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第三世界  作者: EMR
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第三世界#7


 #7


 長崎へ



「ゴールデンプリンセスて完全にお姫様やん」

 一同はメイドカフェで情報の共有をしている。佐々木とひまりが黄金姫の生徒手帳を手に入れたところでイザベルがけたけた笑いながら言った。

「でもアブ君の言う通り黄金姫の住所は行くのも危険かもしれないよ。今すぐ行く必要はないだろうね」

 土地勘のある栞那は火災の被害をある程度把握しているようだ。

「にしてもひまりは自転車くらい乗れんと、福岡まで帰るってかなりきっついで」

「あ、歩いて行けないでしょうか……?」

「行けなくはないだろうけど、丸一日でつくかどうか……。車を調達できれば……いや、道路がまともに使えない今移動の最適解はやっぱり自転車かな?」

「せやな、どこもかしこも事故だらけ。まともには通れん。高速道路のほうまで確認してきたから間違いないで」

「乗れるならだけどさ、事故車両の間を抜けていくならバイクの方が最適解では?」

 佐々木は提案する。

「一長一短やな、完全に道を塞いどる場所もあるし、持ち上げられんバイクはその都度迂回せなあかん」

「迂回して迷子になったり、燃料の問題もあるね」

 補足する栞那。

「なるほどね、じゃあイザベルは自転車で高速道路を行くつもり?」

「まぁ、車は通らんやろし、そうするつもりや」

「気を付けてくれよ、キミ一人の身体じゃないんだから」

「妊婦か!」

 イザベルは軽くツッコミを入れるが栞那は沈黙する。

「………」

「えっ?ホンマに?妊婦なん?」

「………違うよ」

「間!間が鬱陶しいねん!」

「あははっ」

「いや、でもまぁ分かっとる、自分の身体思て大切に使わせてもらうで」

「あぁ、イザベルになら任せられると思っているよ。でも体力面は期待しないでくれ、しがない学生メイドなのでね」

「そこは根性でカバーしたる、任しとき!」

「うん、任せる。で、イザベルはその服で大阪まで帰るの?」

 依然メイド服でいるイザベルを指摘する。

「着替えられるなら着替えたいとは思っとる」

「いいよ、ウチに寄って着替えて行きな」

「おおきに」

「うん、イザベルはウチに寄ってから旅立つとして、総理はどうされます?霞ヶ関へ行かれるのですか?」

「うむ、私は……長崎に行きたいわん!」

「なんでやねん」

「長崎、長崎?……とにかく、国の為に私を長崎まで連れて行ってくれないか?」

「なんで長崎やねん?」

「長崎……?カステラが食べたいわん!」

「栞那w、こいつニセ総理やでw!」

「総理、カステラは我慢してくださいw」

 二人でくすくすと笑う。

「中の人が誰であれ犬になってしまった人を放っておくのは気が引けるな。状況が落ち着くまでは一緒に居ようかな」

 総理を自称する犬、安田を撫でる佐々木。

「ちゃんと世話できるんか?」

 それを茶化すイザベル。

「飼うとなると結構大変だよ?」

 乗っかる栞那。

「人として扱って!」

「あははっ!冗談だよ、私も手伝うからさw……さて、冗談はこれくらいにしてそろそろ動きだそうか。私はイザベルを連れて家に帰るけど、アブ君たちはどうする?」

「俺は……この暗転事件について少し調べてみようと思う。総理もいるし、情報を集めたら事件解決の糸口になるかもしれない」

「『自称』総理が解決してくれるとは思えんけど、頑張りや」

「わ、私もそれ、手伝います」

 ひまりは同行の意思を示す。

「いいの?」

