメイドといえど、さすがに申し訳ないと思ったユスティティア。

「え?いやいや、これくらいは自分でするって」

「先ほどのお礼をしたいのです。これから先、あなた様のメイドをしたいのです。その、初めのお仕事をさせてください」

「…わかった。じゃあ、これからよろしくね、ノース」

 ラーはいきなり出てきた聞きなれない言葉に疑問に思い、首を傾げた。

「ああ、このロボットの名前だよ。『ノース・ガラドリエル』。修理している間に決めたんだ。ガラドリエルはテレリって言うエルフのクウェンヤで『輝きの花冠をかぶる乙女』って意味なんだ。名前がないのは不憫だし、この子を呼ぶ僕たちも不便だから名前をつけようと思ったんだよ。これから先のことを思ってこの名前にした」

「なるほど、そういうことだったのか」


「ご主人様、片付けが終わりました」

 2人はすぐさま部屋を見た。あんなに散らかっていたのを一瞬にして片付けてしまっていた。2人は驚愕のあまりしばらく固まっていた。

「す、すごいねノース…」

「はい、他にも料理に育児、教育、洗濯、おつかい、マッサージなどなど、家事育児は基本なんでもできます」

 ロボットとはいえ、とんでもない実力の子を連れてきたなと内心で思う2人だった。


 こうして、メイドロボットと1人の天使の話が始まるのだった。

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