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第三世界  作者: EMR
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第三世界#5

 #5


 黄金姫



 8月10日 早朝。

 暗転事件から一夜が明けた。

 栞那の部屋で雄叫びのような声を上げる佐々木。

「う、うそだーーーッ!こんなことありえない!嘘だと言ってくれ!!」

「アブ君・・・ごめん・・・・」

 そんな佐々木を冷めた口調でなだめる栞那。

「現実だ、受け止めてくれ・・・」

「・・・・」

 ひまりが二人のやり取りを黙って見ている横で、佐々木は少しの間1枚の写真を見つめて呆然とする。

 その写真には可憐な少女がメイド服を着て笑っている姿が写し出されている。

「だ、だって有り得ないでしょう!?この正統派美女の中身がこんな変態だなんて!」

「失礼だぞ、少年☆」

 我に返ったように吠える佐々木だがその顔に怒りの表情はない。

「可愛い、です」

 佐々木の持つ写真を横で見ているひまりが口を開く。

「ありがと、ひまりちゃん。昨日バイト先を確認した時、ロッカーのカギがかかったままだったからね。まだメイド衣装でいるかもしれない。見かけたらよろしくね」

「はい」

「アブ君も頼むよ!」

 言って肩をバシッと叩く栞那。

「ははっw!わかってるって」

「で、俺はガキのおもりしてりゃあ良いんだな?」

 眠たそうな目を擦りながら寺内が会話に参加する。

「大事な役目だよ、よろしくね」

「さて、暑くなる前に出ようか」

 気を引き締めなおした佐々木。

「あ、はい、出ます」

「うん、それじゃあ」

『いってきます』

 3人口を揃えて挨拶を交わす。

「おう、いってこい」

 寺内に見送られ、3人は外へ出る。


「じゃ、二人とも気を付けて行くんだよ」

「はい、栞那さんもお気を付けて」

 栞那は街に向かって歩き出す二人を見送って駐輪場へ移動した。



 街のある駅舎の片隅でメイド服の少女が自転車を組み立てている。

「・・・・」 

 工具を使いナットを締め付け終わると自転車を立たせてベルを鳴らす。

「よっし!これでええやろ」

 自転車に跨り、乗り心地を確かめる。

「準備に手間取ったけどしゃーないな」

 サドルの位置を調整して置いていたリュックを拾い背負う。

「ほな、ボチボチ行きますか」

 メイド服の少女はグッとペダルを踏み、荒れた街を走り出す。



「この辺もだいぶ荒れてるね」

 佐々木とひまりはハンバーガー屋を探して街を進む。

「はいぃ、でも火は消えてるみたいです」

「うん、昨日だいぶ激しく降ったからね。黒田さんがいたハンバーガー屋も残ってるかもしれない」

「そ、そですね」

 佐々木は放置された車を躱しながら歩き、ひまりを先導する。

「見覚えあるものがあったら教えてね」

「はい」

 二人は街のハンバーガー屋を巡って歩き続ける。

「ところでさ、黒田さんはハンバーガーってあんまり食べない人?」

「え?あ、はい。あんまり食べたことないですけど・・・」

「やっぱり?お店の名前もわからないって全然興味ないってことだよね?」

 佐々木の言葉にひまりは珍しく食い気味で返す。

「い、いえ、すごく興味あります!ファーストフード?とか、ジャンクフード?・・・前に友達に連れて行ってもらった時に食べたハンバーガーセット!すっごく美味しかったです!」

「そうなんだ、じゃあ箱入り娘ってやつ?」

「そそそ、そんなんじゃないですぅ・・・わ、私、小さい頃から身体が弱くて・・・去年心臓移植されるまでは病院から出ることもほとんどできなくて・・・」

「そっか・・・大変だったんだね。今はもういいの?」

「じ、実は心臓以外も弱々で・・・入院生活からは抜け出せたんですけど・・・週一の通院とか、走っちゃいけないとか、日常生活に制限はあって・・・」

「そう・・・今もまだ闘病生活なんだ」

「で、でも普通に、安静にしていれば大丈夫にはなったんですよ」

「いつか、昨日みたいに自分の身体でも走り回れるようになれるといいね」

「そ、ですね。昨日は思わず走っちゃいましたけど、この子の身体すごく速く走れてびっくりしちゃいました……あ!この辺、見覚えあります!確か、あっちの方から来た気がします」