「は、はい。帰るのも難しそうですし、何かお役に立てることをしていたいです」 

「何かあてはあるのかい?」

「とりあえず、要君の家に行ってみようと思ってる」

「要キュンの家に?」

「うん、栞那さんの身体、イザベルとは会えたけど要君がどこの誰と入替っているのか気になるんだ」

「そうだね。私も要キュンの身体を預かる以上、要キュン本人や御家族には挨拶と情報の共有をしておくべきだと思う。私も後から行くよ」

「了解、先に行って様子見ときます」

「うん、あ、でもその前に。少し実験を……イザベル、ちょっといいかい?」

「?」

「元の身体に戻る実験を少々。アブ君、資料映像の撮影をよろしく」

 不敵な笑みを浮かべイザベルににじり寄る。

「え?うん、いいけど…」

 佐々木は言われるがままにスマホを取り出す。

「何するん?」

 イザベルは寄ってくる圧に引けを取るが、栞那は揚々と答える。

「ちゅうだ!」

「は?」

 僅かに頬を赤くして続ける。

「キッスだよキッス!ありがちじゃないか?キスで元に戻るとか!?」

「ちょ、待ちぃな。息荒いて、キモいわ」

「さ、さぁお姉さんに身を任せてごらん」

「なんでやねん!なんで自分の身体に欲情しとんねん!?」

 抵抗されるがお構いなしの栞那は我が道を行く。

「こ、この記録映像はか、家宝に……うっ!?」

「自重しろ、変態」

 佐々木に後ろから当身をくらい崩れ落ちる栞那。

「じょ……冗談じゃないか……」

「じゃ、そろそろ行くけど、イザベルも気を付けてな。栞那さん、強めにツッコミ入れて大丈夫だから」

「あぁ、そっちもほどほどにな」

「では首相、参りましょう」

「うむ、いざ行かん。長崎へ」

「カステラはまた今度です、首相」

「………べふ」

 項垂れる安田、佐々木に続いて店を出る。

「さ、さよなら」

「あぁ、ひまりも気ぃつけてな」

「は、はい」

 小さくお辞儀をしてひまりも出て行った。

「………さ、ウチらも行こか、変態」 

「ヤダ、名前で呼んで……♡」

 イザベルは深くため息をつく。

「……変態」



 閑静な住宅街。

「ここ、ですか?近かったですね」

 メイドカフェを出た二人と一匹は市街地から離れた米田要の家を訪れていた。

「うん、住所はここで合ってる」

「ふむ、人の気配……いや、これはカレーの匂い!?」

 暑さのせいか疲れ気味の安田は匂いに反応して喜び短い尻尾を揺らす。

「え?そう?俺にはわかんないけど」

「わんさんだから鼻が利くんですね」

「べふっ」

 佐々木は米田邸のドアベルを鳴らす。

 しばらくして老齢の女性が姿を現した。

「はいはい、どなたかしら?」

 白髪で短髪、小柄な女性は穏やかな表情で出迎える。

「こんにちは、佐々木と申します。失礼ですが、要君のご家族の方ですか?」

「え、ええ。要の母親よ……身体は何故か別の人だけど……」

 女性は苦笑いで答え、隣に居るひまりに目を移す。

「!?…もしかしてそちらの女の子は……要?」

「い、いえ、わ、私はく、黒田ひまりと申します。身体の人は黄金姫さんです」

「黄金姫?」

 金髪と端麗な容姿のひまりを見て何かに納得する女性。

「あ、えっと、俺たち要君の身体を持ってる……?身体に入ってる?人と出会って、ここを訪れることになったんですけど……その様子だと、まだ要君は帰ってないみたいですね」

「ええ、そうなのよ。要も、旦那も、家に居たはずのお義父さんもまだね……と言っても私も今さっき帰ったばかりなの」

「そうですか、要君にも会ってみたかったんですが、お母さんだけでも会えてよかったです。後で栞那さん……えっと、要君の身体に入ってる人もここに来る予定なので、情報の共有とかさせてください」

