第84話 王女との再会と、皇族達との邂逅
「「うーん……内緒!」」
「えぇ、そんなぁ!」
歩夢と美羽の言葉を聞いて、ガックリと肩を落とす春風。そんな春風を、水音が意地の悪そうな笑みを浮かべながら見ていると、
「……ぷ、くふふふ」
という笑い声がしたので、水音が思わず「ん?」と声がした方へと振り向くと、
「あ、す、すみません」
(あれ? イヴリーヌ様?)
そこには、恥ずかしそうに口元を押さえながら謝罪するイヴリーヌがいた。恐らく、今の春風達のやり取りを見て、思わず吹き出してしまったのだろうと水音はそう察したが、相手は王女様なので、この場は黙る事にした。
その後、
「お久しぶりです、雪村春風様」
と、春風に向かってペコリと頭を下げたイヴリーヌに、
「あ……あなたは……」
と、春風がそう呟くと、その場にいる水音ら11人の勇者達は、何かに気付いたかのようにハッとなった後、一斉に春風を見て身構えた。
何故、そんな事をしたのか?
それは、春風が「あなたは」と呟いた瞬間、水音達の脳裏に、ある言葉が浮かんだのだ。
そう、彼らは警戒している。この後に続く、春風の次の言葉を。
そして、水音達がゴクリと唾を飲む中、春風は口を開く。
「あなたは……ルーセンティア王国第2王女の、イヴリーヌ・ヘレナ・ルーセンティア様ですね?」
と、春風がイヴリーヌに向かってそう尋ねた瞬間、
『覚えてんのかいいいいいいいっ!』
と、水音達はそうツッコミを入れた。
繰り返して言うが、水音達は警戒していた。
そう、春風が「あなたは……」と呟いた後……。
ーー……どちら様ですか?
という言葉が来るのかを。
しかし、春風はイヴリーヌの事を覚えていたので、水音達はそれに驚きながらも、
(良かった、ちゃんと覚えてたんだ!)
と、内心ホッとしていたのだ。
一方イヴリーヌはというと、春風が自分を覚えてた事を喜んだが、すぐにハッとなって恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら「すみません」と謝罪した。
その後、イヴリーヌは真面目な表情になって、改めて春風に向かって自己紹介し、更に今共にこの場にいる2人の男女、王宮騎士にして小隊の隊長を務める男性のヘクターと、彼の副官を務める女性のルイーズを紹介した。
それを聞いた春風は、「うん」と小さく頷くと、その場に跪いて、
「お初にお目にかかります。自分は雪村春風と申します。今はこのフロントラルで、レギオン『紅蓮の猛牛』と、レギオン『黄金の両手』所属のハンターとして活動しています」
と、頭を下げた状態で、イヴリーヌ達に向かってそう自己紹介した。
そんな春風を見て、
(ああ、春風! なんて綺麗な姿勢を!)
と、水音が驚いていると、
「ま、まぁ、なんとご丁寧な姿勢を! あの、そんなにかしこまる必要はありません! どうかお顔を上げてください!」
と、イヴリーヌは大慌てで春風に顔を上げるよう促した。
その時だ。
「そうよぉ。イヴりんちゃんの言う通り、そんなにかしこまる必要はないわぁ」
と、キャロラインが春風にそう声をかけてきたので、
「イヴリーヌ様、ちょっと失礼をお許しください」
と、春風はイヴリーヌに下を向いたままイヴリーヌに向かってそう言い、イヴリーヌも「は、はい」と返事すると、春風は顔を上げて、
「あの……あなたは?」
と、キャロラインに向かってそう尋ねた。
それを聞いたキャロラインは、レオナルドとアデレードと共に春風に近づくと、
「初めまして、雪村春風さん。私の名前は、キャロライン・ハンナ・ストロザイア。『ストロザイア帝国』で、皇妃を務めているの。そして、この子達は私の息子と娘、レオナルドとアデレードよ。双子の兄妹なの。ああ、因みに、レオナルドがお兄ちゃんで、アデレードが妹ね」
と自己紹介しつつ、レオナルドとアデレードの事も紹介し、そんなキャロラインに続くように、レオナルドとアデレードも、春風に向かって自己紹介した。
その後、春風はキャロラインとイヴリーヌに「立ってほしい」とお願いされたので、
「わかりました」
と、春風はゆっくりと立ち上がると、キャロライン達に向かって改めて自己紹介した。
そして、
「それじゃあ、ちょっと失礼して……」
と、キャロラインは春風の顔や体をペタペタと触ると、「うん」と頷いて、
「可愛いいいいいいいっ!」
と叫ぶと、ガバッと春風に抱きついてきた。
突然の出来事に、水音だけでなく歩夢や進達もポカンとしていたが、
「……っ!?」
と、春風が気が付いたのをキッカケに、水音達もハッとなって、
『ゆ、雪村(君)ーっ!』
『は、春風(君)ーっ!』
「フーちゃんに抱き付いちゃ駄目ぇえええええええっ!」
と、一斉にキャロラインから春風を引き剥がそうとした。
(な、何をやってるんですかキャロライン様ぁ!?)
と、水音が必死になって春風を助け出そうとする中、
「ぷはぁ! ちょ、あの、キャロライン様……!」
と、春風がキャロラインに声をかけると、
「あら? なぁに春風ちゃん?」
と、キャロラインは春風を「ちゃん付け」で呼んできた。
「は、春風ちゃん!? は、は、離してくださいキャロライン様! というか、『ちゃん付け』はやめてください!」
と、春風は抱き締められた状態でキャロラインにそう懇願したが、
「え〜? 嫌よぉ。もう少し抱かせてよぉ。あと、『春風ちゃん』って凄く可愛いんだもぉん」
と、キャロラインはそう拒否しただけでなく、更に春風を抱き締める力を強くした。
それを聞いた水音は、
(あー、うん。確かに可愛いですね……)
と、一瞬納得の表情を浮かべたが、すぐにハッとなって、
「いや、そうじゃなくて! 僕からもお願いしますキャロライン様! すぐに春風を解放してください!」
と、水音もキャロラインに向かってそう懇願した。
その時だ。
「っ!」
水音は背後に強い怒りを感じたので、すぐに後ろを振り向くと、
「春風から離れろぉ!」
そこには、「怒り」に満ちた形相をした、見覚えのある1人の少女がいた。




