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第三世界  作者: EMR
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第三世界#9

#9


略奪者



 佐々木とひまり、二人は詩織の薬を探すために薬局やドラッグストアを回っていた。

「………あっ」

 声を漏らしたひまりの視線の先、商店のガラスを割って中の様子を窺っている少年がいる。

 街ではすでに略奪が行われており、炎を逃れた地区も荒れ始めていた。

 二人の目の前で何の躊躇もなくガラスを割った少年はそのまま商店に侵入していく。

「気を付けて、こっちもガラスが散乱してるから」

 佐々木は荒れた街の風景に呆けているひまりの気を引き締める。

「あ、はい、すみません……」

「みんな同じような状況だし、俺達だって綺麗事ばかり言ってられないからね」

「は、はいぃ……で、でも、やっぱり気が引けます」

「まぁ、割り切るしかないよね。そもそもお店の人が居ないし、身体が入替ってる人からすれば自分が持ってるお金だって他人のものになるから。総理(仮)が言うように今は自分たちのことを第一に考えていかないと」

「そ、そういえば、国で補償してくれるって言ってましたね」

「うん、(仮)の総理の発言だけどねw」

「はいw早くもとの日常に戻れるといいですね」

 二人は周囲を警戒しながら薬を探す。



「体調は良いのか?」

 米田家で待機しているように言われた安田は詩織の体調を気にしている。

「ええ、大丈夫。かなり歩いたからきっと疲れがでたのね」

「うむ、疲れているだけならよいが、薬の方が気になるべふっ。例え少年達が薬を持ち帰ったとしても、外見が同じに見えて成分が別物の場合もあるべふっ」

 リビングのソファに横になっていた詩織は体勢を変えて背もたれに体を預けて座る。

「安易に薬を飲むのは危険?」

「うむ、一般的に副作用のない薬でも、その身体にとっては毒となる場合もあるわん」

「そうねぇ、体調を見ながら服用していきましょう」

「それが良いだろう。少年達の好意を無下にすることになっても、身体を悪くするよりは良いはずだべふっ」

「あの子達、みんないい子みたいね」

「うむ、街で相手にされなかった私の話を初めて聞いてくれた者達だ」

「喋る犬なんて、ちょっとしたホラーよねw」

 詩織は笑顔を見せる。

「経験したことの無い者に、この辛さは分からんのだわん」 

「www」

 くすくすと笑う詩織の顔色は良くなりつつあり、それを見た安田も安心したように笑う。

「べふっ」



 佐々木とひまりが立ち去った薬局。

『………!?……故意による殺人を確認』

 街の惨状を見て歩く。

『略奪、暴力多数。エリア負荷増大……クリア』

 たった一日で変わり果てた街を確認する。

「はぁ……」

 幾度となく見てきた悲惨な現状に慣れることはなく、精神的な疲労が蓄積していくことを感じる。

『私は大丈夫……』

 自分の心を騙すかのように、何度も繰り返して調査を続ける。



 オフィス街某所

「ふぅ……」

 とあるオフィスビルの一画、裸で横たわる女性のそばで男は身嗜みを整える。

 黒髪を整え、ネクタイを締める。

『コンコン』

 ノックの音、それと同時に返事を待つことなく扉が開かれる。

「失礼します」

 長い黒髪、短いスカートにロングコートを合わせた少女が入室してくる。

縁陀えにしだ君か」

 少女はムッとした顔をする。

「名前で呼ばないでください………織田チーフ、定時報告が届いてないそうですが」

「あぁ、少々取り込み中だったものでね」

 織田と呼ばれた男が裸で横たわったままの女に視線を向けると縁陀もその女性を一瞥する。

「はぁ……業務連絡は怠らないようにしてください」

「老人達への報告なんて適当で構わないさ、それよりも縁陀君もどうだい?」

 縁陀の肢体をなめるように見て色目を使う織田だったが縁陀は当たり前にそれを断る。

「はぁ、ふざけないでください」

 ため息混じりにかわす縁陀に織田は熱弁で返す。

「ふんっ!この醜くも儚い世界を管理する者の特権だ!我々の営みでさえこの実験において意義のある事だろう!?」

 距離を詰める織田に警戒心を高めつつも淡々といなす。

「それよりも、定時報告の方をよろしくお願いします」

 縁陀はそれだけを告げて足早に部屋を後にする。

「縁陀君はつれないなぁ!」

 立去る縁陀に吐き捨てる。

 部屋を出て暫く歩く縁陀。

 突然立ち止まり憤怒の形相を見せる。

「………名前で呼ぶなっつってんだろうがボケが!!」



「あ、ありませんね。お薬……」

 佐々木とひまり、二人はドラッグストアで詩織の薬を探し続けていた。

「うん……薬がない、と言うより、物資の減りが速すぎる。たった一日でここまで減ってしまうなんて……」

「お店の、食料品のコーナーは空っぽでしたね」

「薬局の方も荒らされてたし、少し早すぎないか?」

「?」

 佐々木の言葉にはてな顔のひまり。

『ドン』

「!?」

 突然の銃声。しかし馴染みの無いその轟音に二人は驚き呆けるだけだった。

