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第三世界  作者: EMR
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第三世界#19

#19


解放の条件



 熊本市内のとある洋館に連れてこられた一同。

「ボスー、居るかー?」

 部屋の扉をノックするが、その返事を待たずに入室するペンネ。

「ペンネか。どうした?」

 低く、深みのある声の男が迎える。

「あー、この前の物資集めん時に団員にタックルして逃げたヤツ、見つけたー」

 ペンネに促され入室する佐々木。部屋にはボスと呼ばれた男の他に団員らしき人物が2人居る。

「あ、どうも、こんにちは」

 緊張しつつ、非常時に備えて建物の間取りを確認する。

「タックル小僧か?」

「あだ名?」

「まー、ちょっとした笑い話だからなー」

 3人のやり取りに団員らしき1人の女が関心を向ける。

「おう?見覚えのある顔だ」

 女が声をだし近づくと昨日街で会った人物、澪だと気付く。

「あ、何時ぞやの」

「澪ぉ!ヤ、正確に言うと澪の身体の人ぉ」

 部屋の入り口で様子を窺っていた栞那が入室する。

「おぉー!えっと、あの時の少年」

「栞那だよ、弓削栞那。お姉さんの身体の人の友達の」

「あぁ、そうそう。そうだったね、そんな感じだった」

「あははっwアバウトだね、今澪は」

 佐々木とは対照的に緊張感なく相手に踏み込む栞那。

「ほう、なるほど。キミにとって私は今澪か」

「そだね。知ってる人の身体に知らない人が入ってるって不思議な感じだよ」

「うん?まあ、言われてみれば知らない人の身体に知らない人が入ってるのは当たり前の事か」

「身体の持ち主が違っても初対面の他人は他人ですもんね」

 佐々木も同調する。

「当たり前の事を言いやがるなタックル小僧はw」

「それやめて…」

「それで?こいつ等連れてきてどうするつもりだ?」

 深みのある声が和みつつある場の空気を引き締める。

「んー、特に何も考えてないんだよなー」

「用がないなら逃がしてやれ、あいつ等に見つかる前にな」

 ペンネの間の抜けた声にため息をつくボス。

「あれ?意外と穏健派?」

 隣にいる栞那にだけ聞こえる程度につぶやくと栞那は黙ってうなずいた。

「見つかる前にって言うかなー、見つかって騒ぎになってたから連れてきたんだよなー」

 ボスはもう一人の団員の男と目を合わせる。

「不満の放置は組織崩壊を助長する」

 場を静観していた男はボスの視線に答える。

「組織を纏める為にもみせしめとしてボッコボコにするのも一案かと」

「えっ!?」

 男の提案に緊張感を取り戻す。

「………」

 ボスは暫く無言で睨むような視線を佐々木に向けた後に再度ため息をつく。

「はぁ……なんかもうホント面倒くさいな」

 ボスは椅子に深く座るとだらしなく姿勢を崩す。

「ん?」

「大体さぁー、こんな苦境だからこそ皆で力を合わせて立ち向かうべきだろう?」

 声色は渋く、しかし態度は明らかに幼さを見せる。

「もう!俺には!わかんねぇよ!」

 投げやりに吐き捨てるといじけた子供のように窓から空を眺める。

「………」

 静観する佐々木。

「今更ほっぽりだす訳にもいかんだろう。曲がりなりにも組織を作った責任は果たせよ」

「だ、だからさぁ!今後の方針を相談しようと…」

 団員の男に叱られ、すがるように泣きつくボス。

「話は聞かせてもらったぞ」

 部屋の外で待機していた安田はひまりに抱き抱えられて登場する。

「そしておおよその状況は理解した」

「は!?」

 ボスと団員の男は一瞬固まる。声の主が現れた少女か犬か、見極めようとしている。

「あ、あの、こ、こんにちは」

 アウトローに怯えながら挨拶するひまり。

「え!?ヤバッ!マジで!?喋ったのこの犬?ガチでキモいんだけど!」

「いやもうキャラがさ、崩壊してるんだけど」

 驚きはしゃぐボスを淡々と指摘する佐々木。

「ふむ、やはりキミはまだ幼いようだね」

「お、幼くはねぇよ!ちゅ、中学生だぞ!」

「ほう……」

 中学生という単語に反応した栞那はボスの全身を舐めるように観察する。

「いや、ないな。例え中身が中学生でも全然萌えないな。キミを見ていても湧き出でるモノが何もないよ」

「ちょっと引っ込んでなさい」

 熱く語り冷たく突き放す栞那を後ろに下げる。

「コレの事は気にしないで」

「うむ。私は安田晋之助、今はこのような姿だが暗転事件前は首相として国政を担っていた者だ。よければキミ達の現状を話してはくれないか?」

 鋭い視線のボス。

「……安田晋之助?シュショウ?何それ?」

「………」

「首相、男子中学生なんてこんなもんですよ」

 無言になる安田をフォローする佐々木。 

「それが本当なら我々も頼らせてもらいたいが、どうも怪しいな」

「犬だもんな、喋る犬。怪しいというか、どうなってんだ?」

「珍しい犬種なんだなー」

「な、なあ、安田何とかって、シュショウって何だ?」

「大統領だろー」

「総理大臣だ。国政のトップだよ」

 アウトロー集団ののんきな会話の中で団員の男だけが真面目さを保っている。

「総理大臣!?マジで?何で犬に?こんなとこで犬やってねぇで国を救えよ!」

