第三世界#16
#16
ブリーダー
街外れの公園、寺内はベンチに座り隣に置いた拳銃を難しい顔をして見ていた。
それを手に取り、また置いてため息をつく。
「……はぁ…」
「しゅ~じぃー!」
「!?」
近づいてくる見知った顔に気付く。
「やぁ、やっと見つけたよ」
「栞那か……何でここに?」
「修二が朱音ちゃんほっといて出て行っちゃったから追いかけてきたんじゃないか」
「……よくここが分かったな」
「優秀な猟犬がいるからね。まぁ、最後にバテちゃってアブ君とゆっくり歩いて来てるよ」
栞那は自分が来た方向を振り向いて遠くの2人の姿を確認する。
トボトボと力なく歩く安田の横を佐々木は無表情で付き添って歩く。
「もう、バテてるんだから抱っこしてあげればいいのに」
「ふっ、まぁアイツにも考えがあるんだろ。そっとしておいてやれよ」
「………」
栞那はベンチに置かれた拳銃を見つける。
「そんなものどこで手に入れたんだい?」
「あぁ……これな。事故って気を失ってる警官からもらってきたよ」
「もらったって、そんな簡単にもらってきちゃダメでしょ」
「身を守るためには武器も必要だろ?」
寺内は拳銃を手に取る。
「どっちにしろその警官だって中身は別人だろうし、誰が持ってても一緒だ」
「それはまぁ、そうかもしれないけど……使ったりしてないだろうね」
「使ってねぇよ」
佐々木がふたりに追いつく。
「あ、鉄砲持ってる」
その言葉に緊張感は無い。
「アブ君」
合流した佐々木のそばに安田は見えず、栞那は安田の姿を探す。
「あれ?首相は?」
「足が止まったんで、置いて来た」
「鬼畜か、修二捜索の功労者を何だと思ってるんだ」
「それはそれ、これはこれ。役目を果たしたんだから休ませてあげよう」
「まったくもう、ちっこいんだから抱っこしてあげれば良いでしょう?」
木陰で休む安田を見つけて諭すように言う。
その言葉に佐々木は考えるフリを一瞬する。
「だが断る」
「ふっw」
「鬼畜だよ!やさおの皮をかぶった鬼畜だよキミは!」
「まぁまぁ、首相も子供じゃないんだから、1人にしていても大丈夫でしょ」
佐々木は話を戻そうとする。
「それより、今はその鉄砲のこととか、何で出て行ったのかの方が大事でしょ」
「う、うん。そうだね」
「………」
絆される栞那と静まる寺内。
「朝早くからこんな遠出したお散歩の理由を聞かせてもらおうか?」
「………」
答える気配のない寺内を察して佐々木が口を挟む。
「その鉄砲ってここに来る途中で手に入れた物じゃないですよね」
「……あぁ、これはお前達と出会う前から拝借してたモンだ……気付いてたのか?」
「ホントに鉄砲とは思ってなかったけど、なにかしら隠し持ってる感じはあったから」
「そんな物騒な物ずっと持ってたんだ」
「……護身用だ」
「護身用って言ってもねぇ」
呆れた顔の栞那。
「この三日間で修二さんはそれを撃ったり脅しに使ったりなんてしてないでしょ。この状況、朱音ちゃんだって居るんだ、護身用ってのは理解できるよ」
「それは、そうかもね……それじゃあ、何で今それを出してるの?」
「……俺はただ、あのチビを守ってやらないとって思っただけなんだ」
寺内の顔つきが変わる。
「暗転事件が起こった時、チビを連れてこの公園を出てすぐに俺達は外国人の女に襲われた」
「襲われた?」
「あぁ、チビを連れ去ろうとしやがった」
「……公園を出てすぐって、暗転事件から数分後ってこと?」
佐々木は疑問を口にする。
「この公園で今後のことを考えてた。一時間くらい経ってたかもな」
「?」
質問の意図が分からない栞那。
「一時間か……それでも早すぎる」
「まぁ確かに、そんなに早い段階で他人に危害を加えようとする人は居なかったよね?」
「いや、私欲で動く人間はその時にはいたよ、でも誘拐紛いの回りくどいやり方を考えて実行するには早すぎるかなって」
「……まぁな」
「それで、外国人の話ですか……」
何かに納得した様子の佐々木。
「…?……つまりどゆこと?」
「俺は……昨日のお前達の話を聞いて、その外国人の女がチビの母親じゃないかって思った」
「!?」
驚く栞那。
「……襲われて、会話は出来なかったんですね」
寺内は小さく頷く。
「あの女が何て言ってたかは分からねぇ、言い合っているうちにチビに手を出そうとしやがったからもみ合いになった」
「……うん」
「俺は……俺はアイツを階段から突き落とした」
涙を浮かべる寺内の言葉に唾を呑む。
「その人は……?」
「死んだ……はずだ」
