第三世界#2
#2
ガチャ
佐々木とひまり、二人は炎から遠ざかるように街を歩いていた。
「・・・佐々木君?大丈夫?」
黙って歩いている佐々木を心配しているひまり。
「うん?ああ、大丈夫・・・きっと母さんもどこかに避難しているはずだ」
「そそ、そうですよ。すごく騒がしかったし、すぐに目が覚めたと思います」
「うん、ありがとう。そこまで鈍臭い人じゃないから母さんは大丈夫・・・問題はこれからどうするかなんだけど、黒田さんは家が遠くて、俺は家が燃えてしまった」
「・・・」
俯くひまり。
「避難所になる場所と言えば学校や公民館に役所だけど・・・」
佐々木は来た道を一度振り返る。その先では近隣の建物と共に公民館も火事に巻き込まれている。
「一番近い公民館は燃えてる。市役所は遠いし、近くの中学校に行ってみる?」
「は、いぃ・・・」
成行きで行動を共にする二人は炎を避けながら近所の中学校を目指す。
しばらく歩き、火の手から離れて比較的落ち着いた場所。乗り捨てられた車が道を塞ぎ、狭くなった車道を通ろうとしたとき、反対側から歩いてきた一人の少年とすれ違う。少年の不可解な雰囲気にひまりは佐々木に身を寄せた。
にやにやしながら歩く少年はすれ違った二人に気付いていない。
そして少年はおもむろに自分のズボンとパンツを広げて下半身を確認する。
「えへへぁ・・・ッ♡」
突然の少年の挙動に驚く二人。
「ッ!!?」
「ふぇっ!?」
「ショタの、まだ生えてないオティンティン・・・うふふぇ・・・ッ♡」
「ち、ちょっと君!?こんなとこで何やってんの!!?」
思わず声を出した佐々木にようやく気付いた少年。
「なっ!?なんだい君たち?褐色ボーイに美少女ちゃん?この僕、要キュンに何か用かい?」
「か、要キュン?こんな場所でオティンティンのガードを下げちゃだめでしょ!」
佐々木の言葉に少年は笑みをこぼす。
「あはっ☆ガードを下ろしたりはしないさ!この要キュンはお姉さんがしっかり守ってあげるわ!」
「え!?お姉さん?もしかして君も誰かと入替ってる?」
佐々木の問いに少年は姿勢を正して答える。
「ええ、私は栞那、弓削栞那。今はこの要キュンの身体を預かる大学生よ」
「大学生?年上かよ」
「そういうお二人さんの中身は、年相応なのかな?」
「中身、ってか俺は誰とも入替ってないんだけど」
佐々木の言葉にキョトンとする少年、栞那。
「?」
「こっちの黒田さんはこの子と入替ってるみたいで・・・」
「あ、はぃ。黒田ひまりと申します。よろしくお願いしますぅ」
「ひまりちゃんか・・・」
栞那はひまりのことを嘗め回すように観察している。一通り観察した後親指を立てて笑顔を作る。
「あたりを引けたね!ひまりちゃん」
「ひぇ!?」
ぐっ、と顔を近づける栞那に驚くひまり。
「ガチャだよ、ガチャ、むふふっ。暗転以降ほとんどの人が誰かと入替ってるでしょ?なかには凄いオッサンと入替ったJCもいるみたいだよ」
にやにやと続ける栞那。
「そんな子と比べたらひまりちゃんは大当たりだねって」
しかしその軽率な発言に佐々木は苦言を呈する。
「要キュン・・。いや、弓削さん?この状況でそういう発言はあまりよくないと思います」
「ああ、いやすまない。犠牲者も出ている状況で不謹慎だったね・・・お詫びと言ってはなんだけどさ、ウチでお茶でもしてかないか?」
「え?いきなりだな、いやでも俺たちは避難所を探そうと思ってるんだけど」
「それでそこの中学校に行くつもり?できてないよ、避難所」
栞那の言葉に行く先を失い困惑する。
「できてない?」
「うん、暗転後は中学校スタートだったからね。ショタロリワールドで情報収集してたんだよ。それからバイト先行ったり要キュンのお家行ったり、もっかい中学校に戻ったり、お姉さんもうくたくた」
「えっと・・・」
佐々木がひまりの顔を窺うとひまりは小さくうなずいて返事をする。
「それじゃあ、少しお邪魔させてもらいます」
「うむ、ではついてまいれ」
栞那はにやにやと不敵な笑みを浮かべて歩き出した。
住宅街にある公園の入り口、寺内は外国人の女と争っていた。
「--------ッ!」
外国の言葉を話す女だが、寺内には理解ができない。
「なんなんだよお前!?ここは日本だぞ!日本語喋りやがれ!」
ベビーカーの赤ん坊を守るように外国人女性を牽制する。
「?」
しかし外国人女性も寺内の言葉が理解できないようでいる。理解し合えない二人の口論はしばらく続いたが、女はベビーカーの赤ん坊に手を伸ばす。
「・・・!」
寺内はその手を払いのけ、赤ん坊を女から隠すように動く。女は執拗に赤ん坊を追いかけている。
「だーーーーーーッ!!こっち来るなって言ってんだよ!ストップだストップ!」
意思の疎通がとれない二人は険悪な雰囲気になり、痺れを切らした女は寺内を押しのけて赤ん坊に掴みかかった。
「ーーー!」
「なっ!てめえっ!!」
寺内は赤ん坊を守るように女を突き飛ばす。それを皮切りに二人は取っ組み合いになるが、決着はあっけなく、外国の女が取っ組み合いのさなか階段から転げ落ちることで終わる。
勢いよく転げ落ち、その先で動かなくなる女。
「ッ!!お、おい!」
