第三世界#24
#24
第三世界を終了します
ビルの屋上から2人でSTWを監視する。
「お姉様、犬総理たちガ最上階に到達しましタ」
「ええ、確認したわ……?縁陀?」
おずおずとした足取りで縁陀が現れる。
「お、お姉様。お疲れ様です…」
「お疲れ様。いろいろとありがとうね」
「いえ、職務の内ですので、お気になさらず」
「縁陀~!織田真輝のコントロールできてるでスか?あいつフリーダムが過ぎるでスよ!」
「そ、そうですお姉様。織田真輝は管理者として不適切です。管理者の選定方法を一考していただきたいと進言します 」
音華のクレームで思い出したように憤る縁陀。
「そう?利己主義的な彼は適任だと思ったけど」
「お姉様。あれは利己主義ではなく単なる個人主義です。稚拙で身勝手な人物では教授の求める成果を妨げる可能性があります」
「それを制御するのが縁陀の仕事でス!」
「もう!あなたは黙ってて!お姉様とお話してるでしょ!」
言い合う2人を見て微笑ましく思う。
「ふふっwやめなさい音華。縁陀も、この件は持ち帰って考えましょう」
「はい。よろしくお願いします」
「ハイでス!」
2人の返事を聞き、3人でSTWの監視を続ける。
STWビル最上階。一際広く、豪華なエレベーターホール。
「ふむ、これは怪しいというか、何というべきか……」
「だ、誰も、いないです?」
「うん、誰も居ないのに、当たり前のように冷房と照明が付けっぱだね」
一同は周囲を警戒しながら探索し、大きく豪勢な扉を開く。
「ここは、応接室?」
覗き込むようにゆっくりと部屋に入り安全を確かめる佐々木。続いて栞那も入室する。
「お上品な応接室って感じだけど、わざわざ最上階に応接室?って感じもするよね?」
「うん、応接室ってなんか出入り口の近くにあるイメージ」
「応接室をどの階に設置するかは特に指定されとらんからな、ここは要人を迎える為の部屋だろう」
安田は臆することなく部屋を探り回る。
「なにそれ?自分も経験ありますって?自慢か?」
高圧的に安田を見下ろす栞那。
「や、やめなさい。そのような目で見るのは」
栞那のジトっとした目に怯える。
一同の緊張感が薄れてきた時、空間に響く足音と共に織田が現れる。
「ふぅむ、どこから忍び込んだのかな、子猫ちゃん?」
3人と一匹を一瞥した後、ひまりの身体を熟視する。
織田の卑猥な視線に危機感を持った佐々木はひまりの前に出てその視線を遮った。
「あ、すみません。STWの方ですか?俺達、熊本から長崎に向かう途中でSTWに立ち寄らせていただきました」
「うむ、私は安田晋之助。この国の総理大臣をしている者だ」
佐々木に続いて安田が口を開く。
「この暗転事件に対応すべく動いているところでね、協力してくれると助かるんだが」
「ほう……それでここまで…」
織田は一瞬考える素振りを見せるが、すぐにその顔はにやけてひまりだけを注視する。
「それよりキミは……いいカラダをしているね」
「ひゃい?」
背筋に悪寒が走る。
「黄金姫……か。名は体を表すとは正にこの事、美しい!さあ、私が可愛がってあげよう!」
「!?」
大きく両腕を広げた織田が一歩近づくとそれを制止するように栞那も前に出る。
「ちょ、ちょっとオジ…お兄さん!いきなり失礼なんじゃないかな!?」
「失礼ではないさ、お前等をどう扱おうが私の自由なのだから」
偉そうなその態度から織田が心の底から他人を見下していることが分かる。
「待ちたまえ、今は有事。暗転事件に関する調査として立ち入らせてもらった。ひ……ここの社員の案内でもある。不法侵入を責めているのであれば勘弁してもらいたい」
「そのような些事ではないさ…」
意味深な笑みを浮かべる。
「あの、この子、黄金姫を知っているんですか?」
警戒心をより強めた佐々木は質問する。
「いや?初対面だが、良いビジュアルだ!非常に好みだ!!」
「だ、だったら何で黄金姫の名前を知ってるの?」
織田の振る舞いに栞那も危機感を募らせる。
「面倒な邪魔立てはするなよ小僧共。米田要に佐々木ABCDE……?なんだオマエ?バグってるのか?」
名前を言い当てられて2人は驚く。
「!?」
「俺達の名前まで!?」
「ふふ、たった3日でここまで辿り着いたことは誉めてやろう。流石にこれだけ大規模な改変ではここに来る者も出てくるという事か…。お前等の行動に老人達も大喜びだろう」
「ど、どゆこと?」
栞那が助けを求めるような視線を向けると佐々木は冷や汗をかき酷く緊張していた。
「守秘義務を守れない社員は後で処分するとして……それで?お前達はここで何を知りたい?何がしたい?」
織田はゆったりとソファーに腰掛けて寛ぐ。
「何の当てもなくここへ来た訳じゃないんだろう?」
「そ、それはつまり、あなたがこの世界を管理しているということですか…?」