ため息をつく2人。
「殺すつもりなんて無かった、もみ合っている最中の事故だ。チビの母親なんて可能性はまったく考えてなかった」
「事故…か。確かに初期の段階で入れ替わりの法則性に気付くのは不可能。単純に考えれば自分と入替った相手は自分の身体の中に居るって思うよね」
佐々木は冷静に分析する。
「俺はもう、チビのそばに居てやれる資格はない……」
「それで出て行くって訳?……事故、だったんでしょ?」
栞那はばつが悪そうに言う。
「取り返しのつかない事だけど、だからこそ朱音ちゃんのそばに居てあげるのが償いになるんじゃないの?」
「違う、俺は……俺は選択肢をいつも誤る……」
寺内の目から涙が溢れる。
「初めてじゃない……俺は人殺しの死刑囚だ!暗転事件前は牢屋に入れられてた。暗転事件が起こって、チャンスだと思ったよ。人生をやり直すチャンスだって。でも違った。そんなチャンスでさえたった一時間で間違う」
「それで、どうするつもり!?」
「俺は、チビのそばに居てやれる資格どころか生きている資格すらねぇんだ!」
寺内は自身の頭に銃を突き付ける。
「修二!」
「動くなッ!」
慌てて駆け寄ろうとする栞那を制止する寺内。
「お前達には感謝しているよ。母親は死なせてしまったけど、チビだけでもまともなとこに預けられた」
寺内は引き金に指をかける。
「チビのこと、よろしくな」
寺内が歯を食いしばったその瞬間、ベンチの裏に小さな影が走る。
「GO!安田、GO!」
突然声を張り上げた佐々木に2人の意識が向く。
「!?」
「あぉーん!」
注意が逸れた隙を狙いベンチを飛び越え、銃を奪い取って着地する安田。
「べふっ」
拳銃を吐き捨てる。
「寺内修二、これは玩具じゃないぞ」
「首相!?」
「犬総理!?お前……」
「というかアブ君!ブリーダーか!」
「ふっ、練習したわけじゃないけど、うまくいきましたね、首相」
「うむ、慣れてしまえば犬の身体も良いものよ。元の身体より幾分機敏に動きよる」
「やや肥満体でしたからね」
「ふふっw確かに、Theオジサンって感じw」
「言ってくれるな」
一時の緊張が途切れて談笑が始まる中、腰を抜かしてへたり込む寺内。
「お、お前らなぁ……こっちは本気で」
「まあ、良いじゃないですか」
変わらず緊張感のない佐々木。
「そーだよ、まだ全然話してないのに勝手に死のうとすんなよな」
「……俺が何をしてきたか分かってねぇようだな」
「半分は知ってました」
「半分……?知ってた?」
「すまないが、寺内修二の過去は私から話させてもらった」
安田はその場にぺたんと座る。
「何で犬総理が知ってんだ?」
「修二、首相はね、修二が事件を起こした時の法務大臣だったんだよ」
「うむ、私はあの事件のことをよく知っている……強盗放火殺人。犯人は確かに寺内修二、キミだろう」
「………」
沈黙する寺内。
「しかし、最初に通報したのもキミじゃないのか?」
「?」
はてな顔の栞那をよそに続ける安田。
「あの事件、第一通報は匿名だった。弁護側の主張はなく、検察も表には出さなかったが発信元は資産家宅の固定電話。通報者は男性、当時資産家宅に居た男性は寝たきりで動けない老父と寺内修二のみ。私は裁判自体には係わっておらんのでな……寺内修二、何故自身の判決に有利になる主張をしなかった?」
「………」
「……修二…?」
「……婆さん一人だと思ったんだ……逃げるために火をつけて、婆さんもすぐに逃げると思ってた……」
項垂れる寺内。
「知らなかったんだ……寝たきりの爺さんが居たことも、婆さんが逃げずに爺さんと一緒に死ぬことを選ぶってのも!」
「!?」
「それで、死刑を受け入れたのか」
「あぁ……」
「……ふむ、取り返しのつかない過ちではあるが、私には情状酌量の余地があるようにも思える」
「今回の件も、混乱した状況下では正当防衛、不可抗力な部分が大きい。何より俺は、修二さんが過ちを後悔できる人で良かったって思う。だからこそ、死ぬこと以外で償うべきだと思うよ」
佐々木はやむを得ない事だと説得する。
「そうだよ、今は朱音ちゃんを第一に考えるのが償いになるんじゃないかな」
「……チビの中に居るのは誰なんだ…?」
暗い声で問いかける。
「……?」
「入替りの法則に当てはめれば鳥谷朱音はいくらでも入替りの相手がいるだろ……俺はもう償う機会すら失ってしまったんだ……」
「いや……」
絶望する寺内に佐々木は言う。
「朱音ちゃんは入替ってない可能性があるよ」
「………え?」




