第三世界#11
#11
お泊り
「にしししっw」
驚くひまりの様子を見て笑う音華。あまりの驚きように釣られて笑ってしまう。
「ふふっw、やめなさい音華」
「あははっw、ごめんなさいデス、隙だらけだったのでつい」
「ひまりさん、私からも謝るわ……この子は波瀬音華。私の同僚……後輩よ。こんな状況でも元気が有り余っててね。ごめんなさいね」
ひまりから音華を引き離して頭を下げさせる。
「え?あ、はぃ?波瀬、音華、さん?……あ、もしかして姫さんのお知り合い?」
「?……姫さん?」
ひまりの問いにキョトンとした顔の音華。
「え?あ、あの、私の身体の人なんですけど……?」
「ん?ヤ、全然知らんガ」
「え!?全然知らない人を驚かしたんですか!?」
「そだが」
当たり前のように答える音華により困惑するひまり。
「こういう子なの。許してあげてね…」
「えっと、とりあえず大丈夫そう?」
駆けつけて様子を見ていた佐々木が加わる。
「にししっw!騒がせてすまないネ、モブキャラ君」
「も、モブ……?」
「音華、失礼でしょ」
「ご、ごめんなさいでス」
叱られてしゅんとする音華。
「ま、まぁ、危険がなければ別にいいんだけどさ……」
佐々木は見つけてきたタオルを配る。
「キミは、波瀬さんは大丈夫?」
「うん?あぁ、私は濡れてないので不要でース」
佐々木の差し出したタオルを拒否する音華。
「……それで?何かあったの?」
音華に問いかける。
「はい!この雨は夜まで降るみたいなのデお泊りセットを用意してきまシた!」
「お泊り……セット?」
「え?ここに泊るつもり?」
音華の発言に驚く佐々木。
「どこで寝て起きようガ大差ないでス」
「それは、そうかもしれないけど。危険じゃない?」
「ここも施錠すればそれなりな安全地帯になるのでス」
「そ、そうかな?」
「ま、あんま気にすんなヨ」
「軽いなぁ……」
お気楽な音華に呆れ気味な佐々木。
「まぁ、そうね。これだけ降ってると移動するのも大変よね。……あなた達はどうする?」
ひまりと佐々木は顔を見合わせる。
「……えっとぉ…」
もじもじと外を見るひまりの視線の先に雷が鳴り響く。
「ひぇっ!」
その稲光と雷鳴に身体を大きく捩って驚くひまり。
「ふふっw」
「戻りたい、けど、この雨じゃあ危険だよなぁ……降りやむ頃には暗くなってるかもしれないし、ここで一泊することも考えようか」
「で、でも、栞那さん、心配しちゃいます?」
「そうかもね。雨が降る前に戻る予定だったし。詩織さんの薬のこともある、出来るだけ早く戻りたいね」
「クスリ?薬がどうかしましタ?」
お泊りセットを入れてきたのであろう大きなバッグを引きずって持ってくる音華。
「うん、お年寄りと身体が入替った人がいて、その人が持っていた薬がもうなくなっちゃって。探しに来たんだけど……結局見つけられませんでした…」
「なるほどでス。ではその高齢者は私ガ診てあげましょう」
「え?お医者さんだったんですか?」
音華の派手な見た目からはとてもそう思えないのだろう、驚きを隠せない佐々木。
「医者ではないですガ、医療のスペシャリストと思ってくれて良いでス」
『……』
「ホントに?助かるよ、いや、助かります。医療関係者だったんですね」
「いえース。ブラック・ジャックもびっくりでース」
「え?不安……。め、廻さん……?」
「ま、まぁ、そうね。嘘、ではないわ」
「わかりました、信じます。よろしくお願いします」
「オイ!はじめから信じとケや小僧!」
「あ、あはは……」
米田邸のリビングに寺内と朱音を連れた栞那が戻ってくる。
「ただいま戻りましたぁ……」
「あらお帰り。ちょうど降ってきたわね。濡れなかった?」
「はい、何とか間に合いました」
「そちらが修二さんと朱音ちゃんね」
「ウス、世話になります」
寺内は頭を下げる。
「はい、よろしくね。小さい子は久しぶりだわぁ。ちゃんとお世話できるかしら」
詩織が慣れた手つきで朱音をあやすと朱音はご機嫌な笑顔を見せてくれる。
「あぅぅww」
「良かった、元気そうね。話を聞いて少し心配してたのよ」
「昨日よりもだいぶ元気になったかな?」
朱音の頬をつつく栞那とそれを見守る寺内。
「ああ、初めて会った時くらいには回復してるんじゃないか」
「そう、ならしばらくは安心できるわね」
「そうですね……あれ?ひまりちゃんとアブ君はまだ戻ってませんか?……首相もいない?」
部屋を見渡して3人が居ないことに気付く栞那。詩織はソファーの隅に一度視線を移す。
「総理さんはそこで寝てるけど、2人はまだ帰らないわねぇ」
栞那は土砂降りとなった外を見る。
「あぁー、これは戻ってこれないかもなぁ」
「どこか出てるのか?」
「うん、詩織さんの薬を探しにね……詩織さん、体調は大丈夫ですか?」
「ええ、おとなしくしてたら楽になったわ。心配しないでね」