 朧げな記憶から自信なさげに指を差す。

「ん、ということはあっちのハンバーガー屋さんかな?」

 佐々木は思い当たるところがあるようで足を速めて目的地を目指す。


 少し歩いた場所、全国チェーンのハンバーガーショップに到着した佐々木とひまり。ショップが入る商業ビルは一部が燃えてはいるもののその形を留めていた。

「あっこ!こ、ここです!このお店です!……で、でも思ってたより全然燃えてないです」

「うん、ビルの消火設備が働いたんだろうね、荷物取ってくるから、場所教えてくれる?」

「え?あ、はい。あそこの窓際の席です」

 自分が居た場所を伝えるひまり。

「了解、ちょっと待ってて」

 佐々木は一人で店内に入り、手早く荷物を回収して戻る。

「……これかな?」

 取ってきたポーチをひまりに渡す。

「あ、はい、たぶん、これだと思います」

 ひまりはポーチの中を確認する。

「スマホに化粧品……濡れちゃってますけど、○○女子高等学校の学生手帳?」

「開けそう?」

 取り出した学生手帳は濡れていたが破けてしまうほどではなかった。

「はい、開いてみます……」

 学生手帳をそっと開く。

「………はっ!?」

 驚くように、しかし小さく声を上げるひまり。

「………」

「どうしたの?」

 黙るひまりを伺い見る。

「……写真あって、この子の荷物で間違いないと思います」

「……うん」

「お、黄金姫です」

「黄金姫?」

 オウム返しする佐々木。

「この子の名前です」

「………」

「私なんかと違って、この子は生まれた瞬間から光り輝いているんですね」

「……ゴールデンプリンセス」

 卑屈に笑うひまりに小さく呟いた佐々木の言葉は届かなかった。

「………」



 荒れた街を自転車で進んでいた栞那はその足を止めて立ち止まる。

「ここが、鳥谷家?」

 目的の場所に到着したものの栞那の表情は険しかった。

「車が突っ込んで、一部燃えちゃってるなぁ」

 栞那は建物の周囲を見て回る。

「入れなくはないけど、ここを拠点にするのは難しそうだね……仕方ない、メッセージを残して使えそうなものを持って帰るか……」

 自分のアパートの住所と、そこに居ることを記したメモを数枚用意する。

「これでいっか。帰る前にカフェにも寄ってかないとだなぁ……」

 栞那は慎重に鳥谷家の探索を開始する。



「……暑い……停電しやがったか」

 栞那のアパート、留守番の寺内は泣いている朱音を拙くもなだめている。

 停電した部屋の室温は日が昇ると共に上昇していた。

「はぁ……こいつも熱いなぁ」

 寺内は朱音を抱いたまま部屋を出て近くの木陰へ避難する。

「木陰の方がまだマシだな……ここで待つか…」

 時間を持て余す寺内は朱音の機嫌を伺いながら時間を過ごした。



「………でも、困ったな」

「?」

 佐々木とひまりはゆっくりと歩きながら来た道を戻っていた。

「黄金姫の住所だけど、昨日飛行機が墜落した地区なんだ」

「えっ?」

「あの辺はだいぶ燃えてるようだったけど、どうする?行ってみる?」

「……そう、ですね。一応行ってみましょうかぁ?」

 佐々木の問いに素っ頓狂な声を出すひまり。

「……?……どうかした?」

 ひまりが見ている方を振り向くと一匹の犬が近寄ってきていることに気付く。

「わんさんです!」

 二人の足元まで近寄った犬は突然わん、と一回吠える。

「わっ!?イ、イッヌ!?コイツめ~!驚かせやがって!」

 佐々木はその犬をわしゃわしゃと撫でる。

「えへへっ!かわわ~っ♡ですね!」

「え?」

