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第三世界  作者: EMR
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エピローグ 5



 479回第三世界高負荷実験。

 全てのACPの身体と精神を単純な法則で入れ替えた世界。

 私はいつものように実験開始から第三世界にログインしている。

 想定通り入れ替わりによる事故や混乱が広がり死者の数が増えていく。

 次第に略奪が始まり、物資を争うACP同士での殺し合いも発生する。これも想定の範囲内。

 今回の実験、最初にどこの誰と入替るかにもよるが、大人しくしていれば生存率は高いはずだ。この世界のひまりは今のところ無事。無駄に苦しむことが無いように願う。

 秩序が崩壊した世界で故意による殺人を目視した。幾度となく見て来た悲惨な現状に慣れることはなく、精神的な疲労が蓄積していくことを感じる。

『私は大丈夫…』

 自分の心を騙すかのように何度も繰り返して調査を続ける。

 


 想定外の出来事が起こった。

 監視員は第三世界のACPと必要以上の接触を避けている。私達の行動が実験結果に影響を与えないようにするためだ。

 そんな中、懸命に走る2人の少年少女とぶつかりそうになる。

 足音に気が付いて振り向いた時にはもう2人は寸前まで来ていた。

「わっ!?ご、ごめんなさい」

 派手な金髪少女の手を引く褐色肌の少年はギリギリのところで立ち止まると一瞬の謝罪を残してまた走りだす。何事かと走り去る2人の後を目で追うとその理由は後ろからやってくる。

「おう!姉ちゃんよぉ!クソガキとかわい子ちゃんがここを通っただろう!?どっちへ行った!?」

 ヘルメットをかぶってバットを持ったガラの悪い男が強い口調で私に問う。

「ちょ、ちょっと待ってくれ兄弟…!もう、走れない…」

 息を切らして遅れてきた男がこちらをじろじろと見てくる。

「も、もうこの姉ちゃんで良くないか?」

 面倒な輩に絡まれてしまった。走り去った2人の行き先はログを確認すればすぐにでも分かるが、追いかける気がないなら教えても無駄だろう。

「おう?…確かに、よく見りゃイイ女じゃねえか」

 私がこの2人をどう処理するか考えていると褐色肌の少年が雄叫びを上げながら戻ってきた。

「どりゃーー!」

 渾身の体当たりで男を突き飛ばす少年。

「お姉さん!こっちに!」

「?」

 少年に手を引かれて走る。

 助けてくれようとしたのだろう。どうとでもできることだったが、下手に世界に影響を与えることはできない。しばらく流れに身を任せて一般市民Aを演じることにする。

 少女と合流して3人で裏路地に身を隠す。

 助けてくれたことにお礼を言ってお互いに自己紹介をしたが、うかつだった。

 今回の実験では見た目と中身が入替っているのだ。

 なるべく接触しないようにしていた。いや、いつしか避けるようになっていた。状態、結果だけを確認して、何度も死にゆく彼女を見ないようにしていた。

 似ても似つかない、派手な金髪の少女は黒田ひまりと名乗った。

 単なる偶然。

 会うつもりなんてなかった。

 市民Aを演じる中で、他人の身体を操るひまりを見知らぬ他人と思って接しようとした。

 それでも垣間見える彼女らしさに学生時代の光景が目に浮かんだ。

 何も知らず、この混沌とした世界で懸命に生きている、姿形の異なるこの子のことを私は黒田ひまりだとしっかり認識している。

 ずっと不安だった、ひまりの転生の成否を今ここに確認した。

 ひまりは生きている。

 転生の成功。喜びの反面、強い罪悪感を感じる。

 私の判断で何度ひまりを死なせただろう。

 どれだけ苦しめたのだろう。

 許しを請うことなんて今はまだできない。

 謝ることもできない。

 私の浅はかな考えがひまりを苦しめ続けている。

 何もしなければ安らかに眠ることができたのかもしれない。

 親友を失いたくないという気持ちが、私の異常な研究がひまりをこの世界に縛り付けた。

 今からでも遅くはない…?

 ひまりをこの世界から消し去れば、安らかに眠らせることができる…?