「それは良かったです。それじゃあ、私の考察は二人が戻ってからにするかぁ」
少し残念そうに肩をすくめる栞那。
「考察?」
「はい、実は入れ替わりについて気付いたことがあって……」
「すごいですね、音華さんって」
音華が持ってきた『お泊りセット』の中から寝袋を取り出して広げるひまり。
「寝袋に、アイマスクまで4人分あります」
「そうね、準備が良すぎるわね」
日が暮れて、軽く食事を済ませた一同は小さな明かりを頼りに行動する。
就寝の話が出た途端、音華は佐々木を引きずるようにして出て行った。
「ささ!お姉さま、野獣は隔離しました。安心してお休みください♡」
ばたばたと戻ってきた音華は寝袋の一つにすっと入り込む。
「か、隔離……?大丈夫なんですか……?」
「だいじょぶでース。別室で寝袋に詰めてきただけでースw」
「え、あ、あはは……」
「音華、あまり無茶しないでね」
「はいでスぅ~♡」
音華は率先して仰向けになり就寝姿勢をとる。
「さあお二人とも、明日は早いですよ。お休みなs……ぐぅ~…」
「え!?……も、もう寝ちゃったんですか?」
「ふふっw、そうなの。寝ると決めたら一瞬で寝れるの、便利でしょw」
「す、すごい特技ですね……」
「うん……それじゃあ、私達も寝ましょうか」
「あ……はい…」
ひまりは渋々と寝袋に潜り込む。
「?……どうかしたの?眠れない?」
「あ、ま、まだ眠くない……です」
「日が落ちたとはいえまだ早いものね。少しお話でもしましょうか」
「は、はい……あの、廻さんも医療関係者さんなんですか?」
ひまりは寝袋に口まで潜らせて話す。
「音華さんの先輩さん、ですよね」
「ええと、医者や看護師と違って、研究者、というかたちで間接的に関係者、かな?」
「け、研究者!……かっこいいですね!」
ひまりのテンションが上がる。
「そうかしら?」
「はい、社会の為に新しいことに挑戦するってかっこいいですよね」
「……現実はそんなものじゃないわ」
ひまりと同じように寝袋に深く潜る。
「やりたいことを自由にできるわけじゃないし、何度も何度も同じことを繰り返して、ゴールのないレースを続けてるみたい……」
「そう、なんですか……?」
「ええ……研究内容にもよるでしょうけど、日の目を見ることなんて滅多にないの……私なんてもう十年は……」
言いかけて、一筋の涙が頬を伝うことに気付く。
「め、廻、さん?」
「ご、ごめんなさい!こんな、泣くようなことでもないのにね」
「……わ、私は、それでも、かっこいいと思います」
ひまりは優しく言葉を掛ける。
「研究者は未来を切り開く仕事って、そう思ってます」
『!』
「誰かのために頑張り続けられるのって素敵じゃないですか」
ひまりは華やかな笑顔を見せる。
「……もし……その研究が誰かを苦しめることになるとしても?」
「え?……わ、悪い研究、なんですか……?」
「……いいえ……人の為の、世界の為の研究……もちろん、あなたにとっても……私は、私達はそう信じてる」
「世界の……?」
「私が成果を出さないと、苦しみ続ける人がいる………友達との約束も果たせない……」
「…………」
一呼吸置くひまり。
「わ、私は難しいことは分からないけど、廻さんが今まで頑張ってきたことが無駄にならなければいいと思います」
「…………」
「も、元の生活に戻れるまで、暫くかかりそうですし、研究は少しお休みしてみるのも良いかもです」
ひまりはどちらとも取れる言葉を紡ぐ。
「ふふっw……そうね。そうしてみるのもいいかもね」
拙くも励まそうとしてくれるひまりを見て気持ちが安らぐ。
「そそ、そうです、暗転事件は大変なことですし、今は研究のことを忘れて、じ、事件の真相解明に尽くしてみませんか?」
「真相解明?」
「はい、廻さん、賢いですし、佐々木さんも色々なことに気付いて、皆で協力すれば事件を解決できるかもです」
「そう……佐々木君……佐々木君ね。そういえば、あなた達どういう関係なの?」
「ふぇっ!?」
「仲は良さそうだけど、どうなのよw?」
問い詰める顔はにやけてしまっている。
「べべ、別にどうということもなな、ないですよ!ホントにさ、佐々木さんには助けてもらうばかりで…」
「佐々木さん、それに黒田さん。あなた達呼び方が堅いのよ、高校生でしょう?」
「は、はいぃ……あまり行けてませんけど……あ、でも、アウトローな人に捕まりそうになった時、一回だけ名前で呼んでもらえました」
「アウトrww、ふふっw……それは、脈アリかもね」
「え!?脈あるですか」
「ええ、呼んだ方も、たった一回呼ばれたことを覚えてた方もね」
ひまりははっとして顔を赤らめる。
「い、今のは誘導尋問です!し、証拠不十分です!」
寝袋に潜り込みジタバタと言い訳をする。
「ふふっw」
事件の渦中とは思えない穏やかな時間が過ぎていった。




