第86話 「師匠」との再会と……
女性冒険家、陸島凛咲。
彼女との出会いは3年前、水音が中学2年生の時だった。
以前の話で語った事だが、3年前に水音はとある「事件」に遭遇し、その際に自身の持つ「鬼」の力を暴走させてしまい、それを止めようとした母親を傷付けた。
その事にショックを受けた水音は、その罪悪感からいつ死んでもおかしくないくらいに心身共に弱りきってたが、その時現れた凛咲によって一命を取り留めた。
その後、彼女の1番弟子である春風と出会い、ちょっとした出来事を経て、水音は凛咲に弟子入りする事になり、以降は彼女と春風と共に世界中を回って様々な「冒険」をしていく事になる。
それから時は流れて、現在、異世界エルードにある「中立都市フロントラル」の市役所にて、
「……え? し、師匠ぉ!?」
(ど、どうして……この世界に師匠がいるんだ!?)
「「マリーさん!?」」
今まさに、目の前に現れた凛咲を見て、水音は大きく目を見開いた。勿論、水音だけでなく歩夢と美羽も、凛咲の存在に目を大きく見開いた。
その視線に気付いたのか、
「あら、水音に歩夢ちゃん、美羽ちゃんじゃない」
と、凛咲は変身したレナを押さえつけながら、水音達に向かってそう言うと、それに水音はハッとなって、
「え、ちょっと待って! どうして師匠がここに……って」
と、凛咲に向かって「どうして?」と尋ねようとしたが、凛咲と共にレナを押さえつけてるもう1人の人物の存在に気付いて、「誰だろう?」とその人物に視線を向けると、
「え、レクシーさん!?」
と、水音はその人物の名前を言った。
ストロザイア帝国近衛騎士、レクシーグラント。水音達が帝国で世話になった人物の1人で、向こうで共にハンター生活を送った少女でもある。
目の前に現れた彼女を見て、
(あ、あれ? レクシーさん、帝国に残った筈じゃ?)
と、水音は頭上に幾つもの「?」を浮かべた。何故なら、帝国を出る際に、一度も彼女の姿を見かけた事がなかったからだ。といっても、その時は騎士としての任務があったのだろうと、あまり気にしてはいなかったのだが。
そんな事を考えていると、
「あらあら、レクシーちゃんじゃないの。どうしてここに?」
と、キャロラインがレクシーに向かってそう尋ねてきた。その質問に対して、
「申し訳ありませんキャロライン様。実はエレクトラ様より『水音と祈に悪い虫がつかないように守ってほしい』という命令を受けていたのですが、キャロライン様に危機が迫っていましたので……」
と、レクシーは申し訳なさそうな表情でそう答えた。その答えを聞いて、
(ああ、ありがとうエレン。僕達の為に……)
と、水音はこの場にいないエレクトラに向かって心の中でお礼を言った。
そんな中、
「離せ! 離せぇえええええ!」
と、変身したレナが必死になって踠きながらそう叫んだが、凛咲とレクシーの力が強かったのか、どれほど暴れてもそこから脱出出来ずにいた。
そんなレナに向かって、
「コラコラ、落ち着きなさいって」
「彼女の言う通りです。どうか、落ち着いてください」
と、凛咲とレクシーがそう声をかけると、
「うるさい! 邪魔をするならアンタも……!」
と、レナはレクシーを睨み付けながらそう怒鳴った。それを見た春風も、
「レナ、やめるんだ……!」
と、レナを落ち着かせようとした、まさにその時、
「……多分、あなたは私を攻撃出来ないと思います」
と、レクシーは落ち着いた口調でそう言ったので、その言葉に水音が思わず「え?」と首を傾げると、レクシーはキャロラインを見て、
「……申し訳ありませんキャロライン様」
と、本当に申し訳なさそうな表情でそう謝罪し、
「大丈夫。私が許すから」
と、それを聞いたキャロラインが穏やかな笑みを浮かべながらそう返事したので、それにレクシーが「ありがとうございます」とお礼を言うと、スッと立ち上がってレナから離れた。
そして、レクシーは自身の首に付いているチョーカーを握り、それを外すと、彼女の体が眩い光に包まれたので、
(ま、眩しい! れ、レクシーさん!?)
と、水音は思わず両腕で顔を覆った。
その後、光が弱まり、
「皆さん、もう良いですよ」
というレクシーの声がしたので、水音は顔から両腕を退けると、
「……え? レクシー……さん?」
と、水音は彼女の姿を見て、大きく目を見開いた。
そう、今水音達の目の前にいるのは、確かにレクシー本人なのだが、その頭からは獣の耳がピョコンと生えて、お尻からも獣尻尾が生えていた。
「れ、レクシー、さん。その姿は……?」
と、祈がレクシーに向かってそう尋ねようとすると、
「嘘……まさか……獣人?」
と、レナが驚愕に満ちた表情でそう言ったので、その言葉に水音が「え?」とポカンとした表情になると、
「はい。私の名は、レクシー・グラント。ストロザイア帝国近衛騎士にして……あなたと同じ、獣人ですよ」
と、レクシーはレナに向かってそう自己紹介した。