「てめぇら全員、手に持ったモン置いてこっから消えやがれ!」

 静まり返った店内、銃を手にした男が低く、しかしよく通る声で言い放つ。

「オラオラァ!ここにあるモンは全部俺等のモンだ!さっさと消え失せやがれ!」

 銃を持った男に続いてバットを振り回すヘルメットの男と小柄な少女、その他数名が店内に押し入る。

「はいはーい、怪我したくない人はさっさと出て行きなー」

 どこかやる気の無い小柄な少女は続ける。

「あー、それと、入団希望者、若干名募集中でーす」

 物陰に身を隠し様子を窺う佐々木とひまり。

「あ、あァ、ア、アウトローですよ!佐々木さん……!」

「黒田さん!出るよ」

 興奮気味のひまりを連れて佐々木は店を出るルートを確認しながら先導するが、バットを振り回す男に見つかり二人は道を塞がれる。

「おう兄ちゃん!いいモノ持ってんじゃん!」

「ッ!?俺!?なんも持ってないっすよ!俺達すぐ出て行くんで、通してもらっていいですか」

「いんや!そのお嬢ちゃんはコッチで貰ってくぜ!」

「ふぇッ!?」

 ひまりに目を付けた男はひまりに詰め寄る。

「この子は物じゃないだろ!」

 男との間に割って入り強い口調でひまりを庇いながら退路を探す佐々木。

「そーゆーことなら手伝うぜぇ兄弟!」

 突然現れた別のヘルメット男に退路を塞がれてしまう。

「げっ!何人いるんだよ!?」

「………」

 ひまりは震えて萎縮してしまっている。

「黒田さん、強行突破するよ!」

「ひゃい?」

「走って!!」

 佐々木はヘルメット男を突き飛ばして退路を作る。

「ひぃッ!?」

 しかし、ひまりは走り出せないでいた。

「ひまりッ!早く逃げるよ!!」

 佐々木はひまりの手を引いてその場から逃げ去る。

「兄弟!?大丈夫か!?」

 バットの男はヘルメット男に駆け寄る。

「クッ!あのガキやりやがったな!追うぞっ!!」

 悪漢達は逃げた二人の後を追いかける。

 その様子を見ていた小柄な少女。

「ボスー、いーのかー?あいつら調子乗りすぎじゃねーか?」

 銃を持った男をボスと呼ぶ。

「………」

「?」

 黙ったままの男を不思議に思う小柄な少女。

「いや、俺達はもう引き返すことはできない」

 少女にだけ聞こえるほどの声で伝えた後に大きく声を張る。

「グズグズするな!奪える物奪ったら撤退だ!」



 ドラッグストアを飛び出した二人は息を切らしながら走る。

「ひ、ひぃ!佐々木さん!追っかけてきてますよ!」

「しつこいな!まだ走れる?」

「は!はひ!」

 懸命に走る二人とぶつかりそうになる。

「!?」

「わっ!?ご、ごめんなさい」 

「?」

 さらに走り、二人は身を隠せる場所で息を整える。

「はぁ、はぁ……」 

 建物の陰に隠れて来た道を振り返る。

「さ、佐々木さん!さっきすれ違ったお姉さんがアウトローに絡まれてます!」

「あいつら!黒田さんはここで待ってて!」

 悪漢達目掛けて突進する佐々木。

「どりゃーー!」

 渾身の体当たりでヘルメット男を突き飛ばす。

「お姉さん!こっちに!」

「?」

 佐々木に手を引かれて走る。

「兄弟ーーーッ!」

 バットの男はヘルメット男に駆け寄る。

 悪漢達がもたつく間にひまりと合流して三人で裏路地に身を隠す。

「……成行きで来てしまったけど、そうね、助けてくれたのよね。ありがとう」

「い、いえ。なんか巻き込んじゃったみたいだし。黒田さんは大丈夫?だいぶ走らせちゃったけど」

「だ、だいじょぶです。姫さんの身体、強いです」

「…………」

「お姉さんは一人で何をしてたんですか?」 

「私?私は街を見て歩いてたの。この辺りも随分と様変わりしてしまったでしょ?」

「お姉さん、地元の人ですか?」

「ふふっw、廻京香よ。お姉さんはやめてちょうだい。地元じゃないのだけど、こっちには仕事でよく来るのよ」

「へぇ……あ、俺は佐々木アブシディです」

「わ、私は黒田ひまりと申します」

「…………」

 周囲を警戒しながら話を続ける。

「廻さんもやっぱり身体の入替りってしてます?」

「え?……えぇ、そうね。みんな誰かしらと入替ってるみたいね」

 佐々木の質問に答える。

「そうですね、俺は入替ってないんだけど、廻さんが今動かしてる身体の名前とかってわかりますか?」

「………?……ごめんなさい、身分証とか持ってないみたいで……。名前がどうかしたの?」

「どう、というか、思い当たるふしがあって、情報を集めたいんです……」

「………?」



 荒れた街の中、栞那は寺内と朱音を連れて米田家へ向かっていた。

「あれ?」

 栞那は過ぎ去ろうとする人影に声をかける。

「おーいっ!澪!みぃおぉーっ!」

 大きく手を振る栞那に一人の女性が振り向く。

「ん?少年、私の知り合い?」

「知り合い知り合い!栞那だよ、弓削栞那!」

「あー、ごめん、知らないわ」

 澪と呼ばれた女性は肩をすくめる。

「あちゃー、やっぱり澪も入替りかぁ」

 栞那も同じように肩をすくめた。

「残念、澪違いだったね」

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