織田に対して恐る恐る質問する佐々木。
「ああ、管理責任者だと思ってくれていい」
織田の答えに言葉を失う一同。
「元よりこの世界の残り時間は20時間を切ってはいるが、お前等イレギュラーの発生でその時間を待つ必要もなくなった。下手に対処せずに第三世界を終了させる方が賢明だろう」
「対処?第三世界……?どういうことだ?」
混乱する安田。
「こ、この世界は、あなた達に仕組まれて今の状態にあるのですか?」
「そうだ。楽しめたか?」
にやけた顔で答える織田に栞那が噛み付く。
「ちょっ!ふざけるなよお前!どれだけの人が苦しんだと思ってるんだ!」
「ふふwww、ACPの分際で人間ぶってほざきよる」
織田の舐めた態度に苛立つ栞那を佐々木が抑える。
「待って!落ち着いて考えよう。この人が本当にこの世界を管理する外側の人なら、口喧嘩してても意味がない。世界を元通りにしてもらう方が優先だ」
「うむ、分からないことが多すぎる。青年よ、キミは何者でここで何をしているのだ?」
「そうだなぁ、ここまで来た褒美と、黄金姫を紹介してくれた礼として答えてやろう」
「ひまりちゃんを紹介したつもりはないよ!」
鋭い目つきでじっと見る栞那。
「ひまり?あぁ、中身のことか。もうどうでもいい。この世界はすぐにでも終了させるからな。黄金姫とは次の世界でゆっくりと楽しませてもらうよ」
「……キモ」
ボソッと呟く栞那の後ろでひまりは終始にやける織田にびくつく。
「ふふふ……私はSTWcorporation、ACP下位世界管理室チーフの織田だ。このメタバースの神とでも思ってくれ」
栞那の攻撃的な視線に慄くことなく、織田は堂々としている。
「メタバース…?それじゃあ、やっぱりこの世界は現実ではない、仮想空間ってこと?」
「ほう、飲み込みが早いなABCD」
「アブシディです……」
「仮想空間。そう、この世界は現実世界を忠実に再現したデジタル空間、メタバースだ」
「はあ!?この世界がデジタルだって言うんなら私達はなんなのさ!?」
栞那の攻撃性が増していく。
「ふむ、つまりはシミュレーション世界。という訳か」
「ふふふ、そこまで感づいていなければここまで来れないだろう。その通り、お前達は人間ではない…。artificia consciousness person、ACP、人工意識者として生み出されたニセモノ、だ」
「あ、アブ君が言ってた通りって、こと…?」
覇気がなくなり狼狽える栞那。
「それで…この世界で人間……ACPを利用して現実の世界に都合よく使ってたってことですか?でも、何でこの世界を潰すようなことを?」
「ふぅむ、少し違うなアブシディ。ここは、第三世界だ。正確には現実世界を再現した第二世界のコピー世界。時折このような高負荷実験をすることになっていてねぇ。第二世界でこのような高負荷実験を行うと修復するのが面倒でな。最初から破棄される予定で作り出されたのがこの第三世界だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!それだとこの世界は元に戻してもらえないってことなの!?」
「元には戻るさ。この世界は終わり、第二世界として通常運転が再開される」
「え?じゃあ、このまま高負荷実験?が終わると元通りの世界になるの?」
「ああ、今や現実世界ではこのACPを有するメタバースは必須となりつつあるのでね」
栞那を口先で丸め込もうとする織田。しかし佐々木に制止される。
「待って、それって第二世界のことですよね?」
「?」
織田の口車に一瞬安堵の表情を浮かべた栞那は佐々木の余裕のない顔を見てすぐさま不安そうな表情に戻る。
「現実世界に利用価値があるのは第二世界で、そのコピー世界の第三世界は無理な設定で実験を受ける被検体。この世界の終了はつまり俺達の存在含めて消すってことでしょ」
不敵な笑みを見せる織田。
「例えるならこの第三世界は暗転事件の瞬間に生まれた新世界。コピー世界だとしても完全に別の世界である以上、実験終了は世界の終わり。…世界を暗転事件前に巻き戻してやり直すなら暗転事件後の記憶を失うだけで済むけど、世界を消されるってのは納得できない」
「納得してもらう必要はない」
蔑むような目で一同を見る。
「電子意識の君達に人権なんて存在しない。創造主である人間様に服従していればいいのだ」
「ふむ、随分と自分勝手だな。我々は間違いなく意識を持った存在。それを無下に扱うとはキミ達の文明はその程度のものなのかね?」
「ふふふ、営利主義でね。さて、もういいだろう?この世界を終わらせようか……」
挑発的な安田を意に介さず、織田が指先を動かすとそこにコンソールが浮かび上がる。
一番近くに居た佐々木だけがそれに気づき、護身用に預かった拳銃を取り出して銃口を織田に向ける。
「ア、アブ君!?
