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第三世界  作者: EMR
23/30

第三世界#22

#22


誘導



 犬になった安田首相一行を乗せたバスは昼を過ぎて福岡に入っていた。

「いや~、案外すいすい進んだねぇ」

 リラックスした格好で座る栞那。ひまりも笑顔で賛同する。

「そ、ですね。バス移動も快適でした…」 

 高速道路に放置された車両を重機で押し退けて道を空ける。蛇行していて走りやすくは無いもののペンネは上手くバスを操り進んで行く。

「そだね~、エアコン様様だ。ここまで体力温存できたのはラッキーだったよ」

「予定では自転車で長崎までですよね」

「そ。大冒険なんだよ。柊ちゃんも付き合う?」

「いえ、私は遠慮しておきます」

 丁寧に断る縁陀。

「自転車旅行みたいで楽しいかもよ?」

「すみません。私には移動を楽しむという概念がありません」

「あれれ~?もしかして柊ちゃんも運痴なのかなぁ?」

「う、ウン?……う、運痴。運動音痴の意……運動に関する感覚が鈍い、運動が苦手であること。……私にこれは当てはまりません」

「あははw面白い反応をするね。ひまりちゃんだって運痴だし恥ずかしがらなくていいんだよぉ~」

「ちょ、か、栞那さん……!」

 ひまりは広がっていく自分の運痴を抑えるべく怒った顔を作って栞那に抗議している。

「あははwひまりちゃんは怒った顔も可愛いね~」

 怒ることに慣れていないひまりは茶化されていなされる。

「www」

 その様子をバスの先頭、ペンネの隣で現在地を確認していた佐々木が見て微笑む。

「「皆さん、大宰府に入りました。目的地は間もなくです。ご降車の際はお忘れ物の無いようお気をつけください」」

 バスの運転士を装い車内放送を使って現在地を知らせる。

「おや、もう着くのか。柊ちゃん、インターからは歩きでも大丈夫なの?」

「はい、3キロ程度ありますが問題ありません」

「OK、歩きでもすぐに着くね。STWを少し見て回っても暗くなるまでにはひまりちゃんの家まで行けるかもね」

「は、はい。あ、ありがとうございます」

 ひまりは家に帰れる安堵とは別に複雑な表情をしている。

「ん?どうかしたの?」

 栞那はひまりの表情を汲み取る。

「え…えっと……」

 もじもじするひまり。

「不安になっちゃった?」

「うぅ……」

「……その気持ちわかるよ。こんな状況で現実が近づいてきちゃんだから、怖いよね」

「………」

 ひまりは黙って頷く。

「怖い。ですか?」

 静まるひまりに興味を示す縁陀。

「……柊ちゃんは怖くなったりしない?」

 言葉が見つからないひまりに代わって栞那が答える。

「非日常なこの世界で特異な時間を過ごしたんだ。自分の大切な人達がこの世界でどうなったのか、そんな現実を知るのがもうすぐかもしれない……私もまだ家族とは会えてないし、不安になるのは仕方ないと思うよ」