 言われて犬をじっと見る佐々木。犬種はパグ。

「……共感不能」

「え~っ!?こんなにシュワシュワなのにぃ?」

「しゅわ、しゅわ?」

「はい!シュワシュワでぺちょぺちょです!」

 いつになく熱弁するが語彙力を失っている。

「いや、もうわからんです」

「えへへ~っ」

「www」

 佐々木と一緒になり犬を撫で始める。


「……うむ、二人とも少し話を良いか?」


「!?」

「……?」

 何処からか聞こえたその声に驚く二人。


「私には行かねばならん場所がある、べふっ」


 声の持ち主が撫でられている犬であることにはすぐに気付く。

「こ、こやつ!?」

「落ち着きたまえ、少年少女よ!」

 身構える佐々木をなだめる喋る犬。

「き、貴様何者だ!?」

「わ、わんさんがお喋りを……」

「二人ともその場で落ち着いて聞いてくれ、べふっ」

「?」

「私の名前は安田晋之助。この国で総理大臣をしている者だ、べふっ」

 凛として佇む犬の総理。

「安田、晋之助?確かに今の総理大臣の名前だけど……いや、イッヌて!?人格の入替りがあったとしてもイッヌて!」

「わんさん……」

「この国の今後に係わることだ、聞いてくれ………?」

「……?」

 安田の真剣な眼差しに固唾を吞む二人。

「お腹が空いたわん」

「イッヌ!」


 メイド服の少女が自転車で街を駆ける。


 チャリン、とベルを鳴らして二人と一匹に速度を落として近づく。

「すまん、とおるで」

「あ、はい、どうぞ」

 佐々木とひまりは自転車が通れるように道を開ける。

「おおきに」

 もう一度ベルを鳴らして通り過ぎるメイド。

「あ……佐々木さん」

 思い出したように通り過ぎたメイド服の少女を指差すひまり。

「ん?……あ!あれって!」

「?」

 驚く佐々木を見てキョトンとする安田。

「か、要君!?要君!待って!」

 走り去るメイド服の少女を追って佐々木も駆け出す。

「あ、えっと……」

 チャリンとベルを鳴らし、残されたひまりと安田の前に自転車に乗った栞那が現れる。

「あれ?ひまりちゃん一人?」

「べふっ」

 自分も居るとばかりに吠えてアピールする安田。

「あはっ☆ぶちゃいくなわんこだね」

「か、栞那さん!今、写真と同じメイド服の人が!あっち!佐々木さんが追いかけてます!」

「なんだって!?こうしちゃいられない!私も追うよ!」

 止めた自転車をもう一度走らせる栞那。

「まってぇ♡要キュ~ン!」



「要くーん!っと!?栞那さん!?」

 先行する佐々木に追いつく栞那。

「アブ君!お疲れ!」

「栞那さん!あのメイドさんって!」

 佐々木は前を走るメイド服の少女を指差す。

「ああ、自分を客観的に見るなんて変な感じだけど、間違いないね、私の身体だ……要キュ~ン!」

 速度を上げて佐々木を追い越しメイド服の少女に接近する。

「……?」

 追いかける二人に気付いたメイド服の少女は足を止める。

「ん?なんやねん自分ら?」

 栞那は自転車を降りて少女の前で片膝をつく。

「あなたのお身体、お持ちしました♡」

「は?キモっ、近づくなや」

 一歩引いて距離を取られる。

「ああ、ごめんごめん。おふざけが過ぎたね……私は弓削栞那、その身体の元の持ち主だよ」

 立ち上がって誠実に応対する栞那。

「………は?」

「?……要くん?」

 一瞬の沈黙の後に口を開くメイド服の少女。

「いや、知らんがな!」

「………え?」


 

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