第88話 勇者達、敗北する
お待たせしました、1日遅れの投稿です。
それから少しして、
「お、お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」
と、レナは水音を含めた周囲の人達に向かってそう謝罪した。
ただ、その瞳からはまだ涙が少し出ていたし、時折レクシーをチラッと見ては、すぐに視線を逸らしてしまうので、それを見た春風は何か察したかのような表情で、
「すみません、ちょっと彼女を落ち着かせたいのですが……」
と、レナを見ながらオードリーに向かってそう頼み込むと、
「わかりました。では客室を用意しますので」
と、オードリーは落ち着いた口調でそう言うと、秘書の女性を呼んで部屋を用意させた。
その後、
「お部屋の用意が出来ました」
と、秘書の女性がそう報告してきたので、
「ありがとうございます」
と、春風はそうお礼を言ってレナと共に部屋を出ようとすると、
「あの、ちょっと待ってください」
と、レクシーがそう声をかけてきた。
それに春風が、
「? 何でしょうか?」
と、返事すると、レクシーはキャロラインを見て、
「キャロライン様、無礼を承知でお願いしたい事があるのですが……」
と、申し訳なさそうに言った。
その言葉を聞いて、
「あら、良いわよレクシーちゃん。折角同族に会えたんですもの。いっぱい、お話ししてきなさいな」
と、キャロラインは満面の笑みでそう言ったので、
「はい。ありがとうございます」
と、レクシーはキャロラインに一瞬表情を明るくしたが、すぐに真面目な表情になってそうお礼を言った。
更に、
「それじゃあ、私もご一緒させてもらおうかしら」
と、今度は凛咲が「はい」と手を上げながらそう言ってきたので、
「え、どうしたんですか師匠?」
と、春風がそう尋ねると、
「私も色々と話を聞きたいし、もう何も起きないとは思うけど、一応念の為に、ね」
と、凛咲は最後に「ふふ」と笑いながらそう答えたので、
「わかりました」
と、春風がそう言って、レナ、凛咲、レクシーと共に部屋を出ようとしたその時、
「ま、待ってくれ!」
と、水音が大きな声で「待った」をかけてきた。
突然の事に春風は「うお!」と驚いた後、
「ど、どうしたんだよ水音? そんなにデカい声出して……」
と、春風は水音に向かってそう尋ねた。よく見ると、水音は何やら複雑そうな表情を浮かべていたので、
「水音?」
と、春風が首を傾げていると、水音は意を決したかのように一歩前に出て、
「れ、レクシー……さん」
と、レクシーに声をかけた。それにレクシーが「はい?」と返事したが、
「あ……あの……」
と、水音はそれ以上言葉が出ないのか、はたまた別の理由なのか、それ以上言葉を出せずにいた。
水音だけではない、進、耕、祭、絆、祈の5人も、レクシーを見て何か言おうとしたが、水音と同じように言葉を出せずにいた。
その様子を見て、レクシーは1歩前に出て、
「皆様、今まで黙ってて、申し訳ありませんでした」
と、深々と頭を下げながらそう謝罪した。
その謝罪を聞いて、水音や進達が「う、あ、あの……」と何か言おうとしたその時、
「あ、あの!」
と、イヴリーヌがそう声をあげてきたので、
「あらあら、どうしたのイヴりんちゃん?」
と、キャロラインが穏やかな口調でそう尋ねると、
「れ、レクシー様、確認したい事があるのですが」
と、イヴリーヌはレクシーに向かってそう言った。その際、「あれ? 無視かしら?」とキャロラインがそう呟いていたが、それをスルーして、
「はい、何でしょうか?」
と、レクシーがイヴリーヌに向かってそう返事すると、
「そ、その……レクシー様は、本当に、獣人なのですか?」
と、イヴリーヌは恐る恐るレクシーに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、レクシーは真っ直ぐイヴリーヌを見ながら答える。
「はい。私は帝国近衛騎士に所属している身ですが、人々からは『悪しき種族』と呼ばれている獣人の1人です」
その答えを聞いて、イヴリーヌはショックで膝から崩れ落ちそうになったので、傍に立つヘクターとルイーズが「い、イヴリーヌ様!」と大慌てでイヴリーヌを支えた。
それを見て、春風が「どうしたもんか」と言わんばかりの表情をしていると、
「ぼ、僕も、レクシーさんに聞きたい事があります!」
と、水音が再びそう声をあげてきたので、
「は、はい、何でしょうか?」
と、レクシーがビクッとしながらそう返事すると、水音は真っ直ぐレクシーを見て、
「そ、その……レクシーさん。獣人って色んなタイプがあるんですか? 例えば猫とか……」
と尋ねてきたので、
「ええ、一口に『獣人』と言いましても、様々な種が存在しています」
と、レクシーは真面目な表情でそう答えた。
すると、
「じ、じゃあ、あの! レクシーさんは、何の種の『獣人』ですか!?」
と、今度は耕が大きく声を張り上げながらそう尋ねてきたので、それにレクシーは再びビクッとしながら、
「私ですか? 一応この耳と尻尾の形でわかると思いますが、私は『狼』の獣人です。これでも、結構鼻がきく方なんですよ」
と、自身の耳と尻尾を触りながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「そ、それじゃあ……」
と、水音はそう呟いた後、後ろにいる進らクラスメイト達を見た。
すると、彼らはお互い顔を見合わせて、真剣な表情でコクリと頷くと、
『レナさん! そして、レクシーさん(とやら)!』
と、一斉に声をあげた。
それにレナとレクシーが、
「な、何!?」
「は、はい! 何ですか!?」
と、一歩引きながらもそう返事すると、水音達は息を荒くして、
『すみません! その耳と尻尾触って良いですか!?』
と、レナとレクシーに詰め寄ろうとした……が、レクシーはレナを庇うように前に出て、
「セクハラで訴えられたいのであれば、構いませんよ?」
と、笑顔でそう即答した。
その答えを聞いて、水音達は衝撃を受けた後、
『すみません! それは勘弁してください!』
と、一斉にその場に土下座で謝罪した。
この日、異世界から召喚された「勇者」達は、「悪しき種族」の1つ「獣人」に、ある意味敗北した。