寺内は階段を駆け下りて女のもとへ向かう。
「はぁ、はぁ・・・あぁ・・・クソッ!」
女の状態を少し確認しただけですぐに見切りをつける。
「あぁ!お前が、お前が悪いんだからな!」
寺内は赤ん坊のもとへ駆け戻るとすぐさまその場を離れるのだった。
質素なアパートが建ち並ぶエリア。
「ああ!よかった、この辺は無事だ」
二人を先導して突き進む栞那はアパートの裏手へ回り込む。
「えっと、栞那さん?玄関は反対側では?」
道中の自己紹介や雑談の中、栞那の人柄にすっかり絆されたひまりは栞那への警戒心を無くしていた。
「ふふふっ!何故裏に回ったかって?それはもちろん、鍵なんか持ってないからさ!」
言い放ってにやにやと佐々木を見る。
「・・・?」
「さあ、佐々木少年!私をその肩に乗せて2階ベランダまでの踏み台となってくれ!」
2階角部屋のベランダ下に佐々木を誘導する。
「まぁそんなとこだと思ったけどさ、言い方よ言い方」
佐々木はベランダの柱に手をついてしゃがみ込む。栞那は佐々木の肩に上って体制を整える。
「さあ立ち上がて少年!」
「はぁ、気を付けて登れよ」
佐々木が立ち上がると栞那は器用に2階のベランダへと登っていく。
登り切った栞那はベランダから二人を見下ろす。
「OK!大丈夫、お二人さん!玄関の方からあがっておいで」
言って姿が見えなくなると、その数秒後にガラスが割れる音が聞こえた。
「!?・・・はーい」
栞那はガラスを割って鍵をかけて部屋に入る。
「はい、いらっさーい」
表に回り、玄関から訪れた二人を迎え入れる栞那。
「お邪魔しまーす」
学生向け1dkの小さな部屋に通された二人。
「とりま麦茶でいいかい?」
「はい、ありがとうございます」
栞那は三人分の麦茶を用意してちゃぶ台に並べる。
「いただきまーす」
勢いよく麦茶を飲み干す三人
「ぷはーっ!生き返る!」
「はい!実はすごく喉乾いてました」
「お姉さんも喉カラカラだったよ」
栞那は空になったコップに麦茶を注ぐ。
「さて、落ち着けたところで、お互い持ってる情報を分け合おうか」
「?」
「情報?」
「そ、情報。今の状況を整理すればこの先どうするかの指針になるでしょ」
「・・・確かに」
「で、佐々木、アブシディ君?だっけ?君は暗転後も身体の入替えはなかったの?」
「そうですね、ないのが普通だと思うけど」
「そこなんだよ、これまで50人以上話したけどみんな誰かと入替ってたんだ」
「50人・・・!」
栞那の言葉に驚くひまり。
「うん?あぁ、夏休みとはいえ中学校だけでも結構な人がいたからね。まぁそれは置いといて、街の悲惨な現状も人の人格入替りが起こってることを証明しているみたいでしょ?現状況では君の方がレアなんだよ」
「・・・?」
沈黙する佐々木。栞那はテレビをつけてみせるが正常な放送をしている局はない。
「あぁ、さっきまでは放送してるとこもあったんだけどやっぱり終わっちゃったか・・・」
「テレビも、放送してないんですか?」
ひまりは何も映らないテレビをじっと見る。
「そだね、放送してる人がいなくなったんだろうね。私が暗転後に確認できたのも録画放送のものだし」
「広範囲で大多数が入替ってる・・・・でも自分が何故入替ってないかなんてわかんないっすよ」
「ま、そだよね。私だってなんで要キュンと入替ってるかなんてわかんないし。要キュンのことも知らなかったんだ。ひまりちゃんはその身体の子のことは知ってる?」
「い、いえ、私も知らない子ですね」
「うん、じゃあ、なんでどうしては置いといて」
栞那は机の引き出しから健康保険証を取出し、持っていた要の学生証と並べて二人に見せる。
「米田要、弓削栞那・・・?要キュンの学生証と栞那さんの保険証?」
「うん、他の身分証はバイト先のロッカーにあるから今はそれだけ」
さらに栞那はパソコンの電源を入れて起動パスワードを入力する。
「これくらいしてみせれば入替りを経験していない君も私達が入替ってるって信じられるんじゃないかな?」
佐々木は起動されたパソコンを確認する。
「そっすね、確かにこれは信じてしまってもいいかもな」
「うむ、よろしい。ではアブ君はネットで情報収集をしてくれたまえ」
パソコン前の椅子に佐々木を座らせる。
「お姉さんは今のうちに汗を流してくるからよろしく頼むぞ!」
「了解・・・・ッ!?」
部屋から立ち去る栞那。
「待ちなさい栞那!要キュンをどこに連れてくきだ!?」
「?」
突然声を上げて問う佐々木に疑問を持つひまり。
「ふはははッ!これは必要なことなのだよ!!衛生的に!!!いや、生理的にぃ♡!!?」
「くっ!・・・すまない要キュン!俺には止められない・・・!」
扉の向こうから聞こえる栞那の声に膝を崩す佐々木。
「ぐふぇふぇぇッ♡!!」
そして沈黙する二人。
「・・・・」
「・・・ごほん、あー、黒田さん、大丈夫?」
「え、あ、はい・・・・あれがコミュ強ってやつですね」
「いや、そゆことじゃねーよ」
閑静な住宅街の一画、庭先につながれた犬が一匹。
「あぁ、あ・・・誰か・・・ゴホッ・・・べふっ!」
その犬は人の言葉をたどたどしくも使い、近くを通る人に助けを求めようとしていた。




