第三世界#21
#21
STW
米田邸。
連絡を受け取り、対応するために静かに米田邸を出たがその場で家主と遭遇する。
「あら、京香さん。お出かけ?」
「いえ……少し、外の空気を吸いに」
「そう、まだまだ暑くなるみたいだから長居しちゃダメよ」
「はい、気を付けます。……詩織さんはお出かけしてたんですね。気付きませんでした」
「すぐそこまでね。ご近所のお友達の家を見て来たのだけど、残念ながらお留守で、お家も荒らされていたわ。人けの無い家は狙われやすいみたいね。私達も気を付けましょう」
「そうですね、戸締りもしっかりしていきましょう」
「ええ、家に上がるときは戸締りお願いね」
詩織は優しい笑顔を見せて家に入る。
「(小声)おっねぇ様~♡」
詩織と入替りで音華が現れる。
「………」
「いやぁ~、ニアミスでしタw」
「音華……目的地の状況確認はしっかりしなさい」
叱られたはずの音華はてへへと舌を出して反省の色は見せない。
「えへへっw!それよりもお姉様!code3発声でスよ!」
音華は嬉しそうにぴょこんと飛び跳ねる。
「そうね。この世界も終盤ね」
淡々と言うと音華は悪戯っぽく笑う。
「ムフフ~、やっぱり確認してないでスね」
「?」
「今回のcode3、発生源は佐々木のアブシディ。あのモブ男君ですよ!しかも範囲内にはあの子も居たでス」
「!?……そ、そう…」
「今、縁陀が応対にあたってまス」
「縁陀が……今回、張り付いてもらう必要はなかったわね」
「結果論でスよ。私達はお姉様に使われる為にいるのでス。万が一ということもあるでスから、これからも使ってくださイね」
励ますように話す音華の顔からはいつもの悪戯っぽさが無くなっていた。
洋館を出た佐々木の前に一台のバスが用意されれる。
「バスを使わせてもらって良いんですか?」
「ああ、むしろ道の整備ができてない状態じゃ、でかいのは使いづらいからな」
佐々木、佐藤は自転車をバスに積み込む。
「いや~、さすがにこの身体じゃぁ足がぎりぎりだなー」
運転席に座りシートを調整してクラッチを踏むペンネ。
「マニュアル車ってヤツ?運転大丈夫そう?」
「まー、何とかなるさ」
やる気の無い口調はそのままにどこか興奮気味のペンネ。
「福岡遠征に出るのは、バスと油圧ショベルを積んだ重機運搬車。ホイールローダーに小型タンクローリー。運転手でバスにペンネ、他は過激派の連中。道はアイツ等が切り開くからお前達は直接過激派に係わることはないはずだ」
「バスに乗るのはペンネさんと首相御一行の俺達だけですね」
「バスには私も乗せていただきます」
縁陀はバスに乗り込む。
「私ならSTWcorporationへ案内できますので」
一度車内を見渡して隅の方で腰を下ろす。
「いやぁ、淡白なお姉さんだね」
栞那が続いてバスに乗る。
「STW……聞いたことない会社だが、目的地はそこで良いのか?」
「黒田さんが住んでる場所からも近いし問題ないですよ」
「私達の目的はひまりちゃんと首相を送り届けることだからね。STWってのはついででしょ?」
「確かについでではあるが、可能性の一つを潰す為でもある。そのことを頭に入れといてくれ」
「了解、期待せずに待っててください」
「ああ、期待はしない。達者でな」
積み込み作業を終えた佐藤は淡白な挨拶をしてバスを降りる。入れ替わりでバスに乗ったひまりは佐藤に小さく会釈する。
「さ、佐藤さん、意外といい人でしたね」
「見た目で判断できない状況と言っても佐藤さんはアウトローに寄せてる恰好だからね」
「お役所勤めって言ってたから基本まじめな人なんだろうけどねw」
3人は降車した佐藤の姿を目で追う。その視線の先、手下に指示を出してる早川に合流する。
「いいか、お前等の役割は高速道路を通れるようにするだけでいい。街の道路整備ほど周りを気にする必要はない」
「放置車両をぶっ飛ばして道を開けてやれ」
「………」
指示を受けた三下の男は不機嫌そうに顔をしかめる。
「道路整備は良いとしてよぉ、何であの小僧を送ってやらなきゃなんねぇんだよ?」
男が不満をぶつけると早川は視線で佐藤に助けを求める。
「タックル小僧には別の仕事をやらせる。この事態を収拾させられる可能性がある仕事だ」
「そんな重要な仕事をあいつ等に任せるのか!?ボスはここを治めるとしても、佐藤さんや俺達でやるべきじゃないのか?」
三下の男は強く主張する。
「暗転事件解決の功績を持っていかれちまうぜ!?」
「心配するな。可能性自体限りなく低いものだ。俺達が動くだけの価値はない」
「そ、そうなのか?だったらわざわざ送ってやる必要なんて……」
「小さな可能性でも潰していく、これだけの事件を解決するには必要なことだ。だからといって労力を無駄にはできねえだろ?タックル小僧は捨て駒と思って捨ててこい」
「はっw!そりゃあイイ!無駄骨コースか」
調子付く三下。
「お前たちがやる高速道路の整備は拠点を繋ぐために重要な仕事だからな」
「任せられるな?」
佐藤の言葉に続いて早川は低く渋い声で三下に圧力をかける。
「あ、ああもちろんだ!任せてくれ!きっちり仕事をこなしてきてやるぜ!」
三下は自分の担当する車両へ向かった。
少し開いていた窓から外の様子を窺っていた栞那は窓を閉めてにやつく。
「佐藤さんは大丈夫そうだけど、早川ボスは危なっかしいね」
「これは早川ボスにボロを出させない為の過激派分断でもあるのだよ」
達観する佐々木は優しく細い目で中学生オジサンを見ている。
「フッw!あの様子じゃあバレるのも時間の問題だけどね」
栞那は笑いながら席に着く。
「あー……準備できたみたいだぞー」
ペンネのゆったりとした声が車内のスピーカーから流れる。
「動きだすからなー。大人しく座ってろよー」
「はーい」
ペンネの指示に返事をする3人。佐々木とひまりが席に着くと奥から縁陀が声をだす。
「…あれは……」
外を見る縁陀のぽつりとつぶやく声に一同は縁陀の視線の先を追う。
佇む安田。
「あのペットは置いていくの?」
安田はドアの閉まったバスの周りをうろつく。
「乗ってねぇーっ!」
飛び上がる佐々木。
「忘れ物ッ!ペンネちゃんちょっと待って!」
声を上げ慌てて立ち上がる栞那だが、それを掻き消すかのようにエンジンが吹かされる。
「行くぞぉ!!おめぇらッ!!!」
突然、スピーカーからペンネの大声。
「えッ?」
ハンドルを握り豹変するペンネ。エンジンが爆音で鳴り響き、荒々しくクラッチが繋がれると車体が大きく揺れる。
「ヒャッハーッ!!!」
安田を回収して出発したバスは一同を乗せて高速道路をゆっくりと進む。
「いやはや面目ない」
申し訳なさそうに伏せる安田。
「無事出発出来て良かったよ」
「わ、私、す、すみません……首相さん置いてきちゃって…」
安田に続き面目なさそうに謝るひまりをフォローする栞那。
「いいって、さすがにオジサンのトイレにまで付き合う必要ないよ」
「は、はぃ……」
「この身体になれば洋式よりも和式の方がしっくりくるものでな」
「ヤメテヨ想像シチャウ」
栞那は目をきつく閉じて拒絶する。
「それにしても、不思議なものですね。何の手違いで犬の身体になったのでしょう?」
当たり前のように会話する犬の姿を見て縁陀が疑問を提示する。
「手違い?天罰じゃないの?悪徳政治家に対する天誅、みたいな?」
目を薄く開けて半笑いで答える栞那。
「何故ディスる?」
「政治家って民衆の敵でしょ?」
「何処で何を学んできたのだ」
「いつの時代も悪い人間はいるものです。あなたには悪いイメージはなかったのですが、悪い虫がついたのでしょう、観念してください」
淡々と述べる縁陀。
「うむ、とうに諦めておるよ。しかし、役割を放棄することはできないのでな、この身体でもできうる限りのことはやりたいのだ」
「責任感が強いのですね」
「惚れちゃう?」
「いえ、無理があります」
「……ふ、ふざけるのはその辺にして、柊譲。STWというのはどういう会社なのだ?」
「はい、STWcorporationではマルチメディアデータを取り扱っています。業務は主に委託されたデータの処理、そして知的財産権のデータ化と整理です」
縁陀は用意された原稿を読むかのように続ける。
「機密情報を取り扱うこともあり社員には高い給与が支払われています」
「機密情報?」
「はい、公文書作成や個人情報の取り扱いですね」
「ふむ?公的機関からの委託も受けておるのか?」
「はい、そのはずです」
「そのはず?なんだか曖昧な答えだね」
縁陀の返事に違和感を持つ栞那。
「はい、私達社員に伝わる噂話のようなモノ。STWcorporationで取り扱っている公文書や個人情報はすべて架空のモノである、と。昔、現実との差異に気付いた社員が証拠集めに奔走していたところ失踪してしまったとか、眉唾物の噂でしたが今回の件で真実味を帯びました」
「暗転事件に対するシミュレーション仮説と佐藤さんの証言、佐藤さんはSTWのことを知らないと言っていた」
佐々木は佐藤の発言を皆に伝える。
「うむ、地元の役人が機密情報の委託先を知らないということか……」
「ありえない事じゃないけど、柊さんの話も含めて仮説の確度は高まった…?」
「ふむ、STWへ向かう事自体方便であったが調べてみる価値はありそうだな」
「寄り道が増えちゃうけど大丈夫ですか首相?」
「事態の収拾を図れるのであればそちらを優先させるべきだろう。暫し付き合ってくれないか」
「俺は全然大丈夫だけど、2人はそれでいい?」
佐々木はひまりと栞那に確認を取る。
「わ、私も協力します」
「ムフフ、乗り掛かった舟、だからね。もちろん付き合うよ…」
栞那は不敵な笑みで答えるがバスの運転席、ペンネの様子が見に入り表情が曇る。
「ちんたらやってんじゃねぇぞ下っ端が!アクセル全開でブッ飛ばせやッ!!!」
ハンドルを握り人が変わったペンネは放置車両を押し退けながら進む過激派を強い口調で煽る。
「ってゆーかこれ、無事に着くのかな……?」
栞那の言葉に一同は肩をすくめた。