「醜く足搔くのも人間の模倣か…」
銃を向けられてもなお余裕のある表情を崩さない織田に対して佐々木は焦り、動揺している。
「今までの話、嘘ならよかったけど……そんなもの見せられたら信じるしかない」
銃を構え、脅迫する立場にあるはずの佐々木には気迫が無く、絶望感すら漂わせる。
「そんなもの?……!?」
織田の手のひらに浮かぶ謎のコンソールを見て一同は衝撃を受ける。
「……ふむ。どうやら話は真実のようだな。織田青年よ、今後の世界について話しを…」
「交渉は不要だ、撃ちたければ撃ちたまえ。その結果についても想像はついているのだろう?」
佐々木は決心したように呼吸を落ち着かせて狙いを定める。
ズドン、と銃声が室内に響く。反動によろめき絶望を深める佐々木はそのまま銃を床に落とした。
「ふふ、この期に及んでなお足を狙うとは意気地がないというか優しいというか…」
放たれた弾丸は眉一つ動かさない織田の身体をすり抜けソファーを貫通する。
「お前等は実に良いサンプルだったよ。それではまた第二世界でな、黄金姫」
ひまりに色目を使う織田。
「ふぇ?」
「あぁ、中身は別だったな。では、adieu」
言い終わると同時に一同の前からすうっと姿を消す織田。
「き、消えた……?」
「どどどど、どうすんのこれから!?」
慌てふためく栞那の声を遮るように世界にサイレンが響き渡り、続けてアナウンスが流れる。
【第三世界高負荷実験が終了されました。職員の皆様は、収集したデータの保存を行い、順次ログアウトしてください。繰り返します……】
「ちょっ!?なに!?激ヤバじゃないの!?」
「うむ、奴を探し出し何とか止めさせねば!」
何処からか聞こえるそのアナウンスに焦り当てもなく走り出す安田。
「首相!?どこ行くのさー!?」
後を追って走り出す栞那。一方、腰を抜かしてその場でへたり込むひまり。
佐々木は2人を追いかけようとしたが動けないひまりに気付いて立ち止まる。
「さ、佐々木さん……」
「……ごめんね……失敗したみたい…」
サイレンとアナウンスの中、か細い声をかろうじて聞き取る。
絶望感を隠し切れない佐々木を見てひまりも同じように絶望する。
「こ、これからど、どうなるんでしょうか…?」
「………」
沈黙してその問いに答えることが出来ない佐々木。
鳴り響いていたサイレンが止まり、繰り返されていたアナウンスが新たな文章を読み上げる。
【第三世界を終了します】
その言葉を合図に世界から光が消えていく。
「い、いやっ!佐々木さんッ!」
光を失う世界に恐怖するひまりは助けを求めるように手を伸ばす。
「ひまりッ!!」
ひまりの手を取ろうとした佐々木だったがその手が届くことはなく、第三世界は終焉を迎えた。
「……お姉様………」
珍しく元気のない表情をする音華。
「……いいのよ。成果、収穫はあったわ。私達もログアウトしましょう」
コンソールを立ち上げる。
「……はい…お疲れ様でシた」
音華をログアウトさせる。
「縁陀」
「はい、なんでしょうか?」
「織田真輝をデリート。後任を長老会に選出させなさい」
「かしこまりました」
縁陀をログアウトし、第三世界に誰も居ないことを確認する。
「……実験終了」