「そう、要の、身体は無事なのね。良いわ、外は暑いでしょ?中で話しましょう」

 要の母は二人と一匹を家に招き入れる。

「して、要母よ。昼飯はカレーか?」

「ヒェッ!?」

 喋る犬安田の存在に気付く。

「……w」

 その反応にくすっと笑う佐々木だった。



 米田邸、リビングに通された一同はそれぞれソファーに座る。

「私も他人の身体と入替って驚いたけど、まさか犬と入替った人がいたなんてねぇ」

「不思議なこともあったものだ」

 安田もソファーで丸くなり体を休める。

「しかも総理大臣ですって?」

「まさにワンダフルである」

 ふてぶてしくも見える安田を丁寧に扱う。

「総理に十分なおもてなしもできずすみません」

「構うことはない、今は非常時。皆が自分のことを一番に考えればいいべふっ」

「カレーならあるけれど……」

「うむ、玉ねぎを抜いてくれ」

「いや、ダメでしょ!イッヌにカレーは!」

 カレーを求める安田を止める佐々木。

「だ、駄目なことはないだろう!」

「ダメです、人の身体に戻るまでは我慢です、首相」

「………ッ」

 悔しそうな表情を見せるが引き下がる。

「あらあら、仲が良いのね」

「そういうわけじゃないけど……犬として生きるのは大変だろうし、しばらく協力しようってことになりました」

「あらそう、こんな状況だもの、助け合うのは大事よね」

「うむ、殊勝な心掛けである」

「それで、お母さんは暗転事件後はどうされてましたか」

「私?ええそうね、私は……と、その前に自己紹介でもしておきましょうか。私の名前は米田詩織よねだしおり、37歳。要の母で、旦那と義父との4人家族よ」

「よねだ?」

「ええ、こめだ、とよく間違えられるけどウチはよねだよ、よろしくね」

「あ、はいすみません。勘違いしてました」

「いいのよ謝らなくて、読み仮名が無いと分からないものね」

 続いて佐々木も自己紹介をする。

「あ、俺は佐々木アブシディ。身体の入れ替わりはしてなくて、自分の身体で彷徨う18歳。祖父がアメリカ人のクォーターです」

「よかった、入替ってない人もいるのね」

「はい、どれくらいの人がそうなのかはわからないけど……」

「無事な人がいるだけでも希望よね。世界中すべての人が入替っていたら秩序が崩壊してしまうわ」

「未だに全体像が見えぬ故、安心はできん。逸早く元の身体に戻らねばならん……長崎へ行くわん」

 至って真面目に話す安田。

「首相ってそんなにカステラが好きなんですか?」

「昔見たテレビでカレーが好物だってのは言ってたわよ?」

「とにかく長崎へ行くんだわん」

 その場でくるくると回って主張する。

「首相の長崎へのこだわりがすごい……」



 栞那のアパート前、木陰で涼む寺内は小柄な少年とメイド服の少女が歩いてくるのを見つける。

「おう、早かったな」

「あれ?外に居たんだ」

 寺内に気付いて近寄り、抱かれる赤ん坊を覗き込むが朱音は寝ていて小さく肩を落とす。

「電気、止まったぞ。木陰にいるほうが涼しい」

「え、ガチ?」

「想定内やろ?」

 驚く栞那に声をかけるイザベル。その姿をじろじろと見て、寺内はなるほどといった顔をする。

「見つかったんだな、要キュン」

「なんでキュンで浸透しとんねん」

「見つかったというか、見つかってないというか……身体は見つかったんだけど、中の人はまた別人なんだ」

「は?ややこしくなってる?」

「なってる」

 肩をすくめてやれやれとして見せる。

「で?結局誰が入ってたんだ?」 

「こてこての関西人」

「ざっくりしすぎや、紹介するならちゃんとせえ」

 栞那はイザベルにどつかれて仕切り直す。

「大阪在住のイザベル・キャントナー、女子高生だ」

「外人やん」

「外人やけど生まれも育ちも日本やねん、よろしゅうな、姉さん」

 握手代わりに朱音の頬を優しくつつく。

「俺は寺内修二、これでも中身は兄さんや」

「へぇ、栞那もせやけど性別まで入替るのはしんどいな」 

「あははっ!犬よりはマシだけどね」

「確かにwww」

 二人は思い出して笑ってしまう。

「犬?」

「そう、犬と入替ったって人がいてね」

「しかも自称総理大臣やってw」

「いや、国の一大事だろ」

 暢気に笑う二人につっこむ。

「ほんまこの先どうなんねやろな」

「……まぁ、なるようにしかなんないさ」

 起こってしまったことは仕方がないと割り切った様子の栞那はあくまで暢気だった。

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