第76話 フロントラル、到着
(ここが、『中立都市フロントラル』……)
フロントラルに着くと、水音達を乗せた馬車は、都市の中へと続く大きな門を通った。
「い、いよいよだな」
「う、うん。そうだね」
『……』
この門を潜った先はどうなっているのだろうと、馬車内の水音達は皆、緊張のあまり自身の胸に手をあてていた。
そんな状況の中、
(本当に……ここに春風がいるのかな)
と、水音が不安そうな表情になっていると、馬車が都市の内部に出たので、水音達は窓を開けて内部の様子を見る事にした。
『うわぁ!』
そこは、帝都程文明が発達しているという訳ではないが、通りは多くの人達で賑わっていて、帝都とは違った活気に満ち溢れていた。
そんな都市内部の雰囲気に、
(す、凄いなここは)
と、水音が周囲を見回しながらそう感心する中、馬車はとある方向へと進んでいた。
(一体、何処に向かっているんだろう?)
と、水音がそう疑問に思ってから暫くすると、馬車がピタッと止まって、
「皆様、『市役所』に到着ました」
(ん? 市役所?)
と、御者が外から水音達にそう声をかけてきたので、水音達は頭上に「?」を浮かべながらも、馬車の扉を開けて外へと出た。
外には他の帝国の馬車も停まっていて、その中の1台から皇族であるキャロライン、レオナルド、アデレードが降りてきた。
その姿を見て、水音達がキャロラインのもとへと歩き出そうとしたその時、
「あ、オーイ、水音ちゃん達ー。こっちよぉ」
と、水音達の存在に気付いたキャロラインが腕を大きく振りながらそう言ってきたので、水音達は苦笑しながらも、その場からキャロラインの近くへと駆け出した。
キャロライン達の傍に着くと、水音は目の前に大きくて立派な建物がある事に気付いたので、
「あの、キャロライン様。この建物は一体……?」
と、キャロラインに向かってそう尋ねようとすると、水音が言い終わる前に、
「コレはね、『市役所』っていって、このフロントラルで最も重要な場所とも言えるところなの」
と、キャロラインは笑顔でそう答えた。
その答えを聞いて、水音ら6人の勇者達が「おぉ……」と感心していると、
「ん?」
と、祭がとある方向を見ながらそう声をもらしたので、
「どうした祭?」
と、絆が祭に向かってそう尋ねると、
「あれ……なんかこっちに向かってきてるよ」
と、祭はとある方向を指差しながらそう答えたので、水音達が「え?」とその指差した方へと視線を向けると、確かに、何か大きなものが水音達の方へと向かってきているのが見えたので、水音達は「何だ何だ?」とその大きなものをジィッと見つめた。
そして、だんだんとその大きなものが何なのかわかるようになると、
「あれは……馬車?」
と、水音はボソリとそう呟いた。
そう、その大きなものの正体は、水音達が乗ってたものとは少々形が違うが、紛れもなく馬車だったのだ。それも1台ではなく、パッと見ただけでも2、3台くらいこちらに向かって来てるのが見えたので、
(え、えぇ? 何なんだよ一体!?)
と、水音は戸惑いの表情を浮かべながらオロオロしだした。当然、進達も同様だ。
すると、
「うふふ、落ち着いてみんな。あれは大丈夫だから」
と、キャロラインが小さく笑いながらそう声をかけてきたので、水音達は彼女の言葉に従って気持ちを落ち着かせた。
それから間もなくして、新たな馬車が水音達の近くに停まった。2、3台くらいと思ってたら、実際はそれ以上来ていたのがわかって、水音は「うわぁ」と少しだけ引いたが、
(……あれ? あの紋章は……)
よく見ると、その馬車には見覚えのある「紋章」が見えたので、水音は「何処で見たっけ?」と首を傾げていると、
「さぁみんな、行くわよ」
と、キャロラインはそう言いながら笑顔でその場から新たに停まった馬車の方へと歩き出したので、水音達は少し戸惑いながらも彼女の後を追った。
キャロラインと共に馬車に近づくと、その中の1台の扉が開かれて、そこから立派な鎧に身を包んだ男女と、彼らに手を引かれるように、1人のドレス姿の少女が出て来た。
その少女の顔を見た瞬間、
「あれ? あの子は……」
「あ、ああ。確か……」
と、耕と進は何かを思い出したかのようにそう口を開いた。
当然、
(……そうだ。思い出した)
それは水音も同様だった。
そして、それをキッカケに、
(あれは、『ルーセンティア王国』の紋章だ)
水音はその馬車が何処のものかも思い出した。
そう。その馬車は、自分達をこの世界に召喚したもう1つの大国『ルーセンティア王国』の馬車だったのだ。