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第三世界
プロローグ
マスターワールド
早朝。いつもより早く目が覚めたその日、屋敷の一室に目覚まし時計が鳴り響く頃にはもう朝の支度は完了していた。
「・・・・」
聴きなれた目覚ましを止めると、そばに置いてある一枚の写真に目が留まる。
学生の頃、歴史的建造物をバックに親友と二人で撮った写真だ。
親友との初めての旅行、「また行こうね」の約束は10年経った今もまだ果たされていない。
「・・・・」
写真の彼女をそっとなぞる。
日課となったそれを済ませて部屋を出る。
庭の片隅、土いじりが趣味の祖父が水を撒いている。
「おはよう、京香。もう出るのかい?」
こちらに気付いた祖父からの挨拶。
「お祖父様、おはようございます。目が覚めてしまったので、先に出てプロジェクトの準備をしておきます」
「そうかい?頑張ってくれるのは嬉しいが無理はしないでくれよ?」
「はい、私は大丈夫です」
私の答えに笑顔を返してくれる祖父。
「では、いってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
笑顔の祖父に別れを告げて家をあとにする。
『私は大丈夫』
その言葉が頭の中で繰り返し響いていた。