「研究者は未来を切り開く仕事って、そう思ってます」

 

 雑談の中、ひまりの言葉でお思い出す。

 それは親友に自慢するために言った私の言葉だ。

 忘れていた。

 研究者として進みだした時の気持ち。

 尊敬する祖父の研究を間近で見てきて、この世界なら不老不死を実現できると思い研究にのめり込んだ。

 実現させる直前で今はまだ早いと無期限で研究停止となったが、いずれ求められるであろう技術。

 社会の望むかたちで運用できれば人々を幸せにできる技術のはずだ。

 その第一号がひまりになった。

 ひまりを失う訳にはいかない。

 私は世界の未来の為、そしてひまりの為に、ここに居るひまりを殺したとしても立ち止まることはできない。



 479回第三世界高負荷実験でも貢献者が出ることはなかった。

 しかし僅かばかりの光明が見える。

 STWcorporationに辿り着き、初めて管理者と相対するところまでやってきたのだ。

 結果はあっけないものだったが、確実な進歩だ。

 希望が見えた。

 そう遠くない未来、貢献者を出してひまりを楽園に移住させることが可能になるかもしれない。

 第三世界高負荷実験は続く。

 480回第三世界高負荷実験。

 私はひまりの周囲の設定を書き変えた。

 とある予備校の一室。

 ひまりは夏期講習を受けている。

 同じ教室で褐色肌の少年、佐々木も勉強している。

 前回の高負荷実験の記憶などありはしないし、2人の関係は今はまだ他人でしかない。

 私はせめてもの罪滅ぼしにひまりが恋心を抱いた少年をひまりのそばに置いた。

 高負荷実験のコピー元となる世界では平和に暮らすことができるだろう。ひまりは派手な金髪美少女の姿じゃないし、お互いの距離が縮まることもないかもしれないがそれはそれで仕方ない。

 ズドン、と突然の爆発音。

 大きな爆発が市街地で発生。

 空には複数の未確認飛行物体。

 爆発の衝撃波は予備校のガラスまで粉砕し生徒たちは悲鳴を上げる。

 ここは高負荷実験が行われる世界。宇宙人による地球侵略戦争世界。

 予備校の講師と生徒は割れた窓から外の様子を窺う。

「な、なにこれ…?どうなってんの!?」

 爆炎が上がる市街地と空に浮かぶ飛行物体を見て驚愕する生徒たち。一方でひまりは自分の席から動けずにただ怯えている。

 最初の爆発は開戦の合図にすぎず、ズドン、ズドンと飛行物体からの攻撃が続けられる。

 恐怖の悲鳴が教室を覆い尽くす。

 誰かが大声で逃げろと指示を出すと皆が当てもなく走り出す。その混乱はこの教室だけではなく実験世界全体が同じだった。

「逃げろって言ってもどこに行くんだよ…!?」

 我先にと飛び出すが逃げ惑う生徒たちを後ろから見ている佐々木。落ち着きを保つ佐々木は教室に1人取り残されているひまりに気付く。

「黒田…さん…?」

 その瞬間、予備校が入るビルに敵の攻撃が直撃する。

 ズドン。一際大きな衝撃が伝わる。

 大きな揺れに椅子から転げ落ちるひまり。恐怖に身を震わせ声にならない悲鳴を上げて涙を流す。

 それでも私は何もしてあげることができない。今の私は観測者、ただ見ていることしかできない。

 建物に亀裂が入る。

 ひまりの逃げ道を遮るように建物は悲鳴を上げながら亀裂を大きくさせる。

「黒田さん!こっちに!!」

 揺れの中で柱につかまりひまりに手を伸ばす佐々木。

「……!?」

 しかしひまりは動けない。

「黒田さん…?」

 怯えて縮こまるひまりは手を伸ばすことができない。

 広がっていく亀裂を見て焦る佐々木。

 佐々木は一歩踏み出し声を荒らげる。

「ひまりッ!!!」

 自分を呼ぶ声にようやく反応するひまり。

「……!!」

 ひまりは差し出された手を一心に見つめて亀裂を飛び越えるとその手をつかみ取った。



 繰り返される実験、同じ状況、境遇でも結果が同じになるとは限らない。

 自分を取り巻くちょっとした環境や、そばにいる相手がたった1人替わるだけで人の行動は大きく変化することになる。

 ひまりには自分を引っ張る存在が、佐々木少年には自分が引っ張るべき存在がいることでお互いに強くなれるのだろう。

 この小さな変化で、いずれひまり自身が貢献者に選ばれる可能性さえも見えてきた。

 実験は何度でも繰り返される。

 第三世界高負荷実験がマスターワールドの求める結果を出すその時まで、私は何度でも世界を創り、世界を終わらせる。

 人類の未来の為に、そして親友との約束を守る為、私は世界と親友を殺し続けるのだ。

 もう歩みを止めたりはしない。

 たとえ悪魔と呼ばれても、私は進み続けよう。

 この第三世界を。



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