「うむ。我々は今霞ヶ関へ向かう旅路の途中。しかしひっ迫する国民を捨て置くこともできん。話したまえ、アウトロー集団の現状を」

 アウトロー集団は顔を見合わせて頷き合う。

「そうだな、犬ってのは置いといて、まともな大人の意見なら取り込むべきかもしれないな」

 団員の視線に促されるボス。

「…俺は早川隆二。宮崎県の田舎の中学二年生。暗転事件で気が付いたらこのダンディオジの身体になっていた」

 椅子に座り直して語りだすボス早川。

「ダンディの名前は堀田龍一郎。市街地のカフェでそこのペンネと同じテーブルでお茶してたみたい」

「あー、私はペンネ・サンダース。アメリカ人だ。身体の持ち主の名前は知らねー」

「とりあえず一緒に居たペンネと行動することになったんだけど、ダンディの鞄にモデルガンとか入っててさ、ハードボイルドごっこしてたら……いつの間にかチンピラ連中に囲まれて、祭り上げられるようになっちゃって」

「ハードボイルドごっこって…」

「そ、それで、俺も調子に乗ってボスらしく振舞っていたんだけど、次第に統制が取れなくなって、一部の過激派が犯罪行為を…」

「あいつ等か」

 厳しい表情の佐々木。

「でも!このままじゃいけねぇって、昨日から常識人で発言力がある人を集めてグループの中心に置いてみたんだ。当たり前のことだけど、その人達の言葉は周りから支持を得て過激派の勢いはなくなってきたんだ」

「ふむ、組織運営は上手くいきつつあるのか」

「抜擢された内の一人、佐藤だ。暗転事件前は博多区役所で働いていた。昨日からは組織の人事担当みたいなことをしている」

 佐藤と名乗る団員の男は役人とは思えない程睨みの利いた目をしている。

「なるほど、過激派の言動には気苦労するな」

「仕方ないことさ。始まりがどうであれ3000人以上が集まった集団だ、似た仕事をしていたし適任だと思っているよ」

「うむ、キミ達の働きに感謝するよ」

「とはいえ、過激派の武装解除ができた訳じゃないからな、組織の方針として大人しくさせることは出来たんだが不満をため込み続けると暴走しかねん」

「一度手にした武力を放棄することは難しいからな。無理に取り上げれば反発は必至。そこを収めた組織の方針とやらはどういうものなのだ?」

「あぁ、組織の長期的な維持と暗転事件の解決だ」

 佐藤は丸められた模造紙をテーブルの上に広げる。

「この状況が続いてしまう場合にも、突然元に戻った場合にも対応できるようにエネルギーの確保と食料生産を再開したところだ」

 広げられた模造紙には、手書きで大まかな地図の中に農地や肥育場、水力発電所にソーラー発電施設等が書き込まれている。

「これらの施設と拠点となっている場所を繋ぐ道路の整備も今朝始まったばかりだ」

「過激派は道路整備の方にほとんど行ってたな」

「ああ、道路整備を待っていては家畜が全滅してしまうから、各施設、特に肥育場には既に人材を送っている。関係者や学生たちを分散させてな。一方で過激派は道路整備に集中してしまっている。今過激派を抑えられるような数の有利もない状況だ」

「うむ、持続可能な組織体制に過激派を取り込み、勢いをそぐことには成功したものの未だ危うさは残るか…。彼らの意見を無下にはできないだろうが、話によるとこちらのタックル小僧、佐々木少年の行動は正当防衛にあたることだろう」

「まあ、元々そうだろうとは思っている、無論奴等の要求通り危害を加えたりはしない。何か奴等が納得できる、落とし前を付けたってことにするだけでいい。ペンネが連れ出した以上俺達がみすみすお前達を取り逃したってのはなしでな」

 ボス早川に代わって佐藤が仕切る。

「ふむ、金銭の譲渡は現状無意味か。食料は、渡してしまうとこちらが困ってしまうな…」

「食料を貰ったってことにしておけばそれで良いんじゃね?口裏合わせてさ」

 早川が提案する。

「しかし、証拠を見せろなど言われたら困るであろう」

「何かを奪ったということにすると、タックル小僧から奪ったものは自分たちのものと主張するかもしれないな。かと言って、体罰を与えたとしたところで奴らが信じるか?どうせやるなら何故自分にやらせない?ってなるだろう」

「それなら、情報を渡して許してもらったってことにできませんか?」

「情報?」

 挙手をして発言した佐々木は続ける。

「さっき言ってた、暗転事件の解決。それに役立つかもしれない情報」

「ああ、良いんじゃないか?有益な情報なら解放する理由には十分だろう」

 頷く佐々木。

「暗転事件の、入替りの法則には気付いてますか?」

「イニシャルが関係してるってヤツだろ?」

「俺達もそれに気付いて、身体と中身の情報を出来る限りまとめて提出するように組織内に指示を出してるところだ」

「はい……それで、たぶん、みんな九州に居た人間だと思います」

「九州だけで起こってるってことか?」

「いや、単純に入替る相手との距離に限界がある可能性もあるよな」

 食い付く早川と対照的に佐藤は冷静に分析する。

「暗転事件がエリア毎に起こっている可能性に、この世界が九州しか存在してない可能性も」

 佐藤の言葉に説を追加していく佐々木。

「は?」

「ありえない事象が起こった以上ありえない仮説が真実なのかもしれない。首相に言われて考えてたんだ。この暗転事件を説明できる仮説を」



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