 栞那はひまりの横に席を移すとその手を優しく包み込む。

「……!」

「あなたは……ずっとそのままなのですか?」

 ひまりのもじもじとした態度に縁陀は事務的な表情を崩す。

「いつもそうやって誰かに守られてうじうじして、自分では何の行動もできずにいるのですか!?」

「……ふぇ?」

「柊ちゃん?急にどうしたの?」

 突然怒りだした縁陀に驚く2人。

「このような特殊な状況で自立できずになされるがままで!あなたは変われないのですか!?」

「え……?」

 困惑するひまり。

「ま、まあ落ち着いて、ね。柊ちゃん」

 縁陀は大きく息を吸って落ち着く。

「失礼、少々八つ当たりしてしまいました」

「八つ当たりって、困るよ柊ちゃん」

 栞那は場の空気を壊さないように穏やかさを心掛ける。

「すみません、やり過ぎました」

 軽く頭を下げる縁陀はぽつりと呟く。

「あなたに言っても仕方ありませんでしたね」

 その呟きは誰にも届くことはなかった。



 太宰府インターで下りて過激派から離れた一同。別れ際に中指を立てられた佐々木は苦笑いしながらバスから荷物を出していく。

「案外任務に忠実な人達だったね」

 過激派の攻撃対象ではない栞那は去り行く過激派達に手を振って別れを告げる。

「誰にでも噛み付くような人達だったけど、ペンネちゃんには従順だったよね。なにか荒くれ達を従えるすべがあるの?」

「……んー、日頃の行いだろーなー」

 バスを降りたペンネはいつもの調子に戻ってゆったりとした口調で答える。

「日頃の行いって……過激派相手に手綱を握った時も性格が変わってるんじゃ…」

「あー?……んな訳ねーだろー。人望だか人徳だか、そんなとこだなー」

「降ろし終わりました」

 積み下ろしを終えた佐々木が一息つく。

「黒田さんと首相が忘れ物がないか確認してくれてます」

「ww今度は首相を忘れないようにしないとねww」

「おー、あんなもん忘れて行くなよー」

「ペンネさん、ここまでありがとうございました。予定より早く、楽に来られました」

「ありがとうね、ペンネちゃん」

 礼を言う佐々木と栞那。

「こっちにもメリットがあったからなー、気にすんなー」

「か、確認、終わりました」

「うむ、世話になった。ペンネ嬢」

 バスを降りてきた2人はペンネにぺこりと頭を下げる。

「うーむ、気を付けて行って来いよー」

 入れ替わりでバスに乗るペンネは運転席に座るまで外に向けて手を振っていた。

 一同もそれに応えて手を振って見送る。

 エンジンを始動させてハンドルを握るペンネ。

「「ぅよっしゃー!!30秒で追いついてやるぜぇーッ!!!」」

 車外に響くペンネの怒号はすぐさまエンジン音に掻き消され、轟音と黒煙を上げながら過激派達を追いかけて去って行った。

「二重人格ってあるんだね……」

 ペンネを見送りつつ呆れる栞那。

「……それでは皆様、これよりSTWcorporationへご案内させていただきます」

 縁陀は注目を集めて一行の先頭に立ち歩みを進める。

 その後ろを自転車を押して付いていく栞那は前方に見えるビル群を指差して尋ねる。

「あのビルの方に行くの?」

 縁陀は栞那の指先を確認して答える。

「はい。あちらに見えるビルの中で一番高いものがSTWcorporationになります」

 淡々としている縁陀はそのまま歩き続ける。

「はへぇ~、でっけぇビルだね。なんか益々怪しくなってきたよ」

「確かに。ランドマークにもなりそうなビルの会社を地元のお役人さんが知らないなんて……いや、単にビルの一画を間借りしているだけ…?」

 佐々木はぶつぶつと独り言を呟きながら自転車を押す。

「……あ、あのぅ…」

 先を歩く縁陀に聞こえないように囁くひまり。結果的に甘えたような態度になり栞那に茶化される。

「どぅちなのかなひまりたん、お花を摘みに行きたくなったのかな?」

 子供をあやすような栞那の言葉にムッとするひまり。

「そ、そんなんじゃないですよぉ」

「あははwそれで?改まってどうしたの?」

「そ、その…」

 ひまりは縁陀の後姿を見て自分たちに関心がないことを確認する。

「も、もし……佐々木さんの仮説が正しくて、STW…?がこの世界を管理している組織だったら、ひ、柊さんは私達にとって味方になってくれるんでしょうか…?」

「うん?まあ、そうだね。柊さんはSTWで働いていただけらしいし、話を聞いた感じだと真実を知らずに仕事をしていたみたいだからね、味方じゃないかな」

「あれれ~?ひまりちゃんもしかして、柊ちゃんのこと警戒しちゃってる?」

「警戒してるの?柊さんを?」

「バスの中で少し強めに当たられちゃったからね」

「そうなの?なんだか事務的で感情が希薄な人だと思ってたけど、突っ込んできたりするんだね」

「八つ当たり、とか言ってたけど、何か気に障ること言ったかな?」

 バスでの出来事を思い出すように喋る栞那の声はひまりと同様に小声になっている。

「確かにひまりちゃんは気弱で臆病な所があるし、それをよく思わない人もいるけど、柊ちゃんの豹変ぶりは普通じゃなかったよね」

 ひまりは自分の内気な性格を指摘され心にダメージを受けている。

「あの柊さんが豹変して八つ当たり?穏やかじゃないね。どんな話してたの?」

「ガールズトークの内容は男子には話せないな~」

「あ!あの!そうじゃなくって!」

 小声だが力強い発言をするひまり。

「ば、バスの中のことじゃなくて……柊さんって、いつから居たのか分かりますか?」

 その質問の意図が理解できない様子の佐々木と栞那。

「ん?柊ちゃん?……早川ボス達と一緒に居たよね」

 佐々木に同意を求める栞那。

「うん、ペンネさんに連れて行かれた、早川君達のアジトに一緒に居たはずだけど…?」

「……さ、最初から、ですか?」

「最初から居たと思うよ?ペンネちゃんとアブ君が部屋に入って、少し遅れて私達が入ったよね。その後の出入りは無かったはずだから」

 記憶を辿る栞那。

「俺も最初に入った時に万が一に備えて人の配置や部屋の状況は確認してたから間違いないと思うよ」

「え…?そ……でしたっけ…?」

「どうしたのひまりちゃん?不服そうだね」

 俯くひまりは覗き込むように見てくる栞那と目が合い、意を決して言葉を発する。

「わ、私は、人が沢山居る所とか、じ、自分から喋ったりするのが苦手で、その場にいる人をよく見ていたりするんですけど……」

 言っていて恥ずかしくなったのか途中で口ごもる。

「確かに、ひまりちゃんはその場をよく見てるよね。そのくせ目が合うと逃げるようにそっぽを向くけどw」

「うぅ…そ、そのことは置いておいてください…。柊さんですけど、あ、あの人、私からは突然、パって出てきたように見えたんです」

「え~?いくらなんでもそれはな~」

「そ、そのあと普通に会話に入って……こうしてSTWってトコに行くことになって……。私達、誘導、されてたりしないです…?」

 ひまりは怯えるように縁陀の後姿を見つめた。



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