第89話 目的
お待たせしました、またまた1日遅れの投稿です。
水音ら勇者達の、まさかの敗北(?)からすぐに、春風はレナ、凛咲、レクシーを連れて、秘書の女性が用意した客室へと向かった。
それから暫くして、春風ともう1人の少年が戻ってくると、
「あの、俺も質問したい事があるので、聞いてもよろしいでしょうか?」
と、春風はオードリーに向かってそう尋ねてきたので、それを聞いたオードリーは嫌そうな顔をせずに、
「ええ、構いませんよ」
と答えた。
その言葉を聞いて、春風は先に「失礼します」と言うと、
「あの、今更な質問なのですが、『勇者』の皆さんやルーセンティア王国の王族だけでなく、ストロザイア帝国の皇族の方達までもがどうしてこちらにいるのでしょうか?」
と、水音達やイヴリーヌ、キャロラインら皇族達を見回しながらそう尋ねた。
その質問を聞いて、イヴリーヌが「それは……」と答えようとすると、キャロラインが静かに1歩前に出て、
「それは、あなたが一番ご存知じゃないかしら春風ちゃん……いえ、見習い賢者さん?」
と、穏やかな笑みを浮かべながら、春風に向かってそう尋ね返した。
その質問を聞いて、
(き、キャロライン様! そんないきなり……!)
と、水音が大きく目を見開きながら、心の中でそう叫ぶと、
「……そう呼ぶって事は、俺の事についてもう話は伝わったって事ですね?」
と、春風は相手を射抜くような鋭い視線をキャロラインに向けた。
その視線を受けて、一部を除いた周囲の人達がビクッとする中、キャロラインだけは落ち着いた表情で、
「あら、驚かないのね」
と言うと、春風は「はは」と気まずそうに笑いながら、
「まぁ、俺も堂々と名乗りましたから、話が伝わるのは当然ですよ。ただ、ストロザイア帝国にまで話が行ったのは、結構驚きましたけど」
と言ったので、それを聞いたキャロラインは、
「あら、うふふ……」
と笑った。
だが、そのすぐ後、春風は表情を変えて、
「それで、あなた方の目的は、『神々』の名の下に俺の事を捕らえに来たのですか? それとも……この場で俺を抹殺する為に来たのですか?」
と、先程以上に真剣な表情でそう尋ねてきた。
その瞬間、部屋の中が一気に緊張に包まれて、部屋の中にいる誰もがタラリと冷や汗を流した。特に、普段の春風を知る水音、歩夢、美羽を除いたクラスメイト達は、学校の中とは違う雰囲気を放つ春風圧倒されたのか、皆、ガタガタと体を震わせていた。
そんな状況の中、キャロラインが穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。
「安心して春風ちゃん。私達はそんなつもりでここに来たんじゃないのよ」
「?」
「私達はね、春風ちゃんを保護しに来たの」
「……保護、ですって?」
「ええ、そうよ。春風ちゃんが断罪官のギデオン大隊長を撃ち破った話は、ウィルフちゃん……ウィルフレッド王から聞いたわぁ。それでね、話し合った末に、あなたをストロザイア帝国に迎え入れる事が決まったの」
「冗談……ではないんですね?」
「もっちろんよぉ。というか、うちの夫……ストロザイア帝国皇帝ヴィンセントは、春風ちゃんの話を聞いて、あなたの事『欲しい!』って言って、もう迎え入れる気満々なんだからぁ。あ、当然、私もね」
と、警戒心剥き出しの春風と、穏やかな笑みを崩さないキャロラインのやり取りを聞いて、
(ぼ、僕も、何か言わなきゃ……)
と、水音も口を開こうとした、まさにその時、
「「ちょっと待ったぁ!」」
と、それまで黙って話を聞いていたヴァレリーとタイラーがそう声をあげたので、水音は思わず2人に視線を向けた。
「あら、ヴァレちゃんにタイちゃん、一体どうしたのぉ?」
と、キャロラインが2人に向かってニックネーム(?)で呼びながら尋ねると、
「勝手な事言ってんじゃないよ!」
「そうですとも! 幾ら皇族だからといって、僕達を無視してそのような事が許される訳ないでしょう!」
と、ヴァレリーとタイラーは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。それを見て、キャロラインが「あらあら……」と呟くと、春風は1歩前に出て、
「キャロライン様、あなたの仰ってる事が冗談ではないいうのは理解出来ましたが、先程も言いましたように、俺はこちらの2人のレギオンに所属している身です。その証拠に、こうして首輪までつけられてますから」
と、ヴァレリーとタイラーを交互に見ながらそう説明すると、最後に自身の左腕につけてる「首輪」と呼んだものを見せた。そこには、牛の頭が描かれた赤い腕章と、交差した2本の腕が描かれた金色の腕章があったので、
(え? あれって確か、レギオンに所属している証の腕章じゃ……?)
と、それを見た水音が首を傾げていると、
「「そうそう、彼にはもう首輪をつけて……ってコラァ! 大手レギオンの腕章を首輪呼ばわりするんじゃない!」」
と、ヴァレリーとタイラーが見事なノリツッコミをかましてきたので、
(え、えぇ?)
と、それを見た水音が若干引いていると、
「な、なぁ、水音」
と、いつの間にか隣に来ていた進が小声で話しかけてきた。
それに水音も、
「ん? どうしたの?」
と、同じく小声で返事すると、
「今のってあれか? 『俺は今、この人達に飼われてるんですよ』って意味なのか?」
と、進はチラッと春風を見ながら尋ねてきた。
その質問に対して、
「うーん。内容的にはそうだと思うんだけど……」
と、水音が何とも言えない微妙な表情でそう答えたので、
「ん? 『思うんだけど』って?」
と、進と同じくいつの間にか水音の隣に来ていた耕も、小声で水音に向かって尋ねてきた。
その質問に、水音は「えーっと……」と呟くと、
「春風はどっちかって言うと、人に飼われるタイプじゃないんだよ。仮に飼われたとしても、『もう良いかな』って判断したら、飼った奴に思いっきり噛み付いて『バーカ!』と言ってそいつのもとから去るタイプなんだ」
と、最後に「はは……」と乾いた笑いをこぼした。
その声が聞こえたのか、
「あ、コラ水音、聞こえてるぞ! 失礼な事言うな!」
と、春風は「失敬な!」と言わんばかりの表情で、水音に向かってそう怒鳴った。
その時だ。
「あのぉ……」
それまで黙って話を聞いていた、1人のクラスメイトが、恐る恐る「はい」と手を上げた。
謝罪)
大変申し訳ありませんでした。最近、体の調子が良くなくて、思うように話の流れを考える事が出来ず、結果こうして1日遅れの投稿が続いてしまいました。
本当